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17 王都の近況
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「ちょっと相談が」
夜、二人でくつろいでいるところでセレーネが何やら改まった口調で話しかけてきた。
「どした? 改まって」
「王都の友達から手紙が来たの。こっちに来るから久しぶりに会わないかって」
「そんなの別にいちいち断らなくてもいいよ。束縛するつもりもないし」
「えっと、ザイオンくんも一緒にどうかってお誘いなんだけど」
「俺!?」
そりゃ意外過ぎるわ。ビックリした。
「誰?」
「ケイティとマリアよ」
その二人ならわかる。セレーネとは仲が良かったはずだし、俺も話くらいはしたことがある。ただ、こういう席に呼ばれる程親しくはなかったはずだ。
「多分好奇心じゃないかな?」
「好奇心?」
「結局あの後みんなとはロクに話もしないまま王都を離れちゃったから。ケイティたちは結構心配してくれてたみたいなの」
「ああ、なるほどね」
そういうことなら別に断る理由もない。同席させてもらうとしようか。
「久しぶり。元気そうで何より」
「そっちもね。元気だった」
訪ねてきた二人とは、行きつけの酒場で落ち合った。色々とメニュー開発などで交流のある店で、今この町で一番予約を取るのが難しいと言われている。
「みんな元気よ。色々変わっちゃったことも多いけど」
「変わっちゃったことって?」
「王子の株がダダ下がりになっちゃって、このままだと跡目争いに発展するかもしれない」
「マジで?」
株が下がるのは当たり前だし、ザマァとしか思わんが、跡目争いとか言われると穏やかではいられなくなるなあ。戦にでもなったら最悪だ。
セレーネも気まずそうな顔をしている。
「あ、勘違いしないでね。二人には何の責任もないからね。馬鹿王子が派手に自爆しただけだから」
馬鹿王子って……確かにその通りだけど、そんなこと言っちゃって大丈夫か? 仮にも王族なんだから、不敬罪に問われるかもしれんぞ。
「もうみんな普通に馬鹿王子呼ばわりしてるわよ。衛兵さんたちもそれに関しては取り締まる気ないみたい」
そこまで人望なくしたか、バルディンよ。
「第一王子があまりにも病弱だから、馬鹿王子が立太子されるものだと思われてたけど、今回の件で大分風向きが変わっちゃったみたいなの」
「…難儀な話だなあ……」
俺たちが直接この話に絡むことはないと思うが、国が荒れるのは勘弁して欲しい。
「セレーネのことだから、この話を聞いたら責任感じるんじゃないかなと思ってね、そうなる前にちゃんと話しといた方がいいかなーって思ったのよね」
「もちろんセレーネに会いたいっていうのが一番だけどね」
「ありがと」
セレーネはにっこり笑う。
その笑顔を見て、ケイティさんとマリアさんが顔を見合わせ、頷きあった。
「ん?」
「やっぱりセレーネいい笑顔するようになったよね」
「うん。女の子らしくなった」
「な、何よ、突然」
思わぬ褒め言葉にセレーネはわちゃちゃと狼狽える。
「期待はしてたけど、本当に乙女なセレーネを見れるとは」
「眼福眼福」
二人はセレーネに負けないくらいいい笑顔でハイタッチを交わした。
それから二人揃って俺に向かって頭を下げた。
「ザイオンくん、ありがとう」
「俺?」
「うん。あの時、セレーネの無茶なプロポーズを受けてくれて。あの時ザイオンくんに突き放されてたら、きっとこの娘立ち直れなかったと思うから」
「あれについてはあたしたちじゃどうしようもなかったから。ザイオンくんがいてくれて本当に良かった」
「いやいや、礼を言われるようなことじゃないよ。あの一件で一番得したのは俺だからね」
心の底からそう思う。
「むしろ礼を言わなきゃいけないのはこっちの方だよ。ここまでセレーネのこと気にかけてくれてありがとう」
二人は一瞬驚いた顔をした後、柔らかい微笑みを浮かべた。
「セレーネ、愛されてるわねー」
「ホント、うらやましいわ」
からかうように言われて、セレーネの顔が赤くなる。うん。やっぱり恥じらう表情は最強だな。
「これなら安心できそうね」
「そうね。みんなにもいいみやげ話ができるわ」
「よし、後は飲みましょう!」
「せっかくだからここの名物教えて」
「うん。それじゃあーー」
セレーネがこれでもかという勢いで注文していく。嬉々としたその表情は、俺の不安を掻き立てずにはいられなかった。
セレーネ、頼むからほどほどにな。
夜、二人でくつろいでいるところでセレーネが何やら改まった口調で話しかけてきた。
「どした? 改まって」
「王都の友達から手紙が来たの。こっちに来るから久しぶりに会わないかって」
「そんなの別にいちいち断らなくてもいいよ。束縛するつもりもないし」
「えっと、ザイオンくんも一緒にどうかってお誘いなんだけど」
「俺!?」
そりゃ意外過ぎるわ。ビックリした。
「誰?」
「ケイティとマリアよ」
その二人ならわかる。セレーネとは仲が良かったはずだし、俺も話くらいはしたことがある。ただ、こういう席に呼ばれる程親しくはなかったはずだ。
「多分好奇心じゃないかな?」
「好奇心?」
「結局あの後みんなとはロクに話もしないまま王都を離れちゃったから。ケイティたちは結構心配してくれてたみたいなの」
「ああ、なるほどね」
そういうことなら別に断る理由もない。同席させてもらうとしようか。
「久しぶり。元気そうで何より」
「そっちもね。元気だった」
訪ねてきた二人とは、行きつけの酒場で落ち合った。色々とメニュー開発などで交流のある店で、今この町で一番予約を取るのが難しいと言われている。
「みんな元気よ。色々変わっちゃったことも多いけど」
「変わっちゃったことって?」
「王子の株がダダ下がりになっちゃって、このままだと跡目争いに発展するかもしれない」
「マジで?」
株が下がるのは当たり前だし、ザマァとしか思わんが、跡目争いとか言われると穏やかではいられなくなるなあ。戦にでもなったら最悪だ。
セレーネも気まずそうな顔をしている。
「あ、勘違いしないでね。二人には何の責任もないからね。馬鹿王子が派手に自爆しただけだから」
馬鹿王子って……確かにその通りだけど、そんなこと言っちゃって大丈夫か? 仮にも王族なんだから、不敬罪に問われるかもしれんぞ。
「もうみんな普通に馬鹿王子呼ばわりしてるわよ。衛兵さんたちもそれに関しては取り締まる気ないみたい」
そこまで人望なくしたか、バルディンよ。
「第一王子があまりにも病弱だから、馬鹿王子が立太子されるものだと思われてたけど、今回の件で大分風向きが変わっちゃったみたいなの」
「…難儀な話だなあ……」
俺たちが直接この話に絡むことはないと思うが、国が荒れるのは勘弁して欲しい。
「セレーネのことだから、この話を聞いたら責任感じるんじゃないかなと思ってね、そうなる前にちゃんと話しといた方がいいかなーって思ったのよね」
「もちろんセレーネに会いたいっていうのが一番だけどね」
「ありがと」
セレーネはにっこり笑う。
その笑顔を見て、ケイティさんとマリアさんが顔を見合わせ、頷きあった。
「ん?」
「やっぱりセレーネいい笑顔するようになったよね」
「うん。女の子らしくなった」
「な、何よ、突然」
思わぬ褒め言葉にセレーネはわちゃちゃと狼狽える。
「期待はしてたけど、本当に乙女なセレーネを見れるとは」
「眼福眼福」
二人はセレーネに負けないくらいいい笑顔でハイタッチを交わした。
それから二人揃って俺に向かって頭を下げた。
「ザイオンくん、ありがとう」
「俺?」
「うん。あの時、セレーネの無茶なプロポーズを受けてくれて。あの時ザイオンくんに突き放されてたら、きっとこの娘立ち直れなかったと思うから」
「あれについてはあたしたちじゃどうしようもなかったから。ザイオンくんがいてくれて本当に良かった」
「いやいや、礼を言われるようなことじゃないよ。あの一件で一番得したのは俺だからね」
心の底からそう思う。
「むしろ礼を言わなきゃいけないのはこっちの方だよ。ここまでセレーネのこと気にかけてくれてありがとう」
二人は一瞬驚いた顔をした後、柔らかい微笑みを浮かべた。
「セレーネ、愛されてるわねー」
「ホント、うらやましいわ」
からかうように言われて、セレーネの顔が赤くなる。うん。やっぱり恥じらう表情は最強だな。
「これなら安心できそうね」
「そうね。みんなにもいいみやげ話ができるわ」
「よし、後は飲みましょう!」
「せっかくだからここの名物教えて」
「うん。それじゃあーー」
セレーネがこれでもかという勢いで注文していく。嬉々としたその表情は、俺の不安を掻き立てずにはいられなかった。
セレーネ、頼むからほどほどにな。
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