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53 交代の薬師

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(ジェニー姐さんって、いつまでここにいるんだろう)
(はじめましての時、確かあと1週間とか言ってなかったっけ?)
(ここでのお仕事が終わったら、当然帰っちゃうんだろうな・・・)
(そしたらワタシ、どうしようかな・・・)

ようやく馴染んできたジェニー姐さんとの日々もいつかは終わる

今後のことが不安で心配だけど、今は怖くてあまり考えたくない、

そんなこんなで悶々とした数日を過ごしていると、

ついに、ジェニー姐さんの後釜、交代要員の薬師さんがおみえになりました


「ここは薬師の駐在場所であっているか?」


ワタシがここにきてもうすぐ1週間という日のお昼過ぎ、

管理小屋に入ってきた男性は開口一番そう問いかけてきました

見た感じ人族で、ちょっと神経質そうなお顔をしています


「ええそうよ。あなたが交代の薬師かしら?」

「ああ。明日から駐在する予定のクラレンスという者だ」
「ジェニファー殿とお見受けする」
「早速で申し訳ないが、引継ぎ等を済ませてしまいたいのだが、良いだろうか」

「ええ、もちろん」


ジェニー姐さんが受け答えします

(ジェニー姐さんは今日の訪問のことを知っていたようですね)
(とりあえず、ワタシもご挨拶だけはしておきましょう)


「こんにちは」

「・・・あぁ」

ちょっと愛想よく、ニコリとこちらからご挨拶してみましたが、反応は弱、

一瞬チラリとワタシに目線をよこしただけ

むしろ無愛想と言ってもいいくらいなお返事です


(あまりフレンドリーな感じではないですね)
(それなら、これ以上ワタシから接触することはないかな?)

対人スキル少なめなワタシは、ワタシに対して好意的な態度には親切丁寧にお答えしますが、

そうでない対応には、おざなりの対応となります

不必要なコミュニケーションは極力回避、好意以外は無視一択、

ちょっとコミュ障気味なワタシ的には、そんな対応がデフォなのです



(あの態度はアレかな?)
(薬師じゃない、部外者のワタシは邪魔なのかな?)
(ジェニー姐さんと大切なお話があるってことかな?)
(それじゃあワタシは外していた方がいいよね)

そんな思いから、応接席から立って、使っていたコップを片付けていたら、


「なんてのろまなんだ」
「お茶ぐらいすぐに出せないのか?」

そんな底冷えするような声が聞こえてきました

まさかとは思いましたが、男性薬師を見ると、ワタシのことを睨んでいました

どうやらワタシに向けた言葉だったようです

(え? どういうこと?)

一瞬、理解ができません

ワタシが思考停止で固まっていると

「気が利かない小間使いだ」
「ジェニファー殿は甘かったかもしれんが、オレはそうはいかないからな」

更に訳が分からないことを言われてしまいました


(え? 小間使い? ワタシのこと?)

意味不明過ぎて、完全フリーズ状態のワタシ

ワタシが言葉を発せないでいると


「この子は小間使いではないわ」
「ここで私と一緒に生活していた子よ」
「まあ、ここには迷子みたいな感じで来たのだけれど」

ジェニー姐さんが男性薬師に説明してくれました


それを聞いて、クラレンスと名乗ったその薬師はワタシに話しかけてきます


「お前孤児か? 浮浪者か?」
「どちらにしても碌な出自じゃなさそうだな」
「まあこの際仕方がない」
「オレの身の回りの世話をする人手がなかったのも事実」
「ならばジェニファー殿に代わって、オレが雇ってやる」
「どうせ金に困ってジェニファー殿に寄生していたんだろ?」
「食事も住む場所も提供してやるから、ありがたく思え」


どうやら彼の中では、ワタシはジェニー姐さんに養われている孤児扱いのようです

ここまであからさまに見下されるのは、もちろんはじめての経験

滅多に体験できることではないでしょう

そんな風に思えるほど、一周回って感動してしまいそうな衝撃でした


衝撃が強くて逆に冷静になれたワタシは、彼にお返事をすることにします


「ワタシはあなたの言葉に何ひとつありがたみとやらを感じません」
「なので、あなたの申し出は、お断りします」


「なっ何だと? オレが親切で雇ってやると言っているのに、断る気か?」


「親切という言葉の意味が、ワタシとあなたとでは違うみたいですね?」
「それと、見ず知らずのあなたに心配されずとも、衣食住は自分で何とかできますのであしからず」


「きっ貴様~!」


そんなピリピリ険悪な状況で、割って入る声があります

「はいはい、クラレンスと言ったかしら?」
「いい加減、その無駄な雑音ばかり垂れ流す口を閉じてくれない?」

「え? ジェニファー殿、それはどういう――」

「黙れ、そう言っているのよ!」


被せ気味に男性薬師の発言を制するジェニー姐さん

おこです

ぷんすかです

『激おこぷんぷん丸』ほどではないにしろ、『まじおこ』ぐらいはありそうな感じです

ん?
MK5?
チョベリバ?



そしてクラレンスという薬師は、ジェニー姐さんの発言に驚いているようです

さながら、味方に突然裏切られて呆然、そんな表情です


(なんで驚いてるの? この人)
(もしかして、あれが一般的な薬師様の思考パターンってことなの?)
(だからジェニー姐さんも自分と同じ考えで当然だと思っていた?)
(だとしたら、かなりヤバくね?)



そんなことを思っていると、ジェニー姐さんが発言を続けます

「私からあなたに引き継ぐ事は何もないわ」
「薬売りでも何でも、好きにやればいいんじゃない?」
「薬師と名乗っているのだから、薬ぐらい扱えるのでしょう?」
「どうせ私が何かを言ったとしても、その偏見で凝り固まった頭では理解できないでしょうし」
「というより、あなたと会話をしたくないのよね」
「同じ職種だと思われるのも嫌だわ」


キツめの完全拒否宣言です

(これってアレだよね? ジェニー姐さんはワタシ側ってことでいいんだよね?)
(ワタシの為に会話拒否をしてくれているんだよね?)


これまで、それなりに仲良く過ごしていたつもりですが、

個人的なことに関しては、お互い、あまり深く関わらないようにしていた感じでした

今回のような場面でも、いつものジェニー姐さんなら、後からこそっと助言をくれる程度

それが、リアルタイムでワタシの味方をしてくれているのです


誰かに庇ってもらった、そんな経験はじめてだったワタシはちょっと混乱気味です

(ジェニー姐さん、いつもと違う感じだけど、どうしちゃったのかな?)
(でも、庇ってもらえたのなら、それはそれで嬉しいかも!)
(うふふっ、なんだか、照れちゃうね~)


見ず知らずのアカの他人にあからさまに見下されている最中にもかかわらず、

ひとりテレテレしだしちゃうワタシなのでした

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