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65 正直ビビったけどね

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 目を覚まして真っ先に見えたのは、シルヴィアの泣き顔だった。

 一発で目が覚めた。

「どうしたっ!?」

 ビックリして跳ね起きたら、シルヴィアもビックリしたようだ。

「コータロー、よかったよぉ」

 泣きつかれて、意識をなくす前のことを思い出した。

「…あれ、何だったんだ……いきなり目眩がして、身体から力が抜けて……」

「ごめんなさい、ごめんなさい」

「何でシルヴィアが謝るんだ?」

「回復のさせ過ぎが原因らしいの……」

「へ?」

 何それ?

「自分のじゃない魔力を大量に身体に取り込むと、魔力に酔ったようになっちゃうみたいなの」

「ああ、そういうことか」

 納得した。

「わたしのせいで……」

「何でそうなるんだよ……」

 長年かけて築き上げられてしまったネガティブシンキングは、容易には治らないみたいだな。やれやれ。

「あのな、この際はっきり言っとくが、おまえの『せい』でこうなってるんじゃねえからな。おまえの『おかげ』でこれで済んでるんだぞ。おまえの治癒魔法がなかったら、魔族に瞬殺されとるわ」

「でも……」

「でもじゃねえ。おまえは胸張ってろって」

 まだ釈然としない様子だったが、そこを譲るつもりはなかったので、話は終わりにした。

 ちょうどよくカズサさんが部屋に入ってきた。

「やっと目覚ましたね。心配したよ」

「すんません」

「何を言うかな。こっちは助けてもらったんだからね。本当にありがとう。君が…いや、君たちがいてくれてよかった」

「照れるじゃないですか」

「正直、魔族があそこまでとは思わなかった」

 カズサさんは自嘲するように言った。

「こっちの世界へ来て、それなりにキャリアも積んで、そこそこできるようになったつもりでいたんだが、全然甘かったと痛感してるよ。たかが一体の魔族にあの体たらくでは、本命の魔王には手も足も出ないな」

「そいつはまだわからんでしょ。実際に魔王とやらが現れたわけじゃないんだし」

 話しながら、ちょっとヤバいと思った。カズサさんの心が折れかかってる。

「来るべき戦いにおいて自分が役に立てるのかどうか、正直自信がなくなってしまったんだよ」

「それなら少し休めばいいんじゃないですか」

「え?」

「無理することはないですよ。疲れたら休む。休んで鋭気を養ったら戦線復帰する。それでいいんじゃないですか?」

「復帰できるかな?」

「もう帰る場所はないですからね」

 肩をすくめて言う。

「善きにつけ、悪しきにつけ、もうここが自分の世界なわけですから。言葉の通じない相手が殴りかかってきたら、殴り返すしかないでしょ。俺だって正直ビビってますけど、逃げ出す場所もないわけだし」

「確かにそうだな」

 ようやくカズサさんに笑みが浮かんだ。

「わたしは何を弱気になっていたんだろうな。後輩に抜かれてそのままぼさっとしているわけにはいかないじゃないか」

 目に光が戻る。それでこそカズサさん。

「変なところを見せて悪かった。これからもよろしく頼む」

 差し出された手をしっかり握った。
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