赤い糸

オフィス景

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2 運命の人

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「海堂くんは、運命の赤い糸ってどう思う?」


 
「はあ!?」

 思わず素っ頓狂な声が出た。

「…熱でもあるのか?」

「…他人の意見を参考にしたいだけだ」

 薫は憮然として答えた。

「にしても、赤い糸とはまた突拍子もねえなあ。何だってそんなこと考えだしたんだ?」

「本当にそういうものがあるのかなあ、と素朴な疑問を感じたんだ」

「そんなもんがあろうとなかろうとおまえには全然関係ないだろ」

 なにしろ非モテの裕治と違い、薫のもて方は半端じゃない。もらったラブレターの数は既に伝説の域に達しているし、直接交際を申し込まれた経験も数え切れないくらいある。その気になりさえすれば、どんな相手でも選びたい放題のはずだ。

「そんなことはない。運命の人と結ばれたいと思うさ」

「へえ、意外とロマンチストなんだな」

「で、どう思う?」

「目に見えない糸が何で赤いってわかるんだ?」

「…ロマンのかけらもない男だな、君は」

 薫が苦虫を噛み潰す。

「要は信じていないというわけか」

「いきなりそんなこと言われてもなあ……」

 裕治としては苦笑するしかない。そんなこと考えたこともない、というのが正直なところだった。

「…やっぱりそうか……」

 薫は見るも気の毒なくらいへこんだ。

 そのへこみっぷりを見ると、裕治も何だか悪いことをしたような気分になってしまう。

「…まあ、何だ…もしかしたらそういうのもあるかもしれないよな」

 客観的には誠意のかけらも感じられない口調で裕治がそう言うと、薫の表情がぱっと明るくなった。

「本当にそう思う?」

「いや、まあ、あってもいいんじゃないかなあ」

 内心「何で俺の言うことをこんなに気にするんだ?」と素朴な疑問を感じながら、裕治は答えた。

「それじゃあ、運命の相手についてはどう思う?」

「そういうのがいればいいよな。俺には縁がなさそうだけど」

「そんなことはない!」

 なぜか思いっきり力んで薫は言った。

「な、何だ?」

「誰にでも運命の相手はいるんだ。もちろん君にも」

「わ、わかった」

 勢いに押され、裕治は目を白黒させる。

 こほん、と咳払いして薫は裕治をまじまじと見つめた。その緊迫した表情に、裕治も気圧されてしまう。

「もうひとつ訊いていいだろうか?」

「あ、ああ」

「…んっと、その、何だ……」

 言いよどむその様子が、裕治の危機感知センサーを最大限に発動させた。

 やばい。この先を聞いたら絶対やばい。

 裕治は自分の勘に絶対の信頼を置いている。所属するサッカー部のトップスコアラーでいられるのはその勘のおかげだと思っている。

 だから、裕治はその勘に従って速やかに逃げ出そうとしたのだが、薫が口を開くほうがわずかに早かった。



 
「君の運命の相手が、私では駄目だろうか?」
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