68 / 89
68 前世の知識
しおりを挟む
「ものすごく嫌な予感しかしない」
内なるプレッシャーに煽られるようにケントは魔法の修得に励んだ。
急がないと間に合わないかもしれない。
その思いは日に日に強くなっていくばかり。具体的な兆候などがあるわけではないのだが、ケントは良くないことが起こるのは確信していたので、貪欲に力を求めた。
その際に思わぬところで役に立ったのが前世の知識であった。
何事においてもそうなのだが、知識があるのとないのとでは天と地ほどの違いが出る。
今回のケースでいけば、魔法にはどんなものがあるのか、その一点を知っているだけで習熟のスピードに恐ろしいほどの差が出てくる。
「炎と風をミックスさせてーーファイアトルネード!」
ケントの手から炎を纏った竜巻が生み出され、一抱えはありそうな大岩を木端微塵に吹き飛ばした。
「「すごいね……」」
見ていたフローリアとアリサは目を真ん丸に見開いている。これだけの破壊力を個人が操るなど、これまでは想像も出来なかったのだ。
「何がすごいって、火の魔法と風の魔法を組み合わせちゃうところよね。どういう頭してたらそんな発想が生まれるわけ?」
「そうよね。もしかして、前世の記憶?」
「ああ」
ケントは小さく首肯した。
「なるほどーーケントの前世って魔法があったの?」
「物語の中にな」
「物語?」
アリサはきょとんとした顔になる。
「娯楽のひとつでな、歴史書とか恋愛ものを頭の中で作り上げるんだ。んで、それを一冊の書物にするんだ」
ケントの説明に、フローリアとアリサは顔を見合わせた。
「それってすごくない?」
「少なくともあたしにはできないわね」
「ケントもその物語を作ってたの?」
「いや、俺は読む方専門。その代わりいろんなものたくさん読んだぞ」
「その中に魔法があったの?」
「そういうこと」
「そうなんだ」
フローリアは感心したように言った。
「どんな人が最初に魔法を考えたんだろうね」
「ある意味天才だよな」
ケントも頷く。もしもラノベなどの素地がなければ、自分も魔法を使いこなすことなど出来なかったはずだ。顔も名も知らぬ先人に、ケントは最大級の感謝を捧げた。
「で、さっきの魔法でもまだ足りないの?」
フローリアは眉をひそめて訊いた。今見せてもらったファイアトルネードでも個人が持つには過ぎた力だと思うのだが、ケントはまだまだ満足していないように見えたのだ。
「…多分これじゃダメな気がする」
「何と戦う気でいるの!?」
ツッコミにケントは複雑な表情を見せた。
「俺にもよくわからないんだ。でも、ずっと嫌な予感が消えないんだよ」
思い詰めたようなケントの言葉に、フローリアとアリサは小さなため息をついた。
「これ、魔法使いがケントだからいいけど、別の人ーー例えばウチのお父様だったりしたら確実にヤバいわね」
「確かに。ケントじゃなかったら怖かったかも」
アリサも同調する。
「なるほど。ってことは、一般人から見れば、俺は危険人物にも見えるってことだな。気をつけよう」
ケントに自分を客観視できる冷静さがあったのは幸いなことであった。
内なるプレッシャーに煽られるようにケントは魔法の修得に励んだ。
急がないと間に合わないかもしれない。
その思いは日に日に強くなっていくばかり。具体的な兆候などがあるわけではないのだが、ケントは良くないことが起こるのは確信していたので、貪欲に力を求めた。
その際に思わぬところで役に立ったのが前世の知識であった。
何事においてもそうなのだが、知識があるのとないのとでは天と地ほどの違いが出る。
今回のケースでいけば、魔法にはどんなものがあるのか、その一点を知っているだけで習熟のスピードに恐ろしいほどの差が出てくる。
「炎と風をミックスさせてーーファイアトルネード!」
ケントの手から炎を纏った竜巻が生み出され、一抱えはありそうな大岩を木端微塵に吹き飛ばした。
「「すごいね……」」
見ていたフローリアとアリサは目を真ん丸に見開いている。これだけの破壊力を個人が操るなど、これまでは想像も出来なかったのだ。
「何がすごいって、火の魔法と風の魔法を組み合わせちゃうところよね。どういう頭してたらそんな発想が生まれるわけ?」
「そうよね。もしかして、前世の記憶?」
「ああ」
ケントは小さく首肯した。
「なるほどーーケントの前世って魔法があったの?」
「物語の中にな」
「物語?」
アリサはきょとんとした顔になる。
「娯楽のひとつでな、歴史書とか恋愛ものを頭の中で作り上げるんだ。んで、それを一冊の書物にするんだ」
ケントの説明に、フローリアとアリサは顔を見合わせた。
「それってすごくない?」
「少なくともあたしにはできないわね」
「ケントもその物語を作ってたの?」
「いや、俺は読む方専門。その代わりいろんなものたくさん読んだぞ」
「その中に魔法があったの?」
「そういうこと」
「そうなんだ」
フローリアは感心したように言った。
「どんな人が最初に魔法を考えたんだろうね」
「ある意味天才だよな」
ケントも頷く。もしもラノベなどの素地がなければ、自分も魔法を使いこなすことなど出来なかったはずだ。顔も名も知らぬ先人に、ケントは最大級の感謝を捧げた。
「で、さっきの魔法でもまだ足りないの?」
フローリアは眉をひそめて訊いた。今見せてもらったファイアトルネードでも個人が持つには過ぎた力だと思うのだが、ケントはまだまだ満足していないように見えたのだ。
「…多分これじゃダメな気がする」
「何と戦う気でいるの!?」
ツッコミにケントは複雑な表情を見せた。
「俺にもよくわからないんだ。でも、ずっと嫌な予感が消えないんだよ」
思い詰めたようなケントの言葉に、フローリアとアリサは小さなため息をついた。
「これ、魔法使いがケントだからいいけど、別の人ーー例えばウチのお父様だったりしたら確実にヤバいわね」
「確かに。ケントじゃなかったら怖かったかも」
アリサも同調する。
「なるほど。ってことは、一般人から見れば、俺は危険人物にも見えるってことだな。気をつけよう」
ケントに自分を客観視できる冷静さがあったのは幸いなことであった。
0
お気に入りに追加
4,514
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした
月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。
それから程なくして――――
お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。
「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」
にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。
「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」
そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・
頭の中を、凄まじい情報が巡った。
これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね?
ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。
だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。
ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。
ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」
そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。
フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ!
うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって?
そんなの知らん。
設定はふわっと。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
思わず呆れる婚約破棄
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある国のとある夜会、その場にて、その国の王子が婚約破棄を言い渡した。
だがしかし、その内容がずさんというか、あまりにもひどいというか……呆れるしかない。
余りにもひどい内容に、思わず誰もが呆れてしまうのであった。
……ネタバレのような気がする。しかし、良い紹介分が思いつかなかった。
よくあるざまぁ系婚約破棄物ですが、第3者視点よりお送りいたします。
【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する
土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。
異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。
その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。
心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。
※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。
前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。
主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。
小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる