年下の彼に脅されています!

花夜

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第8話 ブラコンですが、何か?

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「ただいまー」

 住宅街の一角。

 よくある普通の二階建て一軒家が我が城である。

 両親は海外に行ったきり戻って来ず、生活費諸々の振込みもいつのまにか止まっていた。

 確実に忘れられているとは思ったものの、マイホームがあるだけマシだし、玖音の稼ぎだけで賄えている現状だからと特に連絡はしていない。

「おかえりなさい、今日は早かったね」

 ひょっこり玄関に顔を出し、笑顔で迎えてくれるのは私の可愛い弟、千尋だ。

 黒髪にクリクリの瞳、まだ中学一年生と成長期前だけあって158センチと低めの身長。

 何より素直で自慢の弟である。

 ブラコン上等!

 千尋は誰よりも大切な家族だ。

 正直、思春期を迎えたらどうなるのか…今から不安でいっぱいだった。

「ちーちゃん!!」

 ああ、私の癒し。

 靴を脱ぎ捨て一目散に駆け出し、そして千尋に抱きついた。

 慣れている彼はといえば、今日は疲れることでもあったのかな?と冷静だった。

「はいはい、スーツがシワになるよ?」

「もうちょっとだけ!ちーちゃん、ちーちゃん」

「ふふ、お疲れ様」

 よしよしと頭を撫でてくれる、その優しさに触れると嫌なことは全部吹き飛んだ。

 もうどちらが年上なのか分からない状況だが、普段頑張っている姉の甘える姿は嫌いじゃないと千尋は思っていた。

 そろそろちーちゃん呼びは止めて欲しいものの、結局許してしまうのだった。

「うん、ありがとう。元気出たよ。今日はちーちゃんの好きなもの作るね」

「やった!じゃあハンバーグがいい」

「任せて」

 歳はちょうど10歳差と離れているけれど、二人は近所でも有名な仲良し姉弟だった。

「あ、そうだ。ごめんねちーちゃん。私明日でクビになるかも…」

 しゅんとする姉に、きっと大変な事があったのだろうと察した千尋は笑顔で励ます。

「大丈夫だよ。お姉ちゃんはよく頑張ってたの僕は知っているよ。だから、クビになっても落ち込まないで、また次があるから」

「ちーちゃん…」

 我が弟ながら良い子ちゃんすぎてツライ!

(あいつがせめて千尋の半分くらい可愛げがあれば…)

 脳裏に疲れの元凶が浮かび、それを頭を振って消した。

 過ぎてしまったものはしょうがない。

 やってしまった過去もなくなりはしない。

 明日は大変憂鬱だが、上司のもとへ退職届けを出しに行かないといけないだろう。

(退職願いを受け取って貰えるといいけど…)

 その方がクビよりマシな対応だ。

 そう決めて、私は可愛い弟のためにハンバーグ作りに勤しむのだった。







 そして迎えた翌日。

 出社してすぐに呼び出された。

 そこまでは想定の範囲内である。

 しかし、そこには満面の笑みを浮かべる上司がおり、私は首を傾げるのだった。

「九条くん、よくやったね」

「えっと、何がですか?」

 本当に何のことか分からない。

 私がしたことと言えば、ラストチャンスの仕事を背負い投げとともにふいにしたことだけだ。

「一宮悠月くんのことだよ。まだ独占インタビューを受けてくれるかは分からないけど、詳しく話しが聞きたいって連絡があったんだ」

「…は?」

「ってことで、引き続き九条くんに担当して貰うから宜しくね」

「え、嫌です。勘弁して下さい」

 即答したものの、上司には笑顔で聞き流されてしまった。

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