8 / 12
第8話 ブラコンですが、何か?
しおりを挟む「ただいまー」
住宅街の一角。
よくある普通の二階建て一軒家が我が城である。
両親は海外に行ったきり戻って来ず、生活費諸々の振込みもいつのまにか止まっていた。
確実に忘れられているとは思ったものの、マイホームがあるだけマシだし、玖音の稼ぎだけで賄えている現状だからと特に連絡はしていない。
「おかえりなさい、今日は早かったね」
ひょっこり玄関に顔を出し、笑顔で迎えてくれるのは私の可愛い弟、千尋だ。
黒髪にクリクリの瞳、まだ中学一年生と成長期前だけあって158センチと低めの身長。
何より素直で自慢の弟である。
ブラコン上等!
千尋は誰よりも大切な家族だ。
正直、思春期を迎えたらどうなるのか…今から不安でいっぱいだった。
「ちーちゃん!!」
ああ、私の癒し。
靴を脱ぎ捨て一目散に駆け出し、そして千尋に抱きついた。
慣れている彼はといえば、今日は疲れることでもあったのかな?と冷静だった。
「はいはい、スーツがシワになるよ?」
「もうちょっとだけ!ちーちゃん、ちーちゃん」
「ふふ、お疲れ様」
よしよしと頭を撫でてくれる、その優しさに触れると嫌なことは全部吹き飛んだ。
もうどちらが年上なのか分からない状況だが、普段頑張っている姉の甘える姿は嫌いじゃないと千尋は思っていた。
そろそろちーちゃん呼びは止めて欲しいものの、結局許してしまうのだった。
「うん、ありがとう。元気出たよ。今日はちーちゃんの好きなもの作るね」
「やった!じゃあハンバーグがいい」
「任せて」
歳はちょうど10歳差と離れているけれど、二人は近所でも有名な仲良し姉弟だった。
「あ、そうだ。ごめんねちーちゃん。私明日でクビになるかも…」
しゅんとする姉に、きっと大変な事があったのだろうと察した千尋は笑顔で励ます。
「大丈夫だよ。お姉ちゃんはよく頑張ってたの僕は知っているよ。だから、クビになっても落ち込まないで、また次があるから」
「ちーちゃん…」
我が弟ながら良い子ちゃんすぎてツライ!
(あいつがせめて千尋の半分くらい可愛げがあれば…)
脳裏に疲れの元凶が浮かび、それを頭を振って消した。
過ぎてしまったものはしょうがない。
やってしまった過去もなくなりはしない。
明日は大変憂鬱だが、上司のもとへ退職届けを出しに行かないといけないだろう。
(退職願いを受け取って貰えるといいけど…)
その方がクビよりマシな対応だ。
そう決めて、私は可愛い弟のためにハンバーグ作りに勤しむのだった。
そして迎えた翌日。
出社してすぐに呼び出された。
そこまでは想定の範囲内である。
しかし、そこには満面の笑みを浮かべる上司がおり、私は首を傾げるのだった。
「九条くん、よくやったね」
「えっと、何がですか?」
本当に何のことか分からない。
私がしたことと言えば、ラストチャンスの仕事を背負い投げとともにふいにしたことだけだ。
「一宮悠月くんのことだよ。まだ独占インタビューを受けてくれるかは分からないけど、詳しく話しが聞きたいって連絡があったんだ」
「…は?」
「ってことで、引き続き九条くんに担当して貰うから宜しくね」
「え、嫌です。勘弁して下さい」
即答したものの、上司には笑顔で聞き流されてしまった。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
だが夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?
石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。
ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。
ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。
「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。
扉絵は汐の音さまに描いていただきました。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる