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第11話 悲歎の雨の中で
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「……」
土砂降りの雨の中、一人の青年が傘も差さずに墓の前で座っていた。その墓は青年の家族の墓であり、今さっき建てられたばかりだ。
そんな青年に、同じように傘を差していない少女が近づいてきた。
雨でずぶ濡れな少女は、自警団の制服を纏ったユズハだ。そして、家族の墓の前で打ちひしがれる青年はリアムであり、その様は、見ているだけで彼の抱える絶望を嫌でも感じ取ることができる。
「あの時、私は言いましたよね?」
しかし、最愛の家族を亡くしたリアムにかけられる言葉は、同情の言葉ではなく、怒りの含まれた言葉だった。
「貴方の行動のせいで人攫いを逃すことになったら、私は貴方を絶対に許さないって」
「ユズハ……」
リアムはそこで初めて、ユズハへ顔を向ける。土砂降りの雨のせいで確かには分からないが、ユズハは涙を流しているように見えた。肩を震わせ、彼女はリアムをキッと睨む。
「なぜですか……なぜ勝手な行動をしたんですかっ!!」
雨が一層強くなる中、彼女は濡れることなど構わずにリアムに怒りをぶつける。
「あなたが勝手な行動をしなければ、やつらに気付かれることなんてなかった!!」
リアムは家族の墓の前で座っているだけで何も喋ろうとしない。ユズハはそんなリアムの態度に怒りを抱き、さらに詰め寄る。
「あと一歩のところでやつらを殲滅できた! 親を殺したあの男に復讐できたというのにっ!!」
ユズハがリアムの胸ぐらを掴み、無理やり立たせた。
「あなたのせいであの男を取り逃がした!! どうしてくれるんですか!」
「……どうしてくれるのか、か」
リアムは歯を食いしばり、ぎゅっと拳を握りしめる。
「なら……お前は、どうしてくれる」
「何ですって?」
「お前が……!」
「っ……く!?」
ユズハに胸ぐらを掴まれていたリアムが、ユズハの胸ぐらを力強く掴み返した。ユズハはリアムの胸ぐらから手を離し、代わりに彼の手首を掴むが、ビクリともしない。
「お前があの時、俺の邪魔さえしなければ!!」
雨が降る中、不思議とリアムの声は響く。
雨粒が落ちる音が支配するこの瞬間は、世界にリアムとユズハしか居ないような錯覚を二人に感じさせる。だからこそ、お互いの感情の変化は普段よりも鮮明に感じられて。
リアムがぶつけてくる怒りに、ユズハは黙って聞くことしかできなかった。
「あと一秒でもあれば、リリィを救うことができたんだよ!! 一秒……たった一秒、俺が遅かったから、リリィは殺された……!」
あの時、リアムはリリィの叫ぶ声が聞こえるほど近くにいた。あと数歩で、リリィがいた部屋に辿り着くことができていた。だからこそ、後悔は果てしなく、リアムの心をひたすらに苦しめる
「お前があの時、俺の邪魔さえしていなかったら、あの時の数秒さえあれば……! リリィを助けることが、できたかもしれないっ!」
もしもの話をしても意味などない。そんなことは、叫んでいるリアム自身も分かっている。だが、そう思わずにはいられない。それはしょうがないことだったとしても、後悔せずにはいられない。
たとえ結果論だったとしても、ユズハがリアムの邪魔をしたのは本当のことで。リアムの言葉は、ユズハの心に響く。
「分かってるさ……お前を責めるのは間違っているって。悪いのは、間に合わなかった俺だってことも」
違う。悪いのは、リアムではなく人攫いだ。そう思っても、ユズハはそれを言葉にすることはできなかった。今さっきまで彼を責めていた自分に、それを言う資格がないと思ってしまったから。
「でも、“元”相棒のお前なら、俺の気持ちくらい分かってくれるだろ?」
「……」
胸ぐらから手を離され、ユズハは力なく座り込んだ。彼女にはもう立つ気力すらない。
「さよならだ、ユズハ。もうお前と話すことはないだろうな」
一方的なお別れを告げて、リアムはその場から離れていった。
ユズハはただ黙って、彼の遠ざかっていく背中を見つめることしかできない。
やがて雨のせいか、涙のせいか、どっちのせいか分からないが、ユズハの視界から、リアムの姿がぼやけて消えていった。
土砂降りの雨の中、一人の青年が傘も差さずに墓の前で座っていた。その墓は青年の家族の墓であり、今さっき建てられたばかりだ。
そんな青年に、同じように傘を差していない少女が近づいてきた。
雨でずぶ濡れな少女は、自警団の制服を纏ったユズハだ。そして、家族の墓の前で打ちひしがれる青年はリアムであり、その様は、見ているだけで彼の抱える絶望を嫌でも感じ取ることができる。
「あの時、私は言いましたよね?」
しかし、最愛の家族を亡くしたリアムにかけられる言葉は、同情の言葉ではなく、怒りの含まれた言葉だった。
「貴方の行動のせいで人攫いを逃すことになったら、私は貴方を絶対に許さないって」
「ユズハ……」
リアムはそこで初めて、ユズハへ顔を向ける。土砂降りの雨のせいで確かには分からないが、ユズハは涙を流しているように見えた。肩を震わせ、彼女はリアムをキッと睨む。
「なぜですか……なぜ勝手な行動をしたんですかっ!!」
雨が一層強くなる中、彼女は濡れることなど構わずにリアムに怒りをぶつける。
「あなたが勝手な行動をしなければ、やつらに気付かれることなんてなかった!!」
リアムは家族の墓の前で座っているだけで何も喋ろうとしない。ユズハはそんなリアムの態度に怒りを抱き、さらに詰め寄る。
「あと一歩のところでやつらを殲滅できた! 親を殺したあの男に復讐できたというのにっ!!」
ユズハがリアムの胸ぐらを掴み、無理やり立たせた。
「あなたのせいであの男を取り逃がした!! どうしてくれるんですか!」
「……どうしてくれるのか、か」
リアムは歯を食いしばり、ぎゅっと拳を握りしめる。
「なら……お前は、どうしてくれる」
「何ですって?」
「お前が……!」
「っ……く!?」
ユズハに胸ぐらを掴まれていたリアムが、ユズハの胸ぐらを力強く掴み返した。ユズハはリアムの胸ぐらから手を離し、代わりに彼の手首を掴むが、ビクリともしない。
「お前があの時、俺の邪魔さえしなければ!!」
雨が降る中、不思議とリアムの声は響く。
雨粒が落ちる音が支配するこの瞬間は、世界にリアムとユズハしか居ないような錯覚を二人に感じさせる。だからこそ、お互いの感情の変化は普段よりも鮮明に感じられて。
リアムがぶつけてくる怒りに、ユズハは黙って聞くことしかできなかった。
「あと一秒でもあれば、リリィを救うことができたんだよ!! 一秒……たった一秒、俺が遅かったから、リリィは殺された……!」
あの時、リアムはリリィの叫ぶ声が聞こえるほど近くにいた。あと数歩で、リリィがいた部屋に辿り着くことができていた。だからこそ、後悔は果てしなく、リアムの心をひたすらに苦しめる
「お前があの時、俺の邪魔さえしていなかったら、あの時の数秒さえあれば……! リリィを助けることが、できたかもしれないっ!」
もしもの話をしても意味などない。そんなことは、叫んでいるリアム自身も分かっている。だが、そう思わずにはいられない。それはしょうがないことだったとしても、後悔せずにはいられない。
たとえ結果論だったとしても、ユズハがリアムの邪魔をしたのは本当のことで。リアムの言葉は、ユズハの心に響く。
「分かってるさ……お前を責めるのは間違っているって。悪いのは、間に合わなかった俺だってことも」
違う。悪いのは、リアムではなく人攫いだ。そう思っても、ユズハはそれを言葉にすることはできなかった。今さっきまで彼を責めていた自分に、それを言う資格がないと思ってしまったから。
「でも、“元”相棒のお前なら、俺の気持ちくらい分かってくれるだろ?」
「……」
胸ぐらから手を離され、ユズハは力なく座り込んだ。彼女にはもう立つ気力すらない。
「さよならだ、ユズハ。もうお前と話すことはないだろうな」
一方的なお別れを告げて、リアムはその場から離れていった。
ユズハはただ黙って、彼の遠ざかっていく背中を見つめることしかできない。
やがて雨のせいか、涙のせいか、どっちのせいか分からないが、ユズハの視界から、リアムの姿がぼやけて消えていった。
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