婚約破棄 ~ガチでやられると結構キツい~

オフィス景

文字の大きさ
上 下
75 / 89

75 漁夫の利作戦

しおりを挟む
「何かプレッシャーがハンパないな」

 誰かの呟きがやけに大きく響いた。

 それで初めて必要以上に無口になっていたことに気づかされる。そして、必要な措置を講じていなかったことも。

「十人一組のグループを作って、それぞれ適度な距離をおいてくれ」

「どうしたの?」

「相手が何してくるかわからんからな。遠距離からの攻撃手段を持ってたら、こんな風にひとかたまりになってたらいい的でしかない」

「言われてみればそうね」

 部隊を再編し、行軍を再開する。俺はフローリアやゴライオさんたちと一緒に先頭グループだ。当然ここにいるのは頑丈な連中だ。そう言うとフローリアが怒りそうだから言わんけど。

「他の魔物は本当にいないっすね」

「これだけのプレッシャーに耐えられるのはそうはいないだろう。特に魔物なんて本能だけで生きてるんだろうしな。敵わねえと思えばとっととケツまくるだろ」

「何で俺たちはそんなおっかねえところに向かってるんですかねえ」

「本能だけで生きてないからだろ」

「人間ってなあ難儀なモンですなあ」

「まったくだ」

 と苦笑いした時だった。



「~~~~~~ッ!」



 凶悪な咆哮が大気をつんざいた。

「「「うわっ!?」」」

 一人の例外もなく、地面に倒れるかしゃがみこんだ。俺は後ろにひっくり返った。

「何だっ!?」

「ケント、あれ!」

 フローリアが指差す空を見上げると、伝説上の怪物がそこにいた。

「ドラゴン!?」

 初めて見るから本当にドラゴンなのかわからんけど、多分間違いないだろう。普通にドラゴンと言われて連想する姿がそこにあった。

「どうなってんだ!?   ヴァンパイアの次はドラゴンなんてーーいつからここは魔界になっちまったんだ!?」

 泣きたくなってきた。ここまで来るともう天災だ。人間の手に負える話ではない。

「くそったれが!   ただじゃ死なねえぞ」

 最大火力で魔法をブッ放してやろうと思ったら、フローリアに止められた。

「待って。様子がーー」

 ドラゴンはこちらには目もくれず、上空を飛び去っていく。

「あれ?   助かった?」

 絶対殺られると思ったんだが、ドラゴンの興味はこちらには向いていなかったようだ。一直線に辺境の奥地を目指して飛んでいく。

「ーーもしかして、ヴァンパイアのところへ行ったのか?」

「どうもそれっぽいな」

「何で?」

「魔物の行動原理を訊かれても困るが、察するに『俺のナワバリででけえ面すんじゃねえ』ってところじゃないか」

「なるほど」

 いかにもありそうな話に思えた。そして、もしそうだとすれば、こっちにとってはこんなにありがたい話はない。

「潰し合ってくれりゃあラッキーだな」

「どっちが生き残っても困るしな」

「よし、行くぞ」

「え!?」

 皆から変な目で見られた。

「何で行くの?   放っとけば共倒れになるんじゃないの?」

「ならなかったらどうする?」

 一応最悪のケースを想定してる。

「どっちかが生き残ったら、またこっちに牙を剥いてくるぞ。そうさせないためにはここで確実に両方とも仕留めにゃならんだろ。どっちが勝つにせよ無傷じゃ済まんだろうから、弱ったところをやっつければいい」

「…それ、ドヤ顔で言うことじゃないような……」

「うるさい。結果良ければすべて良しだ」

 って言うか、今回の場合、結果以外にゃ何もなくてもいい。楽できるなら尚更いい。



「よし、今から漁夫の利作戦を発動するぞ」
しおりを挟む
感想 332

あなたにおすすめの小説

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

婚約破棄されたけど、逆に断罪してやった。

ゆーぞー
ファンタジー
気がついたら乙女ゲームやラノベによくある断罪シーンだった。これはきっと夢ね。それなら好きにやらせてもらおう。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

異世界から帰れない

菜花
ファンタジー
ある日、次元移動する魔物に遭遇して異世界に落とされた少女。幸い魔力チートだったので何とかして元の世界へ帰ろうとするが……。カクヨムにも同じ話があります。

もう、終わった話ですし

志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。 その知らせを聞いても、私には関係の無い事。 だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥ ‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの 少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?

思わず呆れる婚約破棄

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある国のとある夜会、その場にて、その国の王子が婚約破棄を言い渡した。 だがしかし、その内容がずさんというか、あまりにもひどいというか……呆れるしかない。 余りにもひどい内容に、思わず誰もが呆れてしまうのであった。 ……ネタバレのような気がする。しかし、良い紹介分が思いつかなかった。 よくあるざまぁ系婚約破棄物ですが、第3者視点よりお送りいたします。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

処理中です...