上 下
46 / 89

46 決着

しおりを挟む
「これ以上話すことはないな」

 穏やかな顔に戻ったケントは、もう何の興味もないと言うようにアルミナに背を向けた。

 これから忙しくなるぞぉ。

 二人を娶るとなれば、準備も大がかりになるはずだ。

 この時点でケントは未来しか見えていなかった。

 だから、背後の危険に気づくのが遅れた。

 ケントが気づいた時、短剣を腰だめにして突っ込んできたアルミナはすぐ手の届く距離にいた。

 ヤバい!?

 かわせないと悟ったのが先だったか、身体が硬直したのが先だったかは判然としなかったが、その瞬間ケントは完全に無防備だった。

 ケントは痛みに備えて全身を力ませた。



 キインッ!



 鋭い金属音が響き、アルミナの短剣が弾き飛ばされた。

「わたしの目の前でそんな暴挙を許すと思うか?」

 神速の剣撃を披露したフローリアは、剣を収めず、アルミナに突きつけた。

「…どこまでも邪魔を……」

 常人なら向けられただけで気死しそうな、狂気じみた憎悪に晒されても、フローリアには怯む様子はない。逆にアルミナを気迫で圧倒する。

「ケントを道連れにされては困るのでな」

 油断なく剣を突きつけたまま、フローリアは涼しい顔で言った。

「いい加減に諦めたらどうだ?」

 敗北感にまみれながらもアルミナの目にはギラギラした光が宿っている。それが見てとれるので、フローリアも剣を引けずにいた。

「ケントォッ!」

 突然アルミナが吼えた。

「あんたは絶対に幸せになんかなれないわ!   未来永劫呪われるのよ。あたしが呪うわ。幸せになんかさせやしないから!!」

 よくもここまで、と思わせるレベルの憎悪。その負の感情は強烈な感染力を秘めていた。

「このっーー」

 憎悪にあてられたフローリアも冷静さを失った。突きつけた剣を振り上げる。

「フローリア、待って!」

 刃を止めさせたのは、アリサの声だった。

「アリサ?」

「殺しちゃうのは簡単だけど、それだとアルミナの思うツボだと思うわ。アルミナを手にかけたことがしこりになっちゃいそうな気がしない?   それこそ呪いのようだわ」

「むむ……」

 フローリアは眉間にシワを寄せた。アリサの言うことはもっとものような気がしたのだが、じゃあどうすればいいかがわからなかったのだ。

「ではどうすると?」

 アリサはにっこり笑った。



「幸せになろうよ。三人で。それをアルミナに見せつけてやろうよ」



「「なるほど」」

 フローリアとケントは揃って頷いた。確かにそれが一番効果的な気がする。

 アリサは更にアルミナに対して言葉をかける。

「わたしたちはあんたの呪いになんか負けない。三人で幸せになるところを見せつけてあげる。だから、処刑なんてしない。死にたければ自分で死ねばいいーーでも、それを選んだらあんたの負けだからね」

「……」

 アルミナは反論できなかった。憎々しげにアリサを睨むばかりである。

 その表情を見れば、アリサの提案がアルミナにとっては一番キツいものだと言うことは明らかだった。

「じゃあ、そういうことで」

 と言いつつ、また二人にいいところを持っていかれた点に情けなさを覚えるケントであった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐

当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。 でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。 その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。 ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。 馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。 途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。

処理中です...