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18 値切っちゃダメ

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「こんなのはどうだ?」

 目の前に出されたのは、一振りの懐剣だった。

「…うお……」

 一目見ただけで、素人の俺にも凄まじいレベルの業物だとわかる。そして、施された装飾の見事さ。工芸品っていうより、美術品って言った方が合ってそうだ。

「すご…こんなの初めて見た……」

 色々見ているであろうジェシカがそう言うのだから、やっぱりすごいんだろう。

 欲しい。すごく欲しい。でも……

「これって、いくらするの……?」

 ジェシカの声が震える。

 そう。到底俺に手が出せるような代物ではない。

「さて、お主ならこれにいくら出す?」

「……」

 困った。マジで困った……

 いくら出すって言われても、俺に値なんてつけられない。第一、売ってもらえそうな金額なんて出せるわけがない。

「…無理です」

 悔しかったが、そう言うしかなかった。

「無理とは?」

「これだけすごいもの、俺じゃ適正金額なんてわかりません」

「値段交渉する気もないのか?」

「あ、交渉ならわたしがーー」

 ジェシカが言いかけたのを遮る。

「いや、ダメだ」

「え……?」

「これには、作った人の魂がこもってる。職人の魂がこもった品を値切るなんて、絶対にしちゃダメだ」

 ジェシカに向き直る。

「同じ物を買うなら安く買わなきゃ損だって言う人がいるよな。一面的には正しいんだけど、これはそういう買い方をしていいものじゃない」

「では、どうだと言うんだ?」

 ガンテスさんは真っ直ぐに俺の目を見てきた。

「これに値段をつけられるのはガンテスさんだけです。ガンテスさんが自分のプライドに値段をつけるんだから、その値段をリスペクトできない人には、買う資格がありません」

「では、お主はこれをワシの言い値で買うと言うのか?」

「死ぬ気で働いて金貯めます」

「…面白い男だな、お主は」

 ガンテスさんはニヤリと笑うと、鞘に納めた懐剣を俺に向かって放った。

「おわあっ!?」

 慌ててキャッチする。落として傷でもつけてしまったら、一大事だ。

「持っていけ、と言うとお主はごねそうだな。それでは贈り物にならんとか言いそうだ」

「…え?   あ、はい……」

 咄嗟にはガンテスさんの言葉の意味を理解できず、呆けてしまった。

「そうだなーー有り金を全部置いていけ」

 そうすれば命だけは助けてやる、と続きそうだなとバカなことを考えたところで我に返った。

「え、えええぇーっ!?」

「何だ?   高いか?」

「んなわけないですよ。逆です。安すぎますよ」

「ワシのつけた値段をリスペクトするんじゃないのか?」

 あっさり揚げ足を取られて、何も言えなくなってしまう。

「…本当にいいんですか?」

「おう。職人のプライドを理解できる男なら金の問題ではない、というのもお主なら理解できるだろう?」

「ありがとうございます」

 最大限の感謝をこめて、深々と頭を下げる。

「お主とはそのうち酒を酌み交わしたいな」

「是非に」

 ドワーフの酒か。ちょっと怖いが、ツブされるならそれでもいい。この人となら美味い酒が飲めそうな気がする、って俺まだ未成年じゃん……

 ガンテスさんの工房を辞去すると、ジェシカが興奮した様子で話してきた。

「ホントにすごいことですよ。ガン爺が初対面の人に作品売るの初めて見ました。よっぽど気に入られたんだと思います」

「ありがたい話だよなーージェシカもありがとうな。いい人紹介してくれて」

「お役に立てて何よりです」

「じゃあ、俺行くな。早くシルヴィアにこれ渡したいから」

「お気をつけて」

「ありがとうーーじゃあ、またな」

 軽く挨拶して、俺は王都へと走り出した。
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