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60 捕らぬ狸でぬか喜び
しおりを挟む入浴後に食事を済ませ、今は寝る前のまったりタイム
髪をドライヤーで乾かし、お洋服はジェニー姐さんに清潔(クリーン)の魔法をかけてもらいました
ちなみに今夜のお夕飯は[外食]から選びました
「今日は一日動きっぱなしだったでしょ?」
「だからガッツリな感じでお肉をいただきたいわね?」
そんなジェニー姐さんのご要望にお応えして、
地元で割と有名なハンバーグチェーン店のメニューからチョイスです
ジェニー姐さんには、
【拳骨ハンバーぐぅー250gランチ パンセット 1,150円】
一方ワタシは、
【一口素敵ステーキ140gランチ 刻みわさび&おろしポン酢 ライスセット 1,380円】
こんな感じにしてみました
「凄いわね、こんなにジューシーで、しかも柔らかいお肉なんて!」
そんな感想と共に、ナイフとフォークが乱れ舞います
熱された鉄板の上でジュワジュワ~と音を立てているお肉の魅力に、
ジェニー姐さんもまっしぐらな感じです
ワタシはそれほど量を食べられないので、ちょっと少なめなステーキです
わさびとおろしポン酢で和風テイスト
なかなか美味しゅうございます
「もう少し、何か口にしたいわね」
もうすぐごちそうさま、そんなタイミングで、ジェニー姐さんからの追加要求です
「何がいいです?」
「そうね~、ちょっとほっこり温まる感じのモノなんてあるかしら」
そんなご要望には、同じお店のサイドメニュー
【梅とシラスの卵雑炊 580円】
「ちょっと多いから、スキニーも一緒に食べましょ?」
そんな感じでふたりでシェアして、お腹いっぱいなのでした
そんなお夕食も終わり、後は寝るだけ、そんな時間帯
ワタシはちょっとほくそ笑みながらあるモノを手にします
それは、ジェニー姐さんと同じマジックバッグ
【買い物履歴】で購入して、複製した感じになっちゃったヤツです
「ふっふっふっ。このマジックバッグさえあれば、ワタシってば、億万長者で~す」
「大金貨が数十枚も入ってるんだもんね~」
「もう働かなくてよいでござる~」
実はワタシ、せっかくのマジックバッグなのに、
ジェニー姐さんと一緒に大金貨を確認した時以外、
今までちゃんとこのマジックバッグを使っていませんでした
なぜなら、ワタシには【インベントリ】という収納スキルがあるからです
マジックバッグはワタシの【インベントリ】スキルを隠すためのカモフラージュとして、
ただ持っていただけだったのです
だから、中に何が入っているのか、全く把握していないのです
時間ができた今、それを確認しようという魂胆なのです
「とりあえず、お金が入っているのは確認済みで~す」
「ほかには何が入っているのかな~?」
そんな感じでマジックバッグに手を入れ、入っているモノの一覧を想像してみます
すると、お金やらお洋服やら、かなりの量の収納物が頭に浮かんできました
「ふむふむ。色々入っているね~」
「あっ! ワタシが渡した500円記念硬貨も入ってる!」
「それから、解熱鎮痛剤とかかぜ薬とかのお薬も!」
「ん?」
「え?」
「あれ?」
「あれれ?」
「ちょっと待って?」
「なんで?」
「なんで、記念硬貨が入っているの?」
「その記念硬貨でこのマジックバッグを(一瞬だけ)購入したんだよ?」
「ということは、マジックバッグを買った瞬間は、その記念硬貨はマジックバッグの中にはなかったはずでしょ?」
「それなのに、何でワタシのマジックバッグに入ってるの?」
「それにお薬。解熱鎮痛剤は入っていたかもだけど、かぜ薬はなんで入っているの?」
「かぜ薬はマジックバッグの実験の次の日にジェニー姐さんに渡したはずでしょ?」
ワタシのマジックバッグに入っているはずがないモノが入っていて、驚きです
「姐さん、姐さん! このマジックバッグ、中身がおかしいのです!」
早速ジェニー姐さんに緊急報告です
「ん? あなたのマジックバッグの中身? どういうこと?」
「ワタシが購入したタイミングでは入っていないはずのモノが入っているのです!」
「入っていないはずのモノ?」
「ですです」
「例えば、このマジックバッグを購入するときに使った記念硬貨」
「記念硬貨と交換でマジックバッグを一瞬だけ購入したでしょ?」
「ええ、そんなことをしたわよね」
「だから、買った瞬間にはマジックバッグに記念硬貨が入っているわけがないのです」
「なのになぜだか、今、ワタシのマジックバッグに記念硬貨が入っているのです」
「うーんと、他にも同じ記念硬貨を持っていたってことはないの?」
「ないのです。今のところ、記念硬貨はあの1枚しかないのです」
「う~ん。たしか貰った記念硬貨は私のマジックバッグにしまったはずだけど」
「ちょっと見てみるわね?」
そう言ってジェニー姐さんは自分のマジックバッグに手を入れました
「ほら、記念硬貨って、これのことでしょ?」
そう言ってジェニー姐さんが取り出して見せたのは、
まさしくあの【国際科学技術万博記念白銅貨 500円】でした
「それですそれ! それが、なぜか、ワタシのマジックバッグにもあるんです!」
ワタシはそう言って、自分のマジックバッグに再度手を入れます
そして、記念硬貨を取り出そうとしましたが、記念硬貨を見つけることができませんでした
「あれ? 記念硬貨が、ない?」
「さっきまであったのに・・・」
「え? ホントに? まさかあなた、勘違いとかじゃないの?」
「いえいえ、たしかにさっきまではあったのです」
「そうじゃなきゃ、こんなに騒いだりしないのです!」
「たしかにそうよね・・・」
そんなやり取りをしている時でした
さっきまで見つけられなかった記念硬貨がワタシのマジックバッグに入っていました
「あれれ? 記念硬貨があった! やっぱり入ってる!」
「え? うそ! そんなバカな!」
「そんな、まさか・・・、ありえないわ!」
なぜかワタシより慌てふためくジェニー姐さんです
「ジェニー姐さん、急に大きな声を出して、ど、どうしたのです?」
「今、私、マジックバッグに記念硬貨を戻したのよ」
「そうしたら、あなたが記念硬貨がマジックバッグに入っているって・・・」
「え?」
「ええ~?」
「それってつまり、アレですか?」
「ジェニー姐さんのマジックバッグとワタシのマジックバッグが、繋がってる?」
「たぶん。でもこの場合、繋がっている異空間が同じ場所、といった方が正しいのかしら?」
ジェニー姐さんの説明によると、
マジックバッグとは、空間魔法を付与したバッグのことで、
バッグの中は全く別の世界の空間、異空間に繋がっているそうです
繋がった先の異空間次第でマジックバッグの性能は異なり、
こちらの世界より時間経過が遅い異空間に繋がれば、時間遅延の効果が付いたりするそうです
そして今回、ジェニー姐さんのマジックバッグを
【買い物履歴】スキルを使って、ある意味複製したワタシ
そのワタシのマジックバッグは、当然ジェニー姐さんのと全く同じモノ
だから、繋がっている異空間も全く同じ
その結果、2つのマジックバッグは、異空間を共有しているようになってしまったみたいです
マジックバッグに保存されていた中身自体は、その存在自体が異空間にあるせいなのか、
残念ながら複製されていないようです
(まとめると、ジェニー姐さんとワタシのマジックバッグは、同じ異空間を共有していて、)
(2つのマジックバッグの中身は同じ、そういうこと?)
(・・・)
(え? 2個のマジックバッグで異空間を共有している?)
(マジックバッグが2個になっても、中身は2倍になってない?)
(マジックバッグの中身は、あくまでジェニー姐さんのモノであって・・・)
(のぉ~っ、ワタシ、億万長者になったと思ったけど、)
(ワタシのお金じゃないんだ~)
もう働かなくてもよいでござる、
そう思っていたのは、ワタシのはかない夢だったようです
ガッカリ意気消沈なワタシをよそに、
ジェニー姐さんの説明は、マジックバッグの運用面にまで及びました
「離れた場所にいる仲間に、これと同じマジックバッグを持たせられれば・・・」
「きっと、それだけで凄いことができるわね」
「遠隔地への物資の輸送にも、手紙を入れるなどをして通信手段としても」
「時間と場所を一気に飛び越えることができる、夢のような魔道具になるわね」
「普通にマジックバッグというだけでも価値があるのに」
「この2つのマジックバッグの価値は、想像を絶するものになるでしょうね」
(なんだか、社内のファイルサーバにみんながアクセスできる共有フォルダを作った感じかな?)
(そう考えると、確かに便利かもね)
ん?
社内LAN?
NAS?
ジェニー姐さんの説明を聞いて、ワタシが別なことを考えてると、
「これは本当に凄いわね」
「世界の物流や通信に革新を起こすレベルだわ」
「でもそれより、一番の問題は、スキニー、あなた自身よ?」
「え? ワタシです?」
「そう。あなたには、こんな凄いモノを生み出せる能力があるのよ?」
「その事実が他の人に知られてごらんなさい?」
「最悪、軟禁されて、一生マジックバッグを作るためだけの生活をさせられるわよ?」
「え? えぇ~っ!」
「だからこのことは絶対に『ヒミツ』、いいかしら?」
「もちろんハイです!」
思ったよりもワタシ、【買い物履歴】スキルがバレると危険な感じみたいです
(とりあえず、マジックバッグとか、ヤバそうなモノは【買い物履歴】で封印だね)
(安全第一、安全第一っと)
(それにしてもジェニー姐さん、今回は『ヒミツ』が1回だけだったね)
(ということは、姐さんの年齢のお話よりは重要度は低いのかな?)
ジェニー姐さんの年齢のお話の時は、2回『ヒミツ』が強調されたことを思い出し、
自身に危険が及ぶかもしれないというのに、
そんな呑気なことを考えるワタシなのでした
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