巻き込まれ婚約破棄~俺の理想はスローライフなんだけど~

オフィス景

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「さて、どうやってガルベス王子に売り込みかけるかな」

 物に対する自信はあるが、まずは食べてもらわないことには話にならない。

 王族が得体の知れない物を試してくれるはずないしなあ……

 地道にやるしかないわけだが、揚げたイモだけでは、売り込むにしてもインパクトに欠ける。

「よし、家捜ししよう」

 商会の倉庫を漁ると、思わず「何じゃこりゃ!?」と叫びたくなるものや、用途不明な物など混沌の様相を呈していたが、そんな中にひとつ掘り出し物を発見した。

「こいつは……」

 手に取って確かめる。 間違いない 。アレだ。

 ウハウハしながら調理場に籠り、試作を開始する。

 これには正解はない。というか、正解は無数にある。人それぞれだ。

「ま、俺の好みを作るしかないか。とりあえずは」



 ああでもないこうでもないと試行錯誤を繰り返すこと約半月。微妙な調整は大変だったが、なんとかベースとして満足いくものはできあがった。

「これ、何の匂い?」

 厨房に顔を出したセレーネが首を傾げる。

「この国の食卓に革命を起こす一品だ」

「…また随分と大きく出たわね」

「食べてみればわかる。美味すぎて腰抜かすぞ」

 料理を盛ってセレーネに出す。

「食ってみ」

「えーっと……」

 セレーネの頬が微妙に引きつっている。どうも見た目に抵抗があるようだ。

「美味いのに」

 俺が先に食べて見せた方がいいのかもしれない。そうすればハードルも下がるだろう。

 一匙すくって口に運ぶ。

「うん、美味い」

 散々味見をしてきたのでわかってはいたのだが、やっぱり美味い。我ながらいい出来だ。

「ホントに?」

 セレーネは恐る恐る食べてみる。

「んっ!?」

 軽く目が瞠られる。想像してたのとまったく違ったんだろうな。

 俺もあえて言わなかったわけだが。先入観を持って欲しくなかったんだが、辛いという情報くらいは渡しといた方が良かったかな?

「ん?   んんっ?」

 小さくしかめられた顔が訝しげなものに変わる。更にそれが驚きから笑顔へとくるくる変わっていく。美人の百面相は見ていて実に楽しいな。

「…おい、しい……?」

「何で疑問形なんだよ」

「だって、初めての味なんだもん」

「ビックリした?」

「した」

 セレーネはこくこく頷いた。

「最初は辛さに驚いたんだけど、すぐに凝縮されてた旨味が口いっぱいに広がるの。これが複雑なんだけどあとを引く味なのよ。で、味もいいんだけど、香りがこれまた素晴らしいの。すーっと鼻に抜けていく感覚って初めてだわ」

 なかなか堂に入った食レポをしながらもセレーネのスプーンは止まらない。あっという間に完食した。

 にっこり笑って皿を差し出す。

「おかわり」

 このセレーネの笑顔を見て、俺は作戦の成功を確信した。
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