巻き込まれ婚約破棄~俺の理想はスローライフなんだけど~

オフィス景

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22 新商品の販売戦略

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「何やってるの?」

 セレーネの姿が見当たらないなと思ったら、キッチンで何やら作業をしていた。

「お、もしかして新メニュー?」

「上手くいくかはわからないけど……」

 自信なさげだか、こういう時の方がいい結果が出るのは不思議なところだ。

 手元をのぞきこむと、何やら一生懸命混ぜ物をしているようだ。

「大変そうだな。代わろうか?」

「じゃあお願い」

 渡された器の中身を検分する。

「これは…卵はわかるけど、あとは何が入ってるんだ?」

「お酢と油」

「…それで何ができるんだ?」

「お屋敷にあった古い文献に載ってたんだけど、マヨ何とかって……」

「マヨ何とか?」

 俺にはまったく心当たりがなかった。まあ、この手のことはセレーネに任せておいた方がいいのは間違いない。

 俺がすべきは販路開拓。セレーネが作ってくれた物をいかに売って、いかに儲けるかだ。



 だが、俺が小賢しいことを考える必要はまったくなかった。



「うま!」

「何これ!?」

 例によって絶賛の嵐だった。みんなして奪い合うように消費していく。

「これつけるだけで野菜が劇的に美味しくなる!」

「こんなの初めて!!」

 野菜嫌いの子供たちには特に好評で、まさに飛ぶような勢いで量を減らしていっている。

「マヨか。これまたすごいのを作ったね」

 姉さんも感心しきりだ。

「間違いなくこれは商会を代表する商品になるよ」

「だろうな」

 その意見に異論はなかった。

「これだけ美味い上に作り方は子供でもできるくらい簡単ときたら、売れないわけがないよね」

「そういうことーーあんたならこれをどう売る?」

 唐突に訊かれた。

 数秒頭をひねったが、特段難しいことはなさそうだ。姉さんにしてはやけに簡単なことを訊いてくるな。

「これならグルメな貴族たちが我先に買い求めるだろ。普通に高値をつけて売ればいい」

 自分的には自信を持って答えたのだが、評価は厳しかった。

「0点」

「0点!?」

「つまんないこと言ってんじゃないよ。あんたもまだまだだねえ」

「何でだよ?」

「こいつの作り方はびっくりするくらい簡単だ。それこそ誰にでも作れるレベルでな」

「うん。それで?」

「そんなものを高値で売ってみろ。必ずマネするヤツが出てくるぞ」

「ああ、なるほどね」

 ようやく理解できた。

「確かにな。どんなに隠そうとしたって、研究されればマネできるかもしれないよな」

「そう。マネが防げないなら、マネしようとする気を起こさせなければいい。わざわざマネしなくてもこれがこの値段で買えるのなら、って線で値段を設定するーーマヨに関しては薄利多売で行くよ」

 当然、どこからも異論は上がらなかった。



 そして、商会にはまたひとつ大ヒット商品が誕生したのだった。

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