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地球で一番の文化
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「この星で一番の文化は何か――それを教えて欲しい」
「……」
「……」
「……」
沈黙は結構長かった。
最初に口を開いたのは、涼子だった。
「えーっと、その、文化?」
「うむ。この星で一番の文化が何かが知りたいのだ」
「文化……」
視線を振られて、大輔は大慌てで首を横に振った。
「俺がそんなこと知るわけないじゃんか」
「あたしだってそんなのわからないわ。大体、漠然としすぎよ」
「だよな。なあ、もうちょっとヒントみたいなものってないのか?」
「誰に訊いても知ってるもの、ということでどうだろう?」
それを聞いた途端、大輔の顔が明るくなった。
「え? 何? そんなことでいいのか?」
「わかるの?」
「ああ。そういう定義なら、サッカーでいいじゃんか」
「サッカー?」
意外な答えだったらしい。涼子は小首を傾げた。ヒカリも同様で、不思議そうな顔をしている。
「サッカーと言うと、大勢でボールを蹴っている、あれか?」
「そう。それだ」
「この星ではあれを文化と言うのか?」
「誰に訊いても知ってるものだろ。それならサッカーで間違いないぞ」
一片の迷いもなく、大輔は言い切る。
「そうなのか?」
訊かれて、涼子は困ったような顔になる。
「…うーん、何と言うか……微妙なところね……」
「おいおい、クラブ作ろうって人間がそんなことでどうすんだ」
「そんなこと言っても……」
「そうだな、じゃあこういう言い方ならどうだ? サッカーは世界中に浸透してる。その証拠に、俺、ボールひとつあれば、言葉の通じない外国でだって友達作れる自信あるぜ。言葉が通じない相手だって結びつけることができるんだ。それを文化と言わずして何と呼ぶ」
「なるほど」
そう言われれば、筋が通っているようにも聞こえる。
「ほう、それは面白いな。その言葉に嘘はないか?」
「できると思うぜ。一緒にボールを蹴ればいいだけだ」
「そなたがそう言うのであれば、間違いないのかもしれんな」
ヒカリが沈思する。
ややあって、顔を上げたヒカリは真正面から大輔を見た。
「その方向でいってみることにする。ついては協力を願いたい」
「…俺にどうしろと?」
「私にサッカーのことをいろいろと教えて欲しい」
「それくらいなら構わんが」
「ありがとう。では、まずサッカーとは何かを訊いてもいいか?」
「世界で一番普及しているスポーツだな」
「それがどうして文化になるのだ?」
「今ワールドカップをやってるのは知ってるか?」
「知らない」
「それを見ればわかる」
「では、ワールドカップとは何なのだ?」
「世界最大のスポーツイベントだ」
「それはオリンピックではないのか?」
「ちっちっち」
芝居がかった仕種で、大輔は人差し指を振る。
「予選の参加国やら、テレビの視聴者数やら考えてけば、ワールドカップの方に軍配が上がるな」
「そうなのか」
「サッカーは世界中にあるんだよ。その分基準がはっきりしてるんだよな。だからどっちが強いか、はっきり決められる。んで、大事なのはここなんだけど、それぞれの国にはそれぞれが築き上げてきたサッカーのスタイルがあるんだ。とにかくイケイケで攻めるところ。まず守備ありきの慎重派。勝ち負けよりも美しいサッカーを追求しようとする国。何が飛び出すかわからないびっくり箱みたいな国。同じサッカーでも、その国によって個性が出る。あんたの言葉を借りれば文化って言い換えてもいいかもしれない。自分たちの文化がぶつかるからこそ熱くなる。それがワールドカップなんだ」
そういう話をしている時の大輔の表情は無邪気な子供そのもので、その混じり気のない純粋な瞳は、思わずヒカリをどきりとさせる。
「それはぜひ見てみたいな。どこへ行けばそのワールドカップとやらを見れる?」
「今日はちょうど決勝だからな。テレビでやるぞ」
「テレビではなくて、その試合はどこでやるんだ?」
「アルゼンチンだけど」
「ならばそこへ行こう。案内してくれ」
「はあ!?」
大輔の声が裏返る。
何を言い出すんだ、こいつは。
「どうせなら現地で見た方がいいだろう」
「そりゃそうだが、できっこねえじゃねえか。これからアルゼンチンだなんて」
「そうでもないぞ」
ヒカリは得意気に言った。
「任せてくれればアルゼンチンまでは連れて行こう。そうしたらその先の案内をお願いしたいのだが」
大輔は涼子と顔を見合わせた。
どう思う?
関わらない方がいいと思う。
同感だ。
アイコンタクトが成立し、二人は踵を返した。
「じゃあそういうことで」
「待て!」
今度は衝撃波を放つようなことはせず、大輔の腰にタックルを決めた。
「悪いけど、それほど暇じゃないんだ。頑張って文化探してくれ」
「おぬししかいないのだ」
「何で俺なんだ」
「自分では気づいていないのであろう。しかしな、おぬしの内包熱量はこの星の中でも群を抜いておるのだ」
「ナイホウネツリョウ? 何だ、そりゃ?」
「……」
「……」
「……」
沈黙は結構長かった。
最初に口を開いたのは、涼子だった。
「えーっと、その、文化?」
「うむ。この星で一番の文化が何かが知りたいのだ」
「文化……」
視線を振られて、大輔は大慌てで首を横に振った。
「俺がそんなこと知るわけないじゃんか」
「あたしだってそんなのわからないわ。大体、漠然としすぎよ」
「だよな。なあ、もうちょっとヒントみたいなものってないのか?」
「誰に訊いても知ってるもの、ということでどうだろう?」
それを聞いた途端、大輔の顔が明るくなった。
「え? 何? そんなことでいいのか?」
「わかるの?」
「ああ。そういう定義なら、サッカーでいいじゃんか」
「サッカー?」
意外な答えだったらしい。涼子は小首を傾げた。ヒカリも同様で、不思議そうな顔をしている。
「サッカーと言うと、大勢でボールを蹴っている、あれか?」
「そう。それだ」
「この星ではあれを文化と言うのか?」
「誰に訊いても知ってるものだろ。それならサッカーで間違いないぞ」
一片の迷いもなく、大輔は言い切る。
「そうなのか?」
訊かれて、涼子は困ったような顔になる。
「…うーん、何と言うか……微妙なところね……」
「おいおい、クラブ作ろうって人間がそんなことでどうすんだ」
「そんなこと言っても……」
「そうだな、じゃあこういう言い方ならどうだ? サッカーは世界中に浸透してる。その証拠に、俺、ボールひとつあれば、言葉の通じない外国でだって友達作れる自信あるぜ。言葉が通じない相手だって結びつけることができるんだ。それを文化と言わずして何と呼ぶ」
「なるほど」
そう言われれば、筋が通っているようにも聞こえる。
「ほう、それは面白いな。その言葉に嘘はないか?」
「できると思うぜ。一緒にボールを蹴ればいいだけだ」
「そなたがそう言うのであれば、間違いないのかもしれんな」
ヒカリが沈思する。
ややあって、顔を上げたヒカリは真正面から大輔を見た。
「その方向でいってみることにする。ついては協力を願いたい」
「…俺にどうしろと?」
「私にサッカーのことをいろいろと教えて欲しい」
「それくらいなら構わんが」
「ありがとう。では、まずサッカーとは何かを訊いてもいいか?」
「世界で一番普及しているスポーツだな」
「それがどうして文化になるのだ?」
「今ワールドカップをやってるのは知ってるか?」
「知らない」
「それを見ればわかる」
「では、ワールドカップとは何なのだ?」
「世界最大のスポーツイベントだ」
「それはオリンピックではないのか?」
「ちっちっち」
芝居がかった仕種で、大輔は人差し指を振る。
「予選の参加国やら、テレビの視聴者数やら考えてけば、ワールドカップの方に軍配が上がるな」
「そうなのか」
「サッカーは世界中にあるんだよ。その分基準がはっきりしてるんだよな。だからどっちが強いか、はっきり決められる。んで、大事なのはここなんだけど、それぞれの国にはそれぞれが築き上げてきたサッカーのスタイルがあるんだ。とにかくイケイケで攻めるところ。まず守備ありきの慎重派。勝ち負けよりも美しいサッカーを追求しようとする国。何が飛び出すかわからないびっくり箱みたいな国。同じサッカーでも、その国によって個性が出る。あんたの言葉を借りれば文化って言い換えてもいいかもしれない。自分たちの文化がぶつかるからこそ熱くなる。それがワールドカップなんだ」
そういう話をしている時の大輔の表情は無邪気な子供そのもので、その混じり気のない純粋な瞳は、思わずヒカリをどきりとさせる。
「それはぜひ見てみたいな。どこへ行けばそのワールドカップとやらを見れる?」
「今日はちょうど決勝だからな。テレビでやるぞ」
「テレビではなくて、その試合はどこでやるんだ?」
「アルゼンチンだけど」
「ならばそこへ行こう。案内してくれ」
「はあ!?」
大輔の声が裏返る。
何を言い出すんだ、こいつは。
「どうせなら現地で見た方がいいだろう」
「そりゃそうだが、できっこねえじゃねえか。これからアルゼンチンだなんて」
「そうでもないぞ」
ヒカリは得意気に言った。
「任せてくれればアルゼンチンまでは連れて行こう。そうしたらその先の案内をお願いしたいのだが」
大輔は涼子と顔を見合わせた。
どう思う?
関わらない方がいいと思う。
同感だ。
アイコンタクトが成立し、二人は踵を返した。
「じゃあそういうことで」
「待て!」
今度は衝撃波を放つようなことはせず、大輔の腰にタックルを決めた。
「悪いけど、それほど暇じゃないんだ。頑張って文化探してくれ」
「おぬししかいないのだ」
「何で俺なんだ」
「自分では気づいていないのであろう。しかしな、おぬしの内包熱量はこの星の中でも群を抜いておるのだ」
「ナイホウネツリョウ? 何だ、そりゃ?」
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