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第一章 初戦
第一章 初戦 2
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明治27年(西暦1894年)・3月上旬、沖縄県・那覇・東村――
晴れた昼間、中心街には琉球建築の商店と人家が建ち並び、多くの人々が未舗装の通りを行き交っていた。
人々の多くは老若男女を問わず、前合わせの着物に身を包んでいる。
着丈はふくらはぎから足首まで様々な長さに仕立てられ、ズボン状の琉球袴が見えないように服装を整えている者が多かった。
着物を尻端折りして上衣とし、琉球袴が露出するような装いの者もしばしば見受けられる。
髪型は男女共に近代風の者が増え始めていたが、成人男性であればカタカシラ、成人女性であればイナグカラジ、子どもであれば真結いや端結いと呼ばれる髷をそれぞれ結っている者もいまだに多かった。
そんな中、とある茶屋では二人の男が向かい合って座敷に胡坐をかき、白い汲み出し茶碗でさんぴん茶を飲んでいる。
男の1人は短い黒髪と切れ長の目が印象的で、鉛色の上衣と同色の細帯、白い長ズボン状の琉球袴を身に着けていた。
もう1人の男は、暗褐色の短髪と大きく凛とした目が若々しい雰囲気を感じさせ、黄緑色の上衣と同色の細帯、白い長ズボン状の琉球袴を身に着けている。
暗褐色の髪の男はさんぴん茶を一口飲むと、茶碗を目の前に置いた。
「なあ、守央。俺たちも頑固党の調査は何度かしてきたが、実際国内に潜伏する奴等は減ってきてるのか?」
「一時期と比べて表立った独立運動は減ってるようだが、清に亡命した士族の一部がこっちへ戻って来てるらしい」
「脱清人ってやつか。まったく、懲りねぇ奴等だぜ」
「生活が窮迫してるのは、開化党も頑固党も同じだ。王府の解体後に食い扶持を失った士族の大半は、新しい生業を探すのに苦労してる。百姓たちも、相変わらずまともな仕事がなくて貧しいままだ。例外的に、間切や村の地方役人だったごく一部の百姓は再任されたらしいが……」
「王府に勤めてた役人の連中はどうなったんだ?」
「ほとんどは免職だ。一部の連中は県庁に再雇用されたが、大和人が上層部でのさばってる以上好き勝手はできないだろう。地頭職に就いてた王族や上級士族たちも領地を取り上げられたとはいえ、旧慣温存政策の一環でいまだに金禄を貰ってる」
「羨ましいねぇ。俺ら筑登之親雲上を含めた一般士族は、多少の下賜金が一時給付されただけで王朝時代からずっと無禄なんだぜ? 今でもあくせく働かねぇと、マジで金に余裕がねぇってのによ」
「ああ、確かに世知辛い世の中だ」
守央と呼ばれた黒髪の男は、さんぴん茶を飲み干して茶碗を目の前に置く。
「さて、世璋。そろそろ行くか」
「おう」
世璋と呼ばれた暗褐色の髪の男は、守央と共に立ち上がった。
すると突然、外から陶器が割れるような音に続いて男の怒鳴り声が聞こえてくる。
晴れた昼間、中心街には琉球建築の商店と人家が建ち並び、多くの人々が未舗装の通りを行き交っていた。
人々の多くは老若男女を問わず、前合わせの着物に身を包んでいる。
着丈はふくらはぎから足首まで様々な長さに仕立てられ、ズボン状の琉球袴が見えないように服装を整えている者が多かった。
着物を尻端折りして上衣とし、琉球袴が露出するような装いの者もしばしば見受けられる。
髪型は男女共に近代風の者が増え始めていたが、成人男性であればカタカシラ、成人女性であればイナグカラジ、子どもであれば真結いや端結いと呼ばれる髷をそれぞれ結っている者もいまだに多かった。
そんな中、とある茶屋では二人の男が向かい合って座敷に胡坐をかき、白い汲み出し茶碗でさんぴん茶を飲んでいる。
男の1人は短い黒髪と切れ長の目が印象的で、鉛色の上衣と同色の細帯、白い長ズボン状の琉球袴を身に着けていた。
もう1人の男は、暗褐色の短髪と大きく凛とした目が若々しい雰囲気を感じさせ、黄緑色の上衣と同色の細帯、白い長ズボン状の琉球袴を身に着けている。
暗褐色の髪の男はさんぴん茶を一口飲むと、茶碗を目の前に置いた。
「なあ、守央。俺たちも頑固党の調査は何度かしてきたが、実際国内に潜伏する奴等は減ってきてるのか?」
「一時期と比べて表立った独立運動は減ってるようだが、清に亡命した士族の一部がこっちへ戻って来てるらしい」
「脱清人ってやつか。まったく、懲りねぇ奴等だぜ」
「生活が窮迫してるのは、開化党も頑固党も同じだ。王府の解体後に食い扶持を失った士族の大半は、新しい生業を探すのに苦労してる。百姓たちも、相変わらずまともな仕事がなくて貧しいままだ。例外的に、間切や村の地方役人だったごく一部の百姓は再任されたらしいが……」
「王府に勤めてた役人の連中はどうなったんだ?」
「ほとんどは免職だ。一部の連中は県庁に再雇用されたが、大和人が上層部でのさばってる以上好き勝手はできないだろう。地頭職に就いてた王族や上級士族たちも領地を取り上げられたとはいえ、旧慣温存政策の一環でいまだに金禄を貰ってる」
「羨ましいねぇ。俺ら筑登之親雲上を含めた一般士族は、多少の下賜金が一時給付されただけで王朝時代からずっと無禄なんだぜ? 今でもあくせく働かねぇと、マジで金に余裕がねぇってのによ」
「ああ、確かに世知辛い世の中だ」
守央と呼ばれた黒髪の男は、さんぴん茶を飲み干して茶碗を目の前に置く。
「さて、世璋。そろそろ行くか」
「おう」
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すると突然、外から陶器が割れるような音に続いて男の怒鳴り声が聞こえてくる。
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