勇者様の専属料理人

オフィス景

文字の大きさ
上 下
2 / 13

2 俺が料理人になった理由

しおりを挟む
「ごちそうさまでした」

 きれいに手を合わせて、少女は大きく息をついた。

「お粗末さまでした」

 こっちの挨拶も満面の笑みになる。これだけ美味しそうに食べてもらえれば、料理人冥利に尽きるというものだ。

「素晴らしかったです。この世界で醤油ラーメンを食べれるとは思いませんでした」

 大満足感溢れる言葉で、少女の身分と言うか、正体に見当がついた。

「勇者様の口にあったようで良かったよ」

 そう言うと、ちょっと驚いたようだったが、すぐに笑顔を見せた。

「わかります?」

「この世界でなんて言い方したらわからないヤツはいないだろ」

「あー、なるほど、そうですね」

 屈託なく笑う少女の顔は、かなり可愛かった。

 この世界には勇者という存在がいる。その多くは原因不明の現象によりやってきた異世界人だ。

 異世界人は体力や魔力など主に戦闘能力に秀でている。そのため、魔獣退治などを生業とする冒険者になることが多い。そんな強者揃いの異世界人の中でも勇者認定された者は一線を画した強さを誇っている。異世界人が全員勇者というわけではないが、とりあえず勇者と言っとけば無難かなと思ったのだ。

「マスターはよくラーメンなんて思いつきましたね。誰かに教えてもらったんですか?」

「いや、それなんだけどねーー」

 実は、俺がラーメンを売り物にしようと思ったのにはそれなりの訳がある。

「おもしろくはないと思うけど、聞く?」

「ぜひ」

 勇者様は即答した。

 そういうことなら、別に秘密にしている分けでもないし、少し語らせてもらうとするか。



 俺は元々冒険者だった。自分で言うのもなんだが、そこそこいい線はいってたんだ。個人ランク、パーティーランクともBまでいった。Aランク以上はほとんど異世界人であることを考えると、まあ立派なもんだろう。

 割と順調な冒険者生活だったのだが、一年ほど前に発生したスタンピードの際に魔獣に膝をやられてしまったのだ。復帰を目指しリハビリに励んだのだが、元の動きを取り戻すことはできなかった。日常生活には影響ないレベルまでには戻ったのだが、第一線の冒険者としては使い物にはならなかった。

 落ち込んだが、これはどうしようもない。この稼業、平穏な終わりを迎えられる方が圧倒的に少ないのだ。俺は幸運な方だろう。

 ただ、どうしても未練はあったので、最後にケジメをつけるためのダンジョンアタックをすることにした。

 俺が最後の舞台に選んだのは、出てくるお宝の割に癖の強い敵が多いということで不人気をかこっているダンジョンだった。

 癖が強いとは言っても、滅茶苦茶強いということではない。対処法を知っていて対策をしっかり取っていれば、怪我をした俺でもどうにかなるレベルだった。

 俺はこれまでソロでダンジョンを攻略したことがなかったので、記念のつもりだったんだ。

 それなりに苦戦はしたが、何とかボス退治まで完了できた。

 ダンジョンクリアの報酬として現れたのが【異世界食材アイテムボックス】だった。

 検証の結果、これは勇者様方の元世界の食材が無限に手に入るという優れものだった。

 元々パーティーでも料理は俺の担当で好きだし得意でもあったので、第二の人生を料理人とすることに迷いはなかった。

 あれもこれもと手を広げすぎるよりメニューを絞った方がいいと考え、異世界料理の中で最も可能性を感じたラーメンを看板メニューにした。

 ところがこっちの世界ではなかなかこれが受け入れてもらえなかった。

 そろそろラーメンをあきらめて、別のメニューを考えようかと思い始めた矢先の勇者様の来店。

 これで潮目が変わるんじゃないか。

 正直、期待しかなかった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...