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74 軍議
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「大変です!」
一人の兵士が報告に駆け込んで来た。
「魔物の流出が増えました!」
「だろうな」
うんざりしたようにケントは呟いた。
これまで偵察隊が成果を挙げられなかったのも道理、対象となる魔物がまだ現れていなかったのだ。
復活の気配だけで他の魔物を逃走させるとか、どんだけなんだよ。
正直に言ってこの後のことは考えたくないと思ったケントだったが、そういうわけにもいかない。
改めて偵察隊を組織することになったのだが、ケントはそのメンバーによくよく言い含める。
「絶対に無理はするなよ。情報は集められる範囲でいい。心の準備ができればいいんだ。まず自分の命を最優先するように」
そう言われて送り出された偵察隊は、ケントの命令を守った上でしっかりと結果を持ち帰ってきた。
「…そうか、やっぱりヴァンパイアか……」
「魔力がデタラメに吹き荒れていたのであまり接近はできなかったのですが、事前に調べた特徴は一致しておりました。おそらく間違いないかと」
「わかった。ごくろうさん。引き続き監視を頼む。伝承と異なる部分が見つかったらすぐに報告してくれ」
「承知いたしました」
偵察隊を下がらせ、作戦会議に入る。
「初戦に全てを懸ける。準備できるものを全部注ぎ込んで、一気に片をつける」
ケントが基本構想を口にすると、会議場にざわめきが広がった。
「そ、それはあまりにも危険過ぎませんか?」
「まずは一当てして様子を見るべきでは?」
「そうです。少なくとも弱点などの情報を収集してからでないとーー」
「どうやって?」
「え?」
「弱点、どうやって探る?」
「ですからそれは、まずは一戦してみてーー」
「それで、見つからなかったら? 見つかるまで繰り返す?」
「……」
ここでようやく他の幹部たちはケントが言わんとすることを理解した。
「言わずもがなだが、ヴァンパイアは伝説級のバケモンだ。そうそう弱点が都合よく見つかるとは思ってない。あるかどうかわからんものを探るために貴重な戦力を無駄に磨り減らすつもりはないから、今わかってることを基に作戦立てていくーー何か質問は?」
どこからも声は上がらなかった。
「それから、今回の指揮はフローリアに執ってもらう」
「え? 何で?」
突然話を振られて、フローリアは目を丸くした。
「俺は冒険者の魔法使いたちと前線に立つから」
「何言ってんのよ!?」
フローリアはテーブルを叩いて立ち上がった。
「それは駄目だって話し合ったばかりでしょ!?」
「この前とは状況が違うだろ。敵がヴァンパイアだってわかって、最大戦力の投入が必要だってなれば、俺が後方で遊んでるわけにいかないじゃんか」
確かに魔法を考えれば、ケントは最大戦力である。後方に配置するのは下策だろう。それがわからないフローリアではなかった。
「それならあたしもーー」
「そしたら誰が指揮執るんだ?」
「そんなの誰でもーー」
「そういうわけにはいかんだろ」
ケントは苦笑混じりに言った。
「何かあった時に責任取る人間が必要だろ。王族が二人もいて、どっちも責任取らないってわけにはーー」
「騙されないもん」
フローリアは眼光鋭くケントを睨んだ。
「そうやってもっともらしいこと言って、あたしを安全な場所に置いとこうっていうんでしょうけど、その手には乗らないわよ」
「いやいや、別に騙そうとか思ってないから」
「それに、ケントの言ってることは矛盾してる」
「矛盾?」
「最大戦力をぶつけるって言うなら、あたしは当然最前線に立つべきだと思う」
「いやいや、ただ強いヤツを並べりゃいいってわけじゃねえぞ?」
ケントの言葉に、フローリアは場違いなほど可愛らしく頬を膨らませた。
「あたし、ケントとなら誰よりも上手に連携とって見せますけど?」
「う……」
ぐうの音も出なくなったケントだったが、そんな風に言われて嬉しくないわけがなかった。
「ハッハッハ。ケント様の負けですな」
幹部の中で一番年嵩のディアス将軍が笑うと、他の幹部たちは大きく頷いた。戦場とは思えぬゆるーい空気が流れる。
「ああもう、勝手にしろ!」
「はあい、ついていきまーす」
フローリアのおどけた言葉が、軍議の締めとなった。
一人の兵士が報告に駆け込んで来た。
「魔物の流出が増えました!」
「だろうな」
うんざりしたようにケントは呟いた。
これまで偵察隊が成果を挙げられなかったのも道理、対象となる魔物がまだ現れていなかったのだ。
復活の気配だけで他の魔物を逃走させるとか、どんだけなんだよ。
正直に言ってこの後のことは考えたくないと思ったケントだったが、そういうわけにもいかない。
改めて偵察隊を組織することになったのだが、ケントはそのメンバーによくよく言い含める。
「絶対に無理はするなよ。情報は集められる範囲でいい。心の準備ができればいいんだ。まず自分の命を最優先するように」
そう言われて送り出された偵察隊は、ケントの命令を守った上でしっかりと結果を持ち帰ってきた。
「…そうか、やっぱりヴァンパイアか……」
「魔力がデタラメに吹き荒れていたのであまり接近はできなかったのですが、事前に調べた特徴は一致しておりました。おそらく間違いないかと」
「わかった。ごくろうさん。引き続き監視を頼む。伝承と異なる部分が見つかったらすぐに報告してくれ」
「承知いたしました」
偵察隊を下がらせ、作戦会議に入る。
「初戦に全てを懸ける。準備できるものを全部注ぎ込んで、一気に片をつける」
ケントが基本構想を口にすると、会議場にざわめきが広がった。
「そ、それはあまりにも危険過ぎませんか?」
「まずは一当てして様子を見るべきでは?」
「そうです。少なくとも弱点などの情報を収集してからでないとーー」
「どうやって?」
「え?」
「弱点、どうやって探る?」
「ですからそれは、まずは一戦してみてーー」
「それで、見つからなかったら? 見つかるまで繰り返す?」
「……」
ここでようやく他の幹部たちはケントが言わんとすることを理解した。
「言わずもがなだが、ヴァンパイアは伝説級のバケモンだ。そうそう弱点が都合よく見つかるとは思ってない。あるかどうかわからんものを探るために貴重な戦力を無駄に磨り減らすつもりはないから、今わかってることを基に作戦立てていくーー何か質問は?」
どこからも声は上がらなかった。
「それから、今回の指揮はフローリアに執ってもらう」
「え? 何で?」
突然話を振られて、フローリアは目を丸くした。
「俺は冒険者の魔法使いたちと前線に立つから」
「何言ってんのよ!?」
フローリアはテーブルを叩いて立ち上がった。
「それは駄目だって話し合ったばかりでしょ!?」
「この前とは状況が違うだろ。敵がヴァンパイアだってわかって、最大戦力の投入が必要だってなれば、俺が後方で遊んでるわけにいかないじゃんか」
確かに魔法を考えれば、ケントは最大戦力である。後方に配置するのは下策だろう。それがわからないフローリアではなかった。
「それならあたしもーー」
「そしたら誰が指揮執るんだ?」
「そんなの誰でもーー」
「そういうわけにはいかんだろ」
ケントは苦笑混じりに言った。
「何かあった時に責任取る人間が必要だろ。王族が二人もいて、どっちも責任取らないってわけにはーー」
「騙されないもん」
フローリアは眼光鋭くケントを睨んだ。
「そうやってもっともらしいこと言って、あたしを安全な場所に置いとこうっていうんでしょうけど、その手には乗らないわよ」
「いやいや、別に騙そうとか思ってないから」
「それに、ケントの言ってることは矛盾してる」
「矛盾?」
「最大戦力をぶつけるって言うなら、あたしは当然最前線に立つべきだと思う」
「いやいや、ただ強いヤツを並べりゃいいってわけじゃねえぞ?」
ケントの言葉に、フローリアは場違いなほど可愛らしく頬を膨らませた。
「あたし、ケントとなら誰よりも上手に連携とって見せますけど?」
「う……」
ぐうの音も出なくなったケントだったが、そんな風に言われて嬉しくないわけがなかった。
「ハッハッハ。ケント様の負けですな」
幹部の中で一番年嵩のディアス将軍が笑うと、他の幹部たちは大きく頷いた。戦場とは思えぬゆるーい空気が流れる。
「ああもう、勝手にしろ!」
「はあい、ついていきまーす」
フローリアのおどけた言葉が、軍議の締めとなった。
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