26 / 27
第26話 それは、とても悲しい何か
しおりを挟む
町長であるゴーインは自警団に逮捕され、人攫いはすぐに壊滅した。それは、一人の男が自らの命を懸けてまで自警団に証拠を提供してくれたおかげだった。
その者の死から一年。人攫いが壊滅したおかげで、自警団の仕事は以前よりもだいぶ少なくなっていた。
「では、行ってきますね」
副団長であるユズハは余りにも暇だったため、予定の時間よりも早く見回りをすることにした。ベルナルドに書類を提出を出すついでに、見回りに行ってくると報告して団長室から出ようとする。
「……ユズハ」
「はい? なんですか?」
不意にベルナルドに呼び止められ、ユズハは振り向く。机に積んである大量の書類をいつも処理しているベルナルドが、珍しく手を止めてこちらを見ていた。その表情は、どこか悲しげだ。
「いや……なんでもない」
ユズハの顔を見て、言いたかったことが言えなかったのか、ベルナルドは口を閉じた。
「そうですか。では、行ってきます」
「ああ……気を付けろ」
ベルナルドは一体何を言いたかったのか。それを理解しているユズハは、それでも団長室から出た。
(わかってますよ、団長……休めって言いたいんでしょう……)
最後に休暇を取ったのはいつだったか。それを思い出せないぐらい、ユズハは自警団の仕事に明け暮れていた。そうでもしなければ、気が狂ってしまいそうだから。
「ふぅ……」
ため息を吐き、ユズハは町へと見回りに出た。
町を見て回れば、元気に駆け回る子供たちもいれば、団子屋で呑気に茶を飲んでいる老人もいて、一言で言えば、平和がそこにあった。
桜美川で氷結の義賊の死体が発見されてから二年が経ったせいか、もはや町で氷結の義賊の話題が出ることはほとんど無い。ユズハには、それが彼の生きていた証が消えて無くなっていくようで嫌だった。
今日のユズハの見回りの道は、いつもと違う。今日は早めに出てきた分、ある場所に立ち寄ろうと決めていたのだった。
程なくしてユズハはその場所に着く。
「久しぶりですね、リリィちゃん、リアム……」
そこは墓場であり、ユズハの目の前には、リリィの墓と、その横に新たに作られたリアムの墓があった。最期は満足したような笑みで亡くなった、ユズハの想い人の墓だ。
「見てますか、リアム。あなたのおかげで町は平和になりましたよ」
最近になり、やっとリアムの死を受け入れることができたユズハは、優しげにリアムの墓に言葉をかける。しかし、言葉に答えるものは誰もいない。
「それだけじゃない。私の復讐だって、貴方のおかげで果たすことができた……」
静けさが支配する墓場で、ただユズハは想い人の墓を見つめる。誰かが答えてくれるわけでもない。それでも、言葉をかけることで、リアムと話しているような気になれて、ユズハは少しだけ気が楽になるのだった。
「復讐はできたのに、以前よりも今の方が寂しいです……」
悲しげに口にしたその言葉が、ほとんど無意識から出たものだとユズハは気づき、目に涙がたまってくる。
「うぅ……復讐よりも貴方の方が大切だって気づくことができたのにっ……もう会えないなんて……もっと早く気づいていれば、貴方を失わずに済んだかもしれない……!」
ユズハの中で後悔は膨れ上がり、彼女自身を苦しめる。己の復讐よりも彼の方が大事だともっと早く気づいていれば、彼は死ななかったのかもしれない。ユズハの瞳から、大粒の涙がぽろぽろと流れ出る。どれだけ拭おうと、涙は止まらずに溢れ出てくる。
「会いたいよぉ、リアム……!」
どんなに願っても、もう会えないことは分かっている。神様でも悪魔でも何でもいい。この願いを叶えてとユズハが泣いても、誰も救いはしてくれない。彼女を救うことができるのは、亡くなったリアム本人だけだ。
「桜を一緒に見たいよぉ……!! うあぁぁ、リアムぅぅ!!」
復讐を果たしたというのに、それ以上に心が空っぽになってしまった少女は、想い馳せていた男の墓の前で、その名を泣き叫び続けるのだった。
「って夢を見たんですよ」
「……ぅん?」
その者の死から一年。人攫いが壊滅したおかげで、自警団の仕事は以前よりもだいぶ少なくなっていた。
「では、行ってきますね」
副団長であるユズハは余りにも暇だったため、予定の時間よりも早く見回りをすることにした。ベルナルドに書類を提出を出すついでに、見回りに行ってくると報告して団長室から出ようとする。
「……ユズハ」
「はい? なんですか?」
不意にベルナルドに呼び止められ、ユズハは振り向く。机に積んである大量の書類をいつも処理しているベルナルドが、珍しく手を止めてこちらを見ていた。その表情は、どこか悲しげだ。
「いや……なんでもない」
ユズハの顔を見て、言いたかったことが言えなかったのか、ベルナルドは口を閉じた。
「そうですか。では、行ってきます」
「ああ……気を付けろ」
ベルナルドは一体何を言いたかったのか。それを理解しているユズハは、それでも団長室から出た。
(わかってますよ、団長……休めって言いたいんでしょう……)
最後に休暇を取ったのはいつだったか。それを思い出せないぐらい、ユズハは自警団の仕事に明け暮れていた。そうでもしなければ、気が狂ってしまいそうだから。
「ふぅ……」
ため息を吐き、ユズハは町へと見回りに出た。
町を見て回れば、元気に駆け回る子供たちもいれば、団子屋で呑気に茶を飲んでいる老人もいて、一言で言えば、平和がそこにあった。
桜美川で氷結の義賊の死体が発見されてから二年が経ったせいか、もはや町で氷結の義賊の話題が出ることはほとんど無い。ユズハには、それが彼の生きていた証が消えて無くなっていくようで嫌だった。
今日のユズハの見回りの道は、いつもと違う。今日は早めに出てきた分、ある場所に立ち寄ろうと決めていたのだった。
程なくしてユズハはその場所に着く。
「久しぶりですね、リリィちゃん、リアム……」
そこは墓場であり、ユズハの目の前には、リリィの墓と、その横に新たに作られたリアムの墓があった。最期は満足したような笑みで亡くなった、ユズハの想い人の墓だ。
「見てますか、リアム。あなたのおかげで町は平和になりましたよ」
最近になり、やっとリアムの死を受け入れることができたユズハは、優しげにリアムの墓に言葉をかける。しかし、言葉に答えるものは誰もいない。
「それだけじゃない。私の復讐だって、貴方のおかげで果たすことができた……」
静けさが支配する墓場で、ただユズハは想い人の墓を見つめる。誰かが答えてくれるわけでもない。それでも、言葉をかけることで、リアムと話しているような気になれて、ユズハは少しだけ気が楽になるのだった。
「復讐はできたのに、以前よりも今の方が寂しいです……」
悲しげに口にしたその言葉が、ほとんど無意識から出たものだとユズハは気づき、目に涙がたまってくる。
「うぅ……復讐よりも貴方の方が大切だって気づくことができたのにっ……もう会えないなんて……もっと早く気づいていれば、貴方を失わずに済んだかもしれない……!」
ユズハの中で後悔は膨れ上がり、彼女自身を苦しめる。己の復讐よりも彼の方が大事だともっと早く気づいていれば、彼は死ななかったのかもしれない。ユズハの瞳から、大粒の涙がぽろぽろと流れ出る。どれだけ拭おうと、涙は止まらずに溢れ出てくる。
「会いたいよぉ、リアム……!」
どんなに願っても、もう会えないことは分かっている。神様でも悪魔でも何でもいい。この願いを叶えてとユズハが泣いても、誰も救いはしてくれない。彼女を救うことができるのは、亡くなったリアム本人だけだ。
「桜を一緒に見たいよぉ……!! うあぁぁ、リアムぅぅ!!」
復讐を果たしたというのに、それ以上に心が空っぽになってしまった少女は、想い馳せていた男の墓の前で、その名を泣き叫び続けるのだった。
「って夢を見たんですよ」
「……ぅん?」
0
お気に入りに追加
90
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します
かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。
追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。
恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。
それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。
やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。
鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。
※小説家になろうにも投稿しています。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる