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86 難敵アリサ
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「何だかとんでもないことになっちゃったね」
フローリアは深いため息をついた。
「まったくだ。何でこうなったんだか……」
ケントのため息もフローリア負けず劣らず深かった。
あの後、話はトントン拍子に進んでしまい、帝国と王国の合併、ケントの新国王就任が本決まりになってしまったのだ。
もちろん色々な手続き等もあり、今すぐにという訳ではないが、路線としては決まってしまっており、これを覆すことは難しいと思われた。
「こんな若造に着いてきてくれるんかな」
「そこは怖いよね」
フローリアも王妃としてケントを支える立場である。未来に対する不安、恐怖はケントと共通だった。
そしてもうひとつ。
二人には喫緊の課題として向き合わなければならないことがあった。
「…どっちかと言えば、こっちの方が怖いかも」
「まあ、メチャクチャ怒られるだろうな」
そう。
二人が恐れているのはアリサである。
また死にかけたなんて話をしたら、どんなことになるか考えるだけで恐ろしい。ある意味、ヴァンパイアより怖かった。
「ごまかす、ってのは難しいんだろうな」
「嘘ついて、それがバレた時の方が怖い気がする」
「だな」
ここで選択を間違えなかったのは、二人にとって幸いだったと言えよう。
だからと言って、それが説教の軽減に繋がるかと言えば、それはまったく別の問題ではあったのだが。
「……」
無言が一番怖い。
ケントとフローリアは、そのことを現在進行形で学習していた。
目の前ではアリサが無言で腕組みしている。先ほどから仁子とも発していない。
ひとしきり謝罪と言い訳を終えてしまうと、二人にも話すことがなくなってしまう。結果、三人がともに黙り込んだまま、ただ時間だけが過ぎていく。
罵倒された方がどれだけマシか……
最初は気持ち的なものだった息苦しさが、徐々に実際のものに変わりつつあるのは気のせいではないだろう。
いよいよ空気に耐えられなくなったフローリアがケントの脇腹をつついた。
何とかしてよ。
無茶言うな。
アイコンタクトを交わす二人だったが、アリサの一瞥によりピシッと背筋を正した。
「…ぐすっ……」
鼻をすすり上げる音にハッとする二人の前で、アリサは大粒の涙をこぼし始めた。
「え?」
「ア、アリサ!?」
ケントとフローリアは覿面に狼狽えた。
「うわああああああん!」
すぐに身も世もない大号泣になってしまう。
「アリサ、ほら、俺たちなら何でもないからさ」
「そうそう。ほら、もう傷ひとつないし」
「その場では怪我したんでしょ。それも死にそうなヤツ」
「う……」
「どうしていっつもそうなのよ? 少しは待ってる人のこと考えたりしないわけ!?」
「ごめん」
無茶をしがちな自覚はあるので、ケントは下手な言い訳はせずに頭を下げた。
「もうあたし、どうしていいかわからない」
「もし、お嬢さんはこの二人が怪我をすることを危惧しているのかな?」
それまでずっと黙っていた擬人化したドラゴンが突然口を挟んだ。
「え? そ、そうですけど……」
戸惑いながらアリサは答えた。
「それについてはもう心配要らないぞ。この二人には我の加護を与えた故にな」
「…どういうことです? それに、あなたは?」
「我はこの二人に子供を助けられたドラゴンだ。あなたを安心させて進ぜよう」
フローリアは深いため息をついた。
「まったくだ。何でこうなったんだか……」
ケントのため息もフローリア負けず劣らず深かった。
あの後、話はトントン拍子に進んでしまい、帝国と王国の合併、ケントの新国王就任が本決まりになってしまったのだ。
もちろん色々な手続き等もあり、今すぐにという訳ではないが、路線としては決まってしまっており、これを覆すことは難しいと思われた。
「こんな若造に着いてきてくれるんかな」
「そこは怖いよね」
フローリアも王妃としてケントを支える立場である。未来に対する不安、恐怖はケントと共通だった。
そしてもうひとつ。
二人には喫緊の課題として向き合わなければならないことがあった。
「…どっちかと言えば、こっちの方が怖いかも」
「まあ、メチャクチャ怒られるだろうな」
そう。
二人が恐れているのはアリサである。
また死にかけたなんて話をしたら、どんなことになるか考えるだけで恐ろしい。ある意味、ヴァンパイアより怖かった。
「ごまかす、ってのは難しいんだろうな」
「嘘ついて、それがバレた時の方が怖い気がする」
「だな」
ここで選択を間違えなかったのは、二人にとって幸いだったと言えよう。
だからと言って、それが説教の軽減に繋がるかと言えば、それはまったく別の問題ではあったのだが。
「……」
無言が一番怖い。
ケントとフローリアは、そのことを現在進行形で学習していた。
目の前ではアリサが無言で腕組みしている。先ほどから仁子とも発していない。
ひとしきり謝罪と言い訳を終えてしまうと、二人にも話すことがなくなってしまう。結果、三人がともに黙り込んだまま、ただ時間だけが過ぎていく。
罵倒された方がどれだけマシか……
最初は気持ち的なものだった息苦しさが、徐々に実際のものに変わりつつあるのは気のせいではないだろう。
いよいよ空気に耐えられなくなったフローリアがケントの脇腹をつついた。
何とかしてよ。
無茶言うな。
アイコンタクトを交わす二人だったが、アリサの一瞥によりピシッと背筋を正した。
「…ぐすっ……」
鼻をすすり上げる音にハッとする二人の前で、アリサは大粒の涙をこぼし始めた。
「え?」
「ア、アリサ!?」
ケントとフローリアは覿面に狼狽えた。
「うわああああああん!」
すぐに身も世もない大号泣になってしまう。
「アリサ、ほら、俺たちなら何でもないからさ」
「そうそう。ほら、もう傷ひとつないし」
「その場では怪我したんでしょ。それも死にそうなヤツ」
「う……」
「どうしていっつもそうなのよ? 少しは待ってる人のこと考えたりしないわけ!?」
「ごめん」
無茶をしがちな自覚はあるので、ケントは下手な言い訳はせずに頭を下げた。
「もうあたし、どうしていいかわからない」
「もし、お嬢さんはこの二人が怪我をすることを危惧しているのかな?」
それまでずっと黙っていた擬人化したドラゴンが突然口を挟んだ。
「え? そ、そうですけど……」
戸惑いながらアリサは答えた。
「それについてはもう心配要らないぞ。この二人には我の加護を与えた故にな」
「…どういうことです? それに、あなたは?」
「我はこの二人に子供を助けられたドラゴンだ。あなたを安心させて進ぜよう」
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