上 下
43 / 89

43 これでいいのか?

しおりを挟む
 ケントは混乱していた。

 アルミナに婚約破棄を告げられた時も混乱したが、身に覚えのない婚約を告げられた今の方が更に混乱していた。

 えーっと、グリーンヒルの王太子って俺のことだよな……で、アリサがグリーンヒル王太子の婚約者ってことは……アリサが俺の婚約者ってことか?

 そこまで思考が巡ったところで、ようやく言葉の意味を理解する。

「ええーっ!?」

 明らかにタイミングのずれた驚きの声にフローリアとアリサは似たような微苦笑を浮かべた。

「何で!?   いつ決まったの!?」

「「さっき」」

 二人揃ってあっけらかんと言ってのける。そんなに大騒ぎすることじゃないでしょ、と言わんばかりの態度に、ケントは自分が間違っているような気分になってしまう。

「あれ?   今の感じだと、フローリアも……?」

「うん!」

 元気よく頷かれて、ケントの頭はハレーションを起こした。

 一体全体どうなってんだ?   二人ともに俺の婚約者って……ん?

 急展開過ぎて置いてきぼり状態の思考力が、自分にとって非常に都合のいい点に思い至った。

「…もしかして……どっちかを選ばなくても、いいのか……?」

 でも、それはあまりにも自分にとって都合が良すぎる。バチが当たりそうで怖い。

「「やっぱり」」

 フローリアとアリサは顔を見合わせて笑った。想像していた通りのことでケントが悩んでいた。それが二人には何とはなしに嬉しかった。

 もう一度頷き合い、フローリアとアリサは揃ってケントに手を差し出した。



「「ケント、わたしたちと結婚してください」」



「……」

 咄嗟にケントは返事ができなかった。何か気の利いた返事ができればよかったのだが、ケントにはあまりに高いハードルだった。

 そのため、返事が少々中途半端なものになってしまう。

「あ、はい。光栄です」

 男としてここはビシッと決めたいところだったが、女性の側からプロポーズされている時点で今更感が強い。ケントらしいと言えば実にケントらしかったので、フローリアとアリサには受け入れてもらった嬉しさしかなかった。

「「やったあ!」」

 笑顔を弾けさせたフローリアとアリサはケントに飛びついた。

 ここで支えきれずに押し倒されていたら黒歴史になりかねないところだったが、ケントは何とか頑張った。腰のあたりで危険な音が聞こえたような気がしたが、そこはなけなしの意地で耐えた。

 周りに集まっていた野次馬たちから盛大な拍手と歓声が沸き起こる。

 仮にも王族の婚約がこんな形で決まるのは前代未聞と言えるのだが、誰も気にしてはいなかった。

 ただ一人を除いて。



「待ちなさいよ!」



 その声は禍々しく響いた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

たまに目覚める王女様

青空一夏
ファンタジー
苦境にたたされるとピンチヒッターなるあたしは‥‥

クラスメイトに死ねコールをされたので飛び降りた

ああああ
恋愛
クラスメイトに死ねコールをされたので飛び降りた

悪役令嬢日記

瀬織董李
ファンタジー
何番煎じかわからない悪役令嬢モノ。 夜会で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢がとった行動は……。 なろうからの転載。

ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした

月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。 それから程なくして―――― お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。 「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」 にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。 「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」 そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・ 頭の中を、凄まじい情報が巡った。 これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね? ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。 だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。 ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。 ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」 そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。 フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ! うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって? そんなの知らん。 設定はふわっと。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

思わず呆れる婚約破棄

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある国のとある夜会、その場にて、その国の王子が婚約破棄を言い渡した。 だがしかし、その内容がずさんというか、あまりにもひどいというか……呆れるしかない。 余りにもひどい内容に、思わず誰もが呆れてしまうのであった。 ……ネタバレのような気がする。しかし、良い紹介分が思いつかなかった。 よくあるざまぁ系婚約破棄物ですが、第3者視点よりお送りいたします。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

処理中です...