77 / 89
77 力の差
しおりを挟む
退却を始めるのとほぼ同時、ドラゴンのものと思われる叫びが響いた。
思わず振り返ったケントとフローリアの視界に映ったのは、全身から血を噴き出しながら倒れるドラゴンの姿だった。
「「!!」」
相当の距離があった。だから気のせいだと言われればそうだったかもしれないが、ケントもフローリアもドラゴンと目が合ったと感じていた。
ドラゴンは助けを求めていた。少なくとも二人はそう受け取った。
「ケント!」
「おう!」
一瞬の意志疎通。
次の瞬間、二人は身を翻し、戦場に向けて駆け出していた。本能的な恐怖を上回る使命感に衝き動かされ、二人は駆けた。
「気づかなかったけど、あのドラゴンまだ子供だよね」
「多分な」
「あんな顔されたら、助けないわけにいかないわよね」
「そういうこと!」
認識を共通させて、二人はスピードアップする。
「先行する! 援護お願い」
「おう」
風魔法を使ってフローリアは加速していく。
ヴァンパイアがフローリアに向き直った瞬間、ケントは全力の火魔法をファイアボールとして放った。
牽制になればと放った火魔法だったが、ヴァンパイアにとってはまるっきり脅威にはならなかったようだ。めんどくさそうな右手の一振りで、ケントの魔法はきれいに霧消してしまう。
だが、それくらいでケントは気落ちしない。
「だろうと思ったよ!」
端っから一撃で通用するとは思っていなかったのだ。想定通りなのだから、気落ちするはずもない。
「これならどうだ!」
続いてケントが繰り出したのは、火魔法の連射。十を超える火球がヴァンパイアを襲う。一撃で駄目なら手数で勝負というわけだ。
「ウゥラララララララァーーーッ!」
無酸素運動の限界に挑戦する勢いでケントは火球を連射する。
「す、すごい……」
隙を衝いて攻撃しなければいけない立場のフローリアだったが、ケントの人間離れした魔法に度肝を抜かれ、呆然と立ち尽くしてしまう。
火球は狙い違わず全弾がヴァンパイアを直撃する。爆炎が上がり、一帯の視界が一時的に利かなくなる。
「どうだっ!」
手応えを感じたケントは吼えた。
これで駄目ならお手上げである。
ゆっくりと晴れていく煙の中に人形のシルエットが見えてきた。
「…嘘だろ……」
さすがに無傷ではないものの、致命的なダメージには程遠い様子である。
「どうすればいいのよ……」
フローリアの表情に絶望がよぎる。
「まだだ!」
ケントの声にはまだ張りがあった。サイクロプスロードと戦った時もそうだったが、この男は諦めるということを知らないのかとある意味感心してしまう。
「フローリア、風魔法を全力でぶっ放してくれ!」
「どうする気!?」
「そこに俺の火魔法を合わせる!」
「わかった!」
カウントダウンに合わせてそれぞれの魔法を全開で撃ち出す。
一人で撃ち出した時に比べて倍以上の規模のファイアトルネードがヴァンパイアを直撃した。
「これなら!」
しかし、確信しかけた勝利は、秒で覆された。炎が消えた後、ヴァンパイアはまだ両足で大地を踏みしめていた。先程よりダメージは大きそうだが、効いたとは思えなかった。
「マジかよ……」
さすがのケントも声のトーンが下がる。最大火力が直撃してこのダメージでは、勝ち筋がまったく見えなかった。
「ふはははははは」
ヴァンパイアが高笑いを響かせた。
「おもしろいな、人間。なかなかの威力だ。この時代にこれほどの使い手がいるとは思わなかったぞ」
言葉だけでなく、ヴァンパイアは本当に楽しそうだった。
「本物の魔法を見せてやろう」
そう言うと、ヴァンパイアは右の掌を上に向けた。掌から浮いたところに黒い玉が生まれ、徐々に大きさを増していく。
ヤバい。あれは絶対ヤバいやつだ。
ケントの理屈ではなく、本能が理解した。あれを食らったら、間違いなく命に関わる。
ヴァンパイアの掌から黒玉が放たれた。渦を巻くように回転しながら二人に向かって飛んできた。
「うおっ!?」
「きゃあっ!?」
左右に飛んだ二人の真ん中で黒玉が炸裂した。二人共に軽々と吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「…ぐ、う……」
かろうじて意識は保ったケントだったが、受けたダメージはかなり深刻だった。
動くのを拒否しようとする身体に鞭打って、ケントはフローリアの姿を探した。
離れたところに倒れたフローリアはピクリとも動かない。気を失っているだけなのか、それとも最悪の事態になっているのか、ケントの位置からはわからなかった。
身を起こそうとしたケントの目に近づいて来るヴァンパイアが映る。
状況は絶望的だった。
思わず振り返ったケントとフローリアの視界に映ったのは、全身から血を噴き出しながら倒れるドラゴンの姿だった。
「「!!」」
相当の距離があった。だから気のせいだと言われればそうだったかもしれないが、ケントもフローリアもドラゴンと目が合ったと感じていた。
ドラゴンは助けを求めていた。少なくとも二人はそう受け取った。
「ケント!」
「おう!」
一瞬の意志疎通。
次の瞬間、二人は身を翻し、戦場に向けて駆け出していた。本能的な恐怖を上回る使命感に衝き動かされ、二人は駆けた。
「気づかなかったけど、あのドラゴンまだ子供だよね」
「多分な」
「あんな顔されたら、助けないわけにいかないわよね」
「そういうこと!」
認識を共通させて、二人はスピードアップする。
「先行する! 援護お願い」
「おう」
風魔法を使ってフローリアは加速していく。
ヴァンパイアがフローリアに向き直った瞬間、ケントは全力の火魔法をファイアボールとして放った。
牽制になればと放った火魔法だったが、ヴァンパイアにとってはまるっきり脅威にはならなかったようだ。めんどくさそうな右手の一振りで、ケントの魔法はきれいに霧消してしまう。
だが、それくらいでケントは気落ちしない。
「だろうと思ったよ!」
端っから一撃で通用するとは思っていなかったのだ。想定通りなのだから、気落ちするはずもない。
「これならどうだ!」
続いてケントが繰り出したのは、火魔法の連射。十を超える火球がヴァンパイアを襲う。一撃で駄目なら手数で勝負というわけだ。
「ウゥラララララララァーーーッ!」
無酸素運動の限界に挑戦する勢いでケントは火球を連射する。
「す、すごい……」
隙を衝いて攻撃しなければいけない立場のフローリアだったが、ケントの人間離れした魔法に度肝を抜かれ、呆然と立ち尽くしてしまう。
火球は狙い違わず全弾がヴァンパイアを直撃する。爆炎が上がり、一帯の視界が一時的に利かなくなる。
「どうだっ!」
手応えを感じたケントは吼えた。
これで駄目ならお手上げである。
ゆっくりと晴れていく煙の中に人形のシルエットが見えてきた。
「…嘘だろ……」
さすがに無傷ではないものの、致命的なダメージには程遠い様子である。
「どうすればいいのよ……」
フローリアの表情に絶望がよぎる。
「まだだ!」
ケントの声にはまだ張りがあった。サイクロプスロードと戦った時もそうだったが、この男は諦めるということを知らないのかとある意味感心してしまう。
「フローリア、風魔法を全力でぶっ放してくれ!」
「どうする気!?」
「そこに俺の火魔法を合わせる!」
「わかった!」
カウントダウンに合わせてそれぞれの魔法を全開で撃ち出す。
一人で撃ち出した時に比べて倍以上の規模のファイアトルネードがヴァンパイアを直撃した。
「これなら!」
しかし、確信しかけた勝利は、秒で覆された。炎が消えた後、ヴァンパイアはまだ両足で大地を踏みしめていた。先程よりダメージは大きそうだが、効いたとは思えなかった。
「マジかよ……」
さすがのケントも声のトーンが下がる。最大火力が直撃してこのダメージでは、勝ち筋がまったく見えなかった。
「ふはははははは」
ヴァンパイアが高笑いを響かせた。
「おもしろいな、人間。なかなかの威力だ。この時代にこれほどの使い手がいるとは思わなかったぞ」
言葉だけでなく、ヴァンパイアは本当に楽しそうだった。
「本物の魔法を見せてやろう」
そう言うと、ヴァンパイアは右の掌を上に向けた。掌から浮いたところに黒い玉が生まれ、徐々に大きさを増していく。
ヤバい。あれは絶対ヤバいやつだ。
ケントの理屈ではなく、本能が理解した。あれを食らったら、間違いなく命に関わる。
ヴァンパイアの掌から黒玉が放たれた。渦を巻くように回転しながら二人に向かって飛んできた。
「うおっ!?」
「きゃあっ!?」
左右に飛んだ二人の真ん中で黒玉が炸裂した。二人共に軽々と吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「…ぐ、う……」
かろうじて意識は保ったケントだったが、受けたダメージはかなり深刻だった。
動くのを拒否しようとする身体に鞭打って、ケントはフローリアの姿を探した。
離れたところに倒れたフローリアはピクリとも動かない。気を失っているだけなのか、それとも最悪の事態になっているのか、ケントの位置からはわからなかった。
身を起こそうとしたケントの目に近づいて来るヴァンパイアが映る。
状況は絶望的だった。
0
お気に入りに追加
4,514
あなたにおすすめの小説
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」
サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる