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34 ケント、怒る

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 次にケントが目指したのは、ラスティーン軍が集結しているガジャの街だった。

 だが、到着してみると、どうも様子がおかしい。軍隊特有の規律や統制といったものがまったく感じられなかったのだ。

「どうなってんだ?」

 街の出入りにも警戒がない。違和感は増す一方だ。

 街中には兵士の姿は多かったが、戦いに臨むにあたっての緊張感はまったく感じられなかった。

 とりあえず町長の屋敷を目指したケントだったが、少し行ったところで顔見知りを見かけた。

「ラリー」

「ん?   お、ケントか」

 そこにいたのはラスティーンにいた時の友人、ラリーだった。アルバレア子爵家の長男で、剣の腕は既に騎士レベルと評された男である。

「どうしたんだ、こんなところで」

「そっちこそ何やってんだ。帝国にケンカ売るなんて、正気か?」

 言われてラリーは肩をすくめた。

「正気じゃねえだろ。見りゃあわかると思うが、とても戦争するような準備はできてねえよ」

「じゃあ何でーー」

「おまえが言うな。おまえが」

 呆れたように言ったラリーは、周囲を見回してケントを物陰に引っ張った。

「どうした?」

「おまえが堂々と顔晒してると、余計な騒ぎになりかねん」

「…それって、まさか……」

「多分おまえが今考えてるのが正解だ」

 ラリーはうんざりした口調で言った。

「アルミナの暴走だよ。あの婚約破棄以降、すっかりおかしくなっちまったーーっと、別におまえのせいだとは思ってねえからな」

「…わかってもらえて嬉しいよ……」

 ずっしりと精神的な疲労を感じて、ケントは深いため息をついた。

「今回もな、勝ち負け度外視で帝国の皇女を討ち取れって命令が下ってな……」

「何!?」

 ケントの理性が一瞬で沸騰した。

「っざけんな!   んなことさせっかよ!!」

「うお !?」

 あまりの勢いに、ラリーが引く。

「どこかで立ち直ってくれればって思ってたけど、俺の考えが甘かったみたいだな」

 友人であるラリーが「ケントってこんな顔もできたんだ」と思うほどの怒髪天ぶり。

「どうする気だ?」

「まずはこの戦を止める」

 一旦言葉を切ったケントは眦を決した。



「その後でラスティーンを潰す」



「……」

 気圧されたラリーが言葉を失う。

「ここに集まってる連中って、ほとんどがアルミナの息がかかってるってことでいいんだな?」

「…息どころじゃないものがかかってる気がするが……まあ、八割方はアルミナのいうことしか聞かない連中だな」

「まさかとは思うが……」

「俺は違うよ」

 ラリーは苦笑混じりに言った。

「誘われて危なかったけど、貞操は守ったぞ」

 その物言いに今度はケントが苦笑する。

 相手がアルミナだと貞操を守るのが男になるのか。

「ーーラリー、これ見てくれ」

 ケントは持ってきた手紙をラリーに渡した。

 不思議そうに受け取ったラリーの表情が、手紙を読み進めていくにつれてどんどん曇っていった。

「…何だよ、これ……」

 これ以上無理というくらい顔をしかめて、ラリーは吐き捨てた。

「あんまり表沙汰にするつもりはなかったんだけど、そうも言ってられなくなってきたからな。アルミナに忠誠誓うのがいかにアホらしいかわかってもらえればと思って持ってきた」

「完全に壊れてんな」

「これ見せれば改心しねえかな?」

「普通は愛想尽かすと思うけどな…アルミナに絡んでる連中はまともとは言いがたいんだよな……」

「とりあえずまともな連中から切り崩していくとするか」

 二人は早速動き出した。

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