姫様従者と王子様

花夜

文字の大きさ
上 下
1 / 30
プロローグ

黎明

しおりを挟む

明かりもつけず、真っ暗な部屋に1人の少女がいた。

 少女の名はユリフィア・アーシュガイン。

 ーーユリフィアはその部屋の隅でうずくまる。

 周りの景色はいつもと変わらない。

 ただ暗闇の中に机と椅子、それから寝台があるだけの殺風景な部屋だ。

 ここらから出たい!

 自由になりたい!!

 ……そう心は叫んでいる。

 あぁ、あの空に飛び出したい…って空!?

 真っ暗だった部屋にいつの間にか真昼の空が顔を覗かせていた。

 天井にポッカリと大きな穴が開いている。

 ユリフィアは不思議な気持ちで光差すもとまで行った。

 久しぶりの陽光に思わず目を閉じる。

 そしてまた、ゆっくりと瞼を開いた。

 そこにあるのは正真正銘の空だ。

 夢でもいい、あの空へ飛び立ちたい!!

 その時、バサリッと空を切る音が響いた。

 振り返り、鏡を見ると白く大きな翼が己の背から生えているではないか。

 羽根!?天使??これは…夢??

 現実では魔法を用いてもありえない事だ。

 その翼は何度か羽ばたいた後、ユリフィアの意思に応えるように思い切り空へと飛び出したーー…。




 ドテンと派手な音を立てて、ユリフィアはベッドから落ちた。

「いった~いっ!」

 床に腰を強かに打ち付けてしまい思わず叫ぶ。

 それにしても先ほどの夢は何だったのだろうか? 何かの暗示?? だとしたら良い夢だった。

 何故かって?

 それは私が今日家出をするから。

 と言っても、ユリフィアの場合はカナリ難しい家出だ。

 普通に正面から出れば直ぐにバレてしまい、連れ戻されてしまう。

 そこで考えた結果が、夜中に窓から抜け出すと言う割と古典な方法。

 我ながら妙案だと思うーーが、少し失敗したのも事実だった。

 出発はどうせ夜中だと安心して仮眠していたのだが…目覚めた時にはもう朝方だったのだ。

「ありゃりゃ、少し眠りすぎちゃったかも」

 部屋には自分以外誰もいないので、1人呟く。

 まぁいいか、とまた呟き急いで行動に移る。

 早くしないと家の者たちが起きる時間だ。

 手早く荷物をまとめる。

 荷物と言っても小さな鞄にお金と必要最低の物を詰め込んだだけの簡素なものである。

 それからネグリジェを脱ぎ捨て、動きやすい普段着に着替えた。

 その後、己の長い金髪をツインテールに結い上げ、仕上げに愛用のレイピアを腰に差す。

 よし、準備万端だ!

 後は窓から下りるだけ……あらかじめくすねていたロープをしっかりと部屋の柱に結びつける。

 ここから地上までの距離は約20メートル。

 常人なら躊躇われる高さだが、生憎とユリフィアは“普通”ではなかった。

 顔に似合わず大胆な性格で、しかも運動神経がズバ抜けて良い。

 猫のように軽やかにロープを伝い、あっという間に地に降り立った。

 魔法を使えば1発なのだが…生憎とこの城には魔術に反応する結界が張り巡らされているのだ。

(小さい魔法でも使おうものならユリウスが飛んできちゃう) 

ここを出るまでは注意しなきゃ!

 今からが本番。





  そう、私の家出はここから始まったのだーー…。






しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

[完結]幻の伯爵令嬢~運命を超えた愛~

桃源 華
恋愛
異世界アレグリア王国の 美しき伯爵令嬢、 リリス・フォン・アルバレストは 男装麗人として名高く、 美貌と剣術で人々を 魅了していました。 王国を脅かす陰謀が迫る中、 リリスは異世界から 召喚された剣士、 アレクシス・ローレンスと 出会い、共に戦うことになります。 彼らは試練を乗り越え、 新たな仲間と共に 強大な敵に立ち向かいます。 リリスとアレクシスの絆は 揺るぎないものとなります。 力強い女性主人公と ロマンティックな愛の物語を お楽しみください。

皇帝陛下は身ごもった寵姫を再愛する

真木
恋愛
燐砂宮が雪景色に覆われる頃、佳南は紫貴帝の御子を身ごもった。子の未来に不安を抱く佳南だったが、皇帝の溺愛は日に日に増して……。※「燐砂宮の秘めごと」のエピローグですが、単体でも読めます。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...