【BL】クレッシェンド

第1部 双子の恋愛感情

第17夜 ？？？side

 ふとわいは立ち止まる。
 今は授業中。本来なら教室からは先生の声やそれに答える生徒の姿があるはずだ。

 静かな空き教室なら、移動教室なのかと納得もする。
 しかし、よく耳をすませばその教室からは人の声が聞こえてきた。しかも内容はかなりアヤシイ。

 わいは人より耳は良い方だ。
 悪く言えば、地獄耳。
 この耳をいかして前の学校では情報屋、なんてものもしていた。

（なんや、おもろいもんでもあるんかな?）

 単なる好奇心だった。静かにその教室の扉を少し開く。もちろん物音は立てない。
 影になりきり物事を隠れて観察することが情報屋として大切なスキルである。

 まず目に飛び込んできた様子に少し驚く。
 男子生徒が二人、イヤラしく絡んでいたのだ。

 しかし、どうにもイチャついてるようには見えない。よくよく見れば、一人は手を拘束され無理矢理押し倒されていた。

 ここは男子校。
 ふとした弾みで一線を越えるヤツがいてもおかしくないし、特別差別意識がある訳でもない。

（ゲイなら前の学校にもおったしなぁ）

 そんな事を思う自分自身、バイで性別なんて気にしないタイプだ。
 気に入った奴なら男だろうと女だろうと節操なく手を出していた。

（おもろそうやし、ちょいと観察しとこ）

 二人のやりとりが気になりしばし見学させてもらう事にした。すると案の定と言うべきか、18禁が始まった。

 正直、出歯亀をするのは如何なものかと思わないでもなかったが、己の好奇心には勝てない。それにこんなところでヤる方が悪いと言い訳して覗き見を続行する。

（しっかし、あの組み伏せられてるヤツどっかで見覚えが……？）

 よく目立つ赤髪に気の強そうな鋭い瞳、ガタイもそこそこ良さそうだ。下敷きになっている机が可哀想なくらいの悲鳴をあげている。
 凝視していると、ふっと脳裏に彼の姿が思い出された。

（あぁ、せや、あの喧嘩番長やないか）

 名前は確か桐生 彗と言ったか。
 他校でも有名な喧嘩負けなしの男だ。

（前の学校の連中もよく喧嘩を売りに行っては、大負けしとったなぁ）

 そんな男が男に組み伏せられている、その事実に気づくと興奮した。
 これはとんでもない特ダネ！

（見学して正解やん）

 内心ガッツポーズをしながらそのままの成り行きを静かに見守る。

「……ふぅ…っ…んんっ…」

 彗の艶っぽい声が響く。

「離せっ……ぬ、け……ああっ！…」

 無駄な努力だろうに、彼は必死に抵抗の意思を示した。その姿にクるものがある。

（あの喧嘩番長、あないな顔も出来るんか）

 面白い。久しぶりに楽しめそうだ。
 わいは笑みを浮かべながらスマホを取り出し、この様子を動画で暫く盗撮する。

 綺麗に録画が出来たのを確認した後、バレる前にと早々に立ち去った。

（これはええもんが手に入ったな）

 にやけが止まらない。頭の中でアレやコレや悪巧みの計画を立てる。

（一番楽しむにはやっぱ喧嘩番長に吹っかけるんが良さそうか）

 もう片方の男、あいつは確か「王子」の愛称を持つ彗の弟だったか。

（双子でしかも男同士なんてネタに尽きないな）

 弟くんの方も他校で有名だ。
 彗とは異なり良い意味で。

（あの弟くんからはなんや、同類の匂いがするからなぁ）

 やはり、ちょっかいを出すなら兄の方だなと結論づけて静かな廊下を歩いていく。

 先ほどの動画と彗のエロい姿、もとい喘ぎ姿もきちんと収めた写真をファイルに保存しロックをかける。念のためと自宅のパソコンにも転送させた。

 今度はきちんと挨拶させてもらうからな、楽しみに待っててや。

「桐生彗くん」

 妖しく呟き、彼は人気の無い廊下へ歩みを進めるのだった。
 静かにけれど確実に嵐が近づいていた。