巻き込まれ婚約破棄~俺の理想はスローライフなんだけど~

オフィス景

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10 姉さんの嗅覚

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 結果的に薬はできた。

 ただ、その効能は俺が意図したのとはまったく違っていた。

「…これは…ヤバいな……」

「ヤバいなんて言葉じゃ追いつかないわよ」

 薬の効果が切れた後、俺はセレーネと顔を見合わせた。

「人の理性をここまで奪うなんて……」

 桃色の煙を吸って、俺たちは自我を失った。その結果、とてもじゃないけど人には言えない状況に陥ってしまった。

 端的に言えば、ケダモノだった。具体的には恥ずかし過ぎて口にできないので、想像してもらうしかない。

 ただひとつ言えるのはーーすごかった。

 そして正気に戻った今、すべてをなかったことにしたいと強く思う。

 恐らくセレーネも同じ気持ちのはずだ。

「…嫌いにならないでね?」

「それはこっちからもお願いしたい」

「あたしがザイオンくんを嫌いになることはないです」

「俺だってセレーネを嫌いになるなんてありえないよ」

「うれしい」

「うん。俺もうれしいよ」

「おい、バカップル」

 突然呼びかけられて、思わず飛び上がるくらい驚いた。

「ね、姉さん……」

 何やら物騒な目付きの姉さんがこちらを睨んでいる。後ろに般若が見えるのは目の錯覚だろうか?

「真っ昼間から何やってんだい、あんたたちは」

 声が冷たすぎて心臓麻痺を起こしそうだ。セレーネは半分以上魂が抜けたような顔をしている。

「な、何と言われてもーー」

 爽やかに笑ってごまかそうかと思ったんだが、ひきつった笑いにしかならなかった。

「ふ、不幸な事故としか……」

「不幸な事故ぉ?」

 姉さんの纏うオーラが更に氷度を増した。

「これのどこを見れば不幸な事故なんて言葉が出てくるわけ!?   どう見たって『ゆうべはお楽しみでしたね』って感じじゃない」

「そ、そうなんだけど、そうじゃなくて……実験が思わぬ方向へ行っちゃって……」

「実験?」

「回復量の多いポーションを作ろうとしたんだ。で、シグナ草を調合したら桃色の煙が出て、こうなったんだ」

「ーー詳しく話しなさい」

 何だ?   金の匂いでも嗅ぎ付けたのか?   姉さんの目の色が変わったぞ。

 急かされて、思いつきでシグナ草を使ったことを話すと、姉さんは細い顎に手を当てて、何やら考え込みだした。

「ザイオン」

「何?」

「その合成ポーション、シグナ草の濃度を変えた物を四種類作りなさい」

「はい?」

「説明してる暇はないわ。いいから言う通りに作りなさい!」

 珍しく姉さんが興奮してる。何が姉さんの琴線に触れたのかまったくわからなかったが、この状態の姉さんに逆らうことなど考えられない。言われるがままに調合作業を進めていく。

「ちゃんとレシピはまとめておくのよ」

「わかってるって」

 調合を生業とする者にとってはあたりまえの話である。その辺は抜かりなくやっている。

 できあがった都度ポーションを渡すと、姉さんはそれを部屋の外に持ち出し、何やら検証しているようだ。戻って来ると細かい注文が寄せられる。

 なかなかに大変な作業だった。姉さんのリクエストのすべてに応えた時には、既に日がとっぷりとくれた後だった。

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