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16 お人好しにもほどがある
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「これ、ラスティーンの王様に送って、何とかしてくれって言った方がいいんじゃないの?」
ナスチャの言葉に、ケントは静かに首を振った。
「何で?」
「それをやっちまうと、アルミナが取り返しのつかないことになっちまうだろ」
「もう十分過ぎるほど取り返しつかなくなってると思うけど?」
「それでもさ。今はまだこうしてある程度の自由はあるわけじゃんか。これが表に出たら、まあロクなことにはならんだろ。幽閉されるか、廃嫡されるか、最悪処刑されるかもしれない」
「ここまで来ると、それも自業自得だと思うけどな」
辛辣な意見にケントは苦笑した。
「俺さ、アルミナの不幸を願ってるわけじゃないぞ?」
「そうなの!?」
ナスチャのみならずアリサとティエリーも驚いた声をあげた。
「何で? 普通、憎んでも憎みきれないってなるところじゃないの?」
「別に幸せを望んでるわけでもないけどな」
苦笑しながらケントは言った。
「やられた時はこんちくしょうって思ったし、復讐みたいなのを考えたこともある。あの頃は我ながら黒かったと思う」
「それ、普通だと思う」
「でもさ、こうして今の立場になってみると、毎日大変ではあるけどすげえ充実しててさ、仕事に没頭してるうちに段々どうでもよくなってきちまったんだよな」
ケントが笑顔で言う。それが強がりではない自然な笑顔だったので、三人は複雑な表情を見せる。
「でも、そうしたらこの嫌がらせ、止まらないんじゃないの?」
「もう届いても読まないよ。それなら問題ないだろ?」
「…ケントがそれでいいって言うなら、わたしたちにはそれ以上何も言えないけど……」
歯がゆいものがあるのだろう。ナスチャの表情は非常に微妙なものだった。
「おまえな、お人好しにもほどがあるぞ」
ティエリーが渋い表情で言う。
「まさかとは思うけど、復縁考えてたりとか……」
「それだけは絶対にねえ」
間髪入れぬ即答に、アリサは少しだけほっとする。
心配は尽きないが、これ以上は堂々巡りになってしまう。
「さて、辛気くさい顔しててもしょうがないし、飯にしようぜ。今日はバーベキューを用意してもらってあるから」
「バーベキュー?」
「ああ。みんなでわいわいしながら食べるのには最高の料理だ」
「わあ、楽しみ」
「その場で焼きながら食べるから、外でやるぜ」
ケントの後にアリサが続き、少し間を空けてナスチャとティエリーがついていく。
「ーーどう思う?」
「強がってる感じじゃないんだよな」
「お人好しもここまで来ると、いっそ立派よね」
「逆に心配になるよ。いつか誰かにだまされるんじゃないかって」
「ケントのいいところなのは間違いないんだけど、それだけだと怖いわよね」
大切な友人と思えばこそではあるのだが、この二人にも苦労は絶えないのであった。
「何これ、美味しいーっ!」
「おう、これはいいな」
「この香ばしさが素敵。いくらでも入っちゃいそう」
三人とも大絶賛で、豪快に肉や野菜を刺した串にかぶりついている。
「気に入ってもらえたようで何より」
ケントは満足そうに笑った。
「こんな美味しいお肉食べたことないんだけど」
「ああ、これはワイバーンの肉だな。クセがなくて美味いだろ?」
「ワ、ワイバーン……」
素材を聞いて、女性陣は顔色を悪くしたが、ティエリーは逆に目を輝かせた。
「ワイバーンって、こんなに美味いのか?」
「魔物の肉は基本的にはみんな美味いぞ。俺もまだ食ったことないんだけど、ドラコンの肉は最高に美味いらしいぞ」
「そうなんか。食ってみてえなあ」
そう言いながらティエリーは次々と串を平らげている。
「ここは本当にいいところだなあ。飯は美味いし、冒険者って仕事もあるし、天国みてえだ」
ティエリーは自分の将来設計を完全にグリーンヒルに重ねたようだ。
そしてそれは他の二人も同様だった。
「このままラスティーンにいても未来はないもんね」
「その方がケントの近くにいられるし」
アリサ的にはそこが一番のポイントだ。
「冒険者ギルドだっけ? ああいう風に冒険者のサポートするのもよさそうだよね。わたし自身は冒険者は厳しそうだから」
「ギルドならいつでもいいぞ。王都のギルドなら俺の管轄だからな」
「ぜひお願い!」
これ以上ない話が転がり込んできて、アリサのテンションは一気にメーターを振り切った。
「よかったね」
「うん! もう言うことなし」
アリサは満面の笑みだ。
「何だか安心したらお腹が空いてきちゃった」
「おう、いくらでも食え。まだいっぱいあるぞ」
「ありがと」
アリサはケントから手渡された串にかぶりついた。
結果、ワイバーンの肉はアリサにとって「幸せの味」として記憶されることとなり、大好物になったのだった。
ナスチャの言葉に、ケントは静かに首を振った。
「何で?」
「それをやっちまうと、アルミナが取り返しのつかないことになっちまうだろ」
「もう十分過ぎるほど取り返しつかなくなってると思うけど?」
「それでもさ。今はまだこうしてある程度の自由はあるわけじゃんか。これが表に出たら、まあロクなことにはならんだろ。幽閉されるか、廃嫡されるか、最悪処刑されるかもしれない」
「ここまで来ると、それも自業自得だと思うけどな」
辛辣な意見にケントは苦笑した。
「俺さ、アルミナの不幸を願ってるわけじゃないぞ?」
「そうなの!?」
ナスチャのみならずアリサとティエリーも驚いた声をあげた。
「何で? 普通、憎んでも憎みきれないってなるところじゃないの?」
「別に幸せを望んでるわけでもないけどな」
苦笑しながらケントは言った。
「やられた時はこんちくしょうって思ったし、復讐みたいなのを考えたこともある。あの頃は我ながら黒かったと思う」
「それ、普通だと思う」
「でもさ、こうして今の立場になってみると、毎日大変ではあるけどすげえ充実しててさ、仕事に没頭してるうちに段々どうでもよくなってきちまったんだよな」
ケントが笑顔で言う。それが強がりではない自然な笑顔だったので、三人は複雑な表情を見せる。
「でも、そうしたらこの嫌がらせ、止まらないんじゃないの?」
「もう届いても読まないよ。それなら問題ないだろ?」
「…ケントがそれでいいって言うなら、わたしたちにはそれ以上何も言えないけど……」
歯がゆいものがあるのだろう。ナスチャの表情は非常に微妙なものだった。
「おまえな、お人好しにもほどがあるぞ」
ティエリーが渋い表情で言う。
「まさかとは思うけど、復縁考えてたりとか……」
「それだけは絶対にねえ」
間髪入れぬ即答に、アリサは少しだけほっとする。
心配は尽きないが、これ以上は堂々巡りになってしまう。
「さて、辛気くさい顔しててもしょうがないし、飯にしようぜ。今日はバーベキューを用意してもらってあるから」
「バーベキュー?」
「ああ。みんなでわいわいしながら食べるのには最高の料理だ」
「わあ、楽しみ」
「その場で焼きながら食べるから、外でやるぜ」
ケントの後にアリサが続き、少し間を空けてナスチャとティエリーがついていく。
「ーーどう思う?」
「強がってる感じじゃないんだよな」
「お人好しもここまで来ると、いっそ立派よね」
「逆に心配になるよ。いつか誰かにだまされるんじゃないかって」
「ケントのいいところなのは間違いないんだけど、それだけだと怖いわよね」
大切な友人と思えばこそではあるのだが、この二人にも苦労は絶えないのであった。
「何これ、美味しいーっ!」
「おう、これはいいな」
「この香ばしさが素敵。いくらでも入っちゃいそう」
三人とも大絶賛で、豪快に肉や野菜を刺した串にかぶりついている。
「気に入ってもらえたようで何より」
ケントは満足そうに笑った。
「こんな美味しいお肉食べたことないんだけど」
「ああ、これはワイバーンの肉だな。クセがなくて美味いだろ?」
「ワ、ワイバーン……」
素材を聞いて、女性陣は顔色を悪くしたが、ティエリーは逆に目を輝かせた。
「ワイバーンって、こんなに美味いのか?」
「魔物の肉は基本的にはみんな美味いぞ。俺もまだ食ったことないんだけど、ドラコンの肉は最高に美味いらしいぞ」
「そうなんか。食ってみてえなあ」
そう言いながらティエリーは次々と串を平らげている。
「ここは本当にいいところだなあ。飯は美味いし、冒険者って仕事もあるし、天国みてえだ」
ティエリーは自分の将来設計を完全にグリーンヒルに重ねたようだ。
そしてそれは他の二人も同様だった。
「このままラスティーンにいても未来はないもんね」
「その方がケントの近くにいられるし」
アリサ的にはそこが一番のポイントだ。
「冒険者ギルドだっけ? ああいう風に冒険者のサポートするのもよさそうだよね。わたし自身は冒険者は厳しそうだから」
「ギルドならいつでもいいぞ。王都のギルドなら俺の管轄だからな」
「ぜひお願い!」
これ以上ない話が転がり込んできて、アリサのテンションは一気にメーターを振り切った。
「よかったね」
「うん! もう言うことなし」
アリサは満面の笑みだ。
「何だか安心したらお腹が空いてきちゃった」
「おう、いくらでも食え。まだいっぱいあるぞ」
「ありがと」
アリサはケントから手渡された串にかぶりついた。
結果、ワイバーンの肉はアリサにとって「幸せの味」として記憶されることとなり、大好物になったのだった。
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