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Ⅱ.未編集
第64夜
しおりを挟む「ここ特等席っていうか、現場の真上じゃねぇかよ」
人をかき分けるようにして進んだ先の眼前には例のグループたちの姿があった。
今居るのは二階のためちょうど真上から高みの見物ができる絶好の場所だ。
周りの生徒は彗の姿を認めるとさっとスペースを空けるように道を開き、まさかのモーセ状態である。
「せやから特等席やん。ほらここからなら会話もバッチリ聞こえるで」
下の方では互いに言い合いをしているようだが、ここで手が出る争いに発展しないのは感心するべきか。
今まで彗のやってきた喧嘩は何だったのか分からなくほどの幼稚で可愛い「抗争」だった。
どちらの陣営も一人のリーダーらしき者が前に立ち、十人ほどの取り巻きと共にディスカッションをしている。
彗はほんの少しの興味を抱きながら手すりに頬杖をついて耳を傾けた。
「……爽くんの方が何倍もカッコいいんだから!双子だからって出来の悪い不良と一緒にしないでほしいね」
一際大きな声でそう言い切ったのは彗に直接喧嘩を吹っかけてきたあの涼だった。
それに対抗するのはメガネをかけた真面目そうな男子生徒。
「す、す、彗さんはそこらの不良とは違います!ぼくたちはみんな彗さんに助けられました。これ以上恩人の悪口を言わないでください」
きっと喧嘩のけの字も知らない人生を歩んできただろうに、拳を握りしめながら言い返す様に彗はふっと口元を緩める。
たしかに見覚えのある顔もちらほらいた。
他校の生徒と喧嘩をしている時にたまたま目に入ったカツアゲ現場。見知った制服の生徒を黙ったまま見過ごすことはできなかったのだ。
「ふん、何を偉そうに。今までずっと影に隠れていたくせに、ちょ~っと良い噂が流れ始めたらそれに便乗する臆病者共め!本当に恩を感じていたならもっと早く名乗りをあげてよね。そしたらさっさと潰してあげたのに」
「ぼ、ぼくたちだって無力のままは嫌だった!でもあの人に止められて……」
「人に止められて声をあげるのをやめるくらいなら目障りだから消えてくれる?僕たち爽くんのファンクラブにとって桐生彗ほど憎い相手はいないんだから」
これは爽陣営の方が有利だな。
涼は甘ふわフェイスな見た目とは異なり弁が立つようだ。相手がぐうの音が出なくなるまで言い負かす気でいるらしい。
「でも、だからってここで引いたら今までと同じです。だからぼくたちは一歩も引きません。双子の弟を推すと言うなら、その片割れである彗さんのことももっと知ってください!」
「何を知れって?身の程を弁えてよね。あんな野蛮なヤツ爽くんと血の繋がりがあるのさえ信じられないから」
「そこまで侮辱されてはもう許しません。彗さんはですねーー」
とここからは真面目メガネくんも負けずと応戦し、いつの間にやら取り巻きさえも巻き込んでの口論となった。
しかも内容は、爽くんのどこがいいだの彗さんの何が素敵だのと当の本人にしては耳を塞ぎたくなるほど恥ずかしいものばかり。
なんでアイツらはあんな必死によその兄弟について熱弁してんだよ。おかしいだろ。誰か止めろって。
段々とヒートアップしていく内容。爽くんはアレが上手いだとか、彗さんの身体付きはエロいだのと下ネタにまで発展する始末だった。
しかも見学していた野次馬たちも無駄に囃し立てては盛り上げ、彗は何度目かの「お前らは暇人か!」というツッコミを心の中で叫んだ。
「いやぁ、彗くんモテモテやん」
「スイちゃん。僕、スイちゃんのことをあんなに理解ってくれている人がいて嬉しいよ」
黒崎はさぞ面白そうに、秋斗に至っては本気で感動したように瞳を潤ませている。
いや、もう、なんて言うか………………うん、もういっか。
戸惑い、呆れ、困惑、それらの感情は一周しそしてとうとう「笑い」という形で彗は吐き出した。
秋斗さえも驚くほどの爆笑。
思わず争っていた二グループも動きを止め、そして二階へと視線を向けたのだ。
「……っくく、も、ダメっ……っ」
腹を抑えて笑う彗に当てられたように周囲の空気は一瞬で雰囲気を変えた。
慌てたのは自称彗のファンたちである。
あの彗さんの笑顔。ズバリ貴重。イコールお宝映像。
スマホを取り出す者、本人の前で熱く語っていたことに気づき照れる者、など実に三者三様だった。
「はぁーー…。こんなに笑ったのは久しぶりだわ」
彗は笑いの嵐が去ると視線を下に向け、
「お前らほどほどにしろよ」
と一言。そしてそのまま背を向けて教室へと戻って行った。
その後の中庭では一拍間を置いて大騒ぎになったのだが、戦意を失った両グループはそのまま解散したらしい。
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本当にありがとうございます。
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温かなお言葉を本当にありがとうございました!!!