上 下
36 / 84

36 善意

しおりを挟む

(光に集まる虫が如く・・・)


集まってきた人々に対してそんな不謹慎なことを考えていると、

ワタシの目の前に、見覚えがある男性が現れました


「よお、道のど真ん中で馬車を止めたお嬢さん、昼ぶりだな!」

「あっ! あの馬車の・・・」

「おう。それで、この明るい小屋は、一体何なんだ?」

「えぇっと、これはワタシのお店ですけど・・・」

「お店? ふぅ~ん、そうか・・・」


道で会った(ワタシが止めた)馬車の御者さんがご来店です

どうやら、異様に目立つ白く輝く小屋があったので、ナニゴトかと見に来たみたいです

そしたら、見覚えがあるワタシがいたので声をかけてみた、そんな感じでしょうか


(それにしたって、大勢の人前で、【馬車を止めたお嬢さん】呼ばわりしなくたって・・・)


御者のおじさんのワタシに対する呼び方や、

本来のコミュ障気味なワタシの性格、

そしてなにより、昼間の御者のおじさんのワタシに対する対応、

そんな諸々の感情から、

御者のおじさんに対し、ちょっと拒否反応が出はじめたワタシ

あまり気安く話しかけてほしくない気持ちになってしまいます


ワタシにとって、はじめて接触した人でもある御者のおじさん

出会い方が微妙だったので、私的にちょっと、複雑な感情になってしまう相手です


おじさん的には、【強引に馬車を止めた】獣人の小娘、

ワタシ的には、【馬車に乗せてくれなかった】不親切なおじさん

客観的に見れば、強引に馬車を止めて、お金も持っていなかったワタシが悪いのですが・・・


それでも、何もわからず、場所も不明、さらに疲労も重なり、とても困っていた時だっただけに、

事情も聞かれず、ただただつっけんどんな態度で乗車拒否されてしまえば、

その時ワタシに刷り込まれた御者のおじさんに対する第一印象は、よろしくないことは確かなのです

(まあ、単なるワタシの八つ当たりなんですけどね)


そんなことを思っていると、再度、御者のおじさんが話しかけてきました


「まあそれはいいや」
「それでだ。これだけの小屋を持ってるってことは、金あるんだろ?」
「明日からオレの馬車に乗せてやろうか?」


ここにきて、まさかのお誘いです

今ならお金も持っていそうだし親切心で誘ってくれたのか、

それとも別の理由があるのか


(その言葉、日中に聞きたかったよ・・・)


そんなことを考えてると、ジェニー姐さんから小声で話しかけられます

「気を付けなさいね」

「え?」

「たぶんだけど、心からの善意であなたを誘っているわけではなさそうよ」

「ワタシがお金持っていそうだからとかです?」

「それもあるだろうけど、目的は別ね」

「別の目的?」

「そう。この小屋をあなたがここで出したということは、この小屋を持ち運べる能力があなたにあるということでしょ?」

「なるほど。つまり、ワタシの輸送能力目当てです?」

「きっとそうだと思うわ」



そんな会話を小声でしていると、御者のおじさんが

「何だったら、乗車賃は値引きしてやってもいいぞ」
「まあその場合、こちらの条件を飲んでもらうことになるんだがね」


(なるほど。ワタシに何かやらせたいのは間違いなさそうですね)

もちろん、ワタシのお返事は決まっています

「いいえ、あなたの馬車にはご迷惑をおかけしたようですし、」
「ワタシがいたら、またご迷惑をかけてしまうかもしれません」
「ですので、これ以上、あなたの馬車には一切関わり合いになりなせん」

少し八つ当たり気味な嫌みものせてのお返事です


「いいのか? また歩いて――」

「ええ、馬車に乗るとしても、他をあたるのでお構いなく」


まだ食い下がろうとするおじさんの言葉を遮り、ハッキリと拒否です


「そうか・・・」
「・・・それじゃあな」

そう小さく言葉を発して、立ち去っていく御者のおじさん


お店を開いて最初に声をかけてきた人物

本来なら、商品の一つでもお勧めするタイミングだったのでしょうが、

この御者のおじさんには、商品を売る気にはなれなかったワタシなのでした



ちょっとおセンチ気味になってしまったワタシの前に、別のお客さん? が登場です


「スキニー嬢ちゃん、こいつに、この肉と野菜の串焼き、売ってやってくれ」

声をかけてくれたのは、ザックさんでした

ザックさんの隣には、ザックさんと同じ制服を着た男性がひとり

中肉中背、あまり特徴という特徴はない、ただただフツー、そんな男性です


「小銀貨1枚でいいか?」

彼はそう言って小銀貨を渡してきます

「ハイです」
「焼き鳥のねぎまは、塩とタレの2本セットなのです」

【インベントリ】からあらかじめビニール袋に入れておいた2本セットを取り出し、彼に手渡します

「どうぞです。ありがとうございますぅ~」

早速、ザックさんの同僚が焼き鳥を買ってくれました

開店早々のお買い上げ

いきなりの展開に、ちょっとビックリです

と同時に、先ほどまでのちょっとモヤっとした気分もなくなりました


それは、ザックさんが来てくれたから

ザックさんが同僚の人を連れてきてくれたから

それはまるでサクラのようで・・・


ワタシの目の前には、サムズアップしているザックさん

ワタシのはじめての現金収入は、

面倒見のいい兄貴分による、やさしい演出が見え隠れするモノなのでした



その後は、異世界物の定番的な冒険者? そんないでたちの5人組さんが登場です


「よお、嬢ちゃん、ここは一体何なんだ?」

「いらっしゃいませぇ~、ここはワタシのお店、すぐ食べられるものを売っていま~す」

「店? 食い物屋か?」

「ハイです」


そんな感じで、気分を切り替え、営業スタートです

「小銀貨ショップでぇ~す」
「お値段は全て、小銀貨1枚で統一していま~す」
「手に持って食べられるものを中心に販売してま~す」
「商品の数には、限りがありま~す」
「営業時間も短めですので、お早めにどうぞ~」

こんな感じのセールストークです


なお、注意事項として、転売ヤーや買占め防止のため、

「転売や買占めはご遠慮くださ~い」
「同じ商品はひとり2個までしか売りませんですよ~」

と制限をかけておくことも忘れません



出鼻はちょっとアレでしたが、突然の開店にも関わらず、

ワタシのお店、小銀貨ショップのプレオープンは、

ザックさんの優しいサクラ的な手助けもあり、

つかみは順調に? 滑りだしたのでした


(あ、BGM流すの忘れてた。まだプレオープンだし、いいか)

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に来たようですが何も分かりません ~【買い物履歴】スキルでぼちぼち生活しています~

ぱつきんすきー
ファンタジー
突然「神」により異世界転移させられたワタシ 以前の記憶と知識をなくし、右も左も分からないワタシ 唯一の武器【買い物履歴】スキルを利用して異世界でぼちぼち生活 かつてオッサンだった少女による、異世界生活のおはなし

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

こちらの世界でも図太く生きていきます

柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!? 若返って異世界デビュー。 がんばって生きていこうと思います。 のんびり更新になる予定。 気長にお付き合いいただけると幸いです。 ★加筆修正中★ なろう様にも掲載しています。

キャンピングカーで異世界の旅

モルモット
ファンタジー
主人公と天女の二人がキャンピングカーで異世界を旅する物語。 紹介文 夢のキャンピングカーを手に入れた主人公でしたが 目が覚めると異世界に飛ばされていました。戻れるのでしょうか?そんなとき主人公の前に自分を天女だと名乗る使者が現れるのです。 彼女は内気な性格ですが実は神様から命を受けた刺客だったのです。

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

転生したアラサーオタク女子はチートなPCと通販で異世界でもオタ活します!

ねこ専
ファンタジー
【序盤は説明が多いので進みがゆっくりです】 ※プロローグを読むのがめんどくさい人は飛ばしてもらっても大丈夫です。 テンプレ展開でチートをもらって異世界に転生したアラサーオタクOLのリリー。 現代日本と全然違う環境の異世界だからオタ活なんて出来ないと思いきや、神様にもらったチートな「異世界PC」のおかげでオタ活し放題! 日本の商品は通販で買えるし、インターネットでアニメも漫画も見られる…! 彼女は異世界で金髪青目の美少女に生まれ変わり、最高なオタ活を満喫するのであった。 そんなリリーの布教?のかいあって、異世界には日本の商品とオタク文化が広まっていくとかいかないとか…。 ※初投稿なので優しい目で見て下さい。 ※序盤は説明多めなのでオタ活は後からです。 ※誤字脱字の報告大歓迎です。 まったり更新していけたらと思います!

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

異世界転移した町民Aは普通の生活を所望します!!

コスモクイーンハート
ファンタジー
異世界転移してしまった女子高生の合田結菜はある高難度ダンジョンで一人放置されていた。そんな結菜を冒険者育成クラン《炎樹の森》の冒険者達が保護してくれる。ダンジョンの大きな狼さんをもふもふしたり、テイムしちゃったり……。 何気にチートな結菜だが、本人は普通の生活がしたかった。 本人の望み通りしばらくは普通の生活をすることができたが……。勇者に担がれて早朝に誘拐された日を境にそんな生活も終わりを告げる。 何で⁉私を誘拐してもいいことないよ⁉ 何だかんだ、半分無意識にチートっぷりを炸裂しながらも己の普通の生活の(自分が自由に行動できるようにする)ために今日も元気に異世界を爆走します‼ ※現代の知識活かしちゃいます‼料理と物作りで改革します‼←地球と比べてむっちゃ不便だから。 #更新は不定期になりそう #一話だいたい2000字をめどにして書いています(長くも短くもなるかも……) #感想お待ちしてます‼どしどしカモン‼(誹謗中傷はNGだよ?) #頑張るので、暖かく見守ってください笑 #誤字脱字があれば指摘お願いします! #いいなと思ったらお気に入り登録してくれると幸いです(〃∇〃) #チートがずっとあるわけではないです。(何気なく時たまありますが……。)普通にファンタジーです。

処理中です...