10 / 23
10 姉さんの嗅覚
しおりを挟む
結果的に薬はできた。
ただ、その効能は俺が意図したのとはまったく違っていた。
「…これは…ヤバいな……」
「ヤバいなんて言葉じゃ追いつかないわよ」
薬の効果が切れた後、俺はセレーネと顔を見合わせた。
「人の理性をここまで奪うなんて……」
桃色の煙を吸って、俺たちは自我を失った。その結果、とてもじゃないけど人には言えない状況に陥ってしまった。
端的に言えば、ケダモノだった。具体的には恥ずかし過ぎて口にできないので、想像してもらうしかない。
ただひとつ言えるのはーーすごかった。
そして正気に戻った今、すべてをなかったことにしたいと強く思う。
恐らくセレーネも同じ気持ちのはずだ。
「…嫌いにならないでね?」
「それはこっちからもお願いしたい」
「あたしがザイオンくんを嫌いになることはないです」
「俺だってセレーネを嫌いになるなんてありえないよ」
「うれしい」
「うん。俺もうれしいよ」
「おい、バカップル」
突然呼びかけられて、思わず飛び上がるくらい驚いた。
「ね、姉さん……」
何やら物騒な目付きの姉さんがこちらを睨んでいる。後ろに般若が見えるのは目の錯覚だろうか?
「真っ昼間から何やってんだい、あんたたちは」
声が冷たすぎて心臓麻痺を起こしそうだ。セレーネは半分以上魂が抜けたような顔をしている。
「な、何と言われてもーー」
爽やかに笑ってごまかそうかと思ったんだが、ひきつった笑いにしかならなかった。
「ふ、不幸な事故としか……」
「不幸な事故ぉ?」
姉さんの纏うオーラが更に氷度を増した。
「これのどこを見れば不幸な事故なんて言葉が出てくるわけ!? どう見たって『ゆうべはお楽しみでしたね』って感じじゃない」
「そ、そうなんだけど、そうじゃなくて……実験が思わぬ方向へ行っちゃって……」
「実験?」
「回復量の多いポーションを作ろうとしたんだ。で、シグナ草を調合したら桃色の煙が出て、こうなったんだ」
「ーー詳しく話しなさい」
何だ? 金の匂いでも嗅ぎ付けたのか? 姉さんの目の色が変わったぞ。
急かされて、思いつきでシグナ草を使ったことを話すと、姉さんは細い顎に手を当てて、何やら考え込みだした。
「ザイオン」
「何?」
「その合成ポーション、シグナ草の濃度を変えた物を四種類作りなさい」
「はい?」
「説明してる暇はないわ。いいから言う通りに作りなさい!」
珍しく姉さんが興奮してる。何が姉さんの琴線に触れたのかまったくわからなかったが、この状態の姉さんに逆らうことなど考えられない。言われるがままに調合作業を進めていく。
「ちゃんとレシピはまとめておくのよ」
「わかってるって」
調合を生業とする者にとってはあたりまえの話である。その辺は抜かりなくやっている。
できあがった都度ポーションを渡すと、姉さんはそれを部屋の外に持ち出し、何やら検証しているようだ。戻って来ると細かい注文が寄せられる。
なかなかに大変な作業だった。姉さんのリクエストのすべてに応えた時には、既に日がとっぷりとくれた後だった。
ただ、その効能は俺が意図したのとはまったく違っていた。
「…これは…ヤバいな……」
「ヤバいなんて言葉じゃ追いつかないわよ」
薬の効果が切れた後、俺はセレーネと顔を見合わせた。
「人の理性をここまで奪うなんて……」
桃色の煙を吸って、俺たちは自我を失った。その結果、とてもじゃないけど人には言えない状況に陥ってしまった。
端的に言えば、ケダモノだった。具体的には恥ずかし過ぎて口にできないので、想像してもらうしかない。
ただひとつ言えるのはーーすごかった。
そして正気に戻った今、すべてをなかったことにしたいと強く思う。
恐らくセレーネも同じ気持ちのはずだ。
「…嫌いにならないでね?」
「それはこっちからもお願いしたい」
「あたしがザイオンくんを嫌いになることはないです」
「俺だってセレーネを嫌いになるなんてありえないよ」
「うれしい」
「うん。俺もうれしいよ」
「おい、バカップル」
突然呼びかけられて、思わず飛び上がるくらい驚いた。
「ね、姉さん……」
何やら物騒な目付きの姉さんがこちらを睨んでいる。後ろに般若が見えるのは目の錯覚だろうか?
「真っ昼間から何やってんだい、あんたたちは」
声が冷たすぎて心臓麻痺を起こしそうだ。セレーネは半分以上魂が抜けたような顔をしている。
「な、何と言われてもーー」
爽やかに笑ってごまかそうかと思ったんだが、ひきつった笑いにしかならなかった。
「ふ、不幸な事故としか……」
「不幸な事故ぉ?」
姉さんの纏うオーラが更に氷度を増した。
「これのどこを見れば不幸な事故なんて言葉が出てくるわけ!? どう見たって『ゆうべはお楽しみでしたね』って感じじゃない」
「そ、そうなんだけど、そうじゃなくて……実験が思わぬ方向へ行っちゃって……」
「実験?」
「回復量の多いポーションを作ろうとしたんだ。で、シグナ草を調合したら桃色の煙が出て、こうなったんだ」
「ーー詳しく話しなさい」
何だ? 金の匂いでも嗅ぎ付けたのか? 姉さんの目の色が変わったぞ。
急かされて、思いつきでシグナ草を使ったことを話すと、姉さんは細い顎に手を当てて、何やら考え込みだした。
「ザイオン」
「何?」
「その合成ポーション、シグナ草の濃度を変えた物を四種類作りなさい」
「はい?」
「説明してる暇はないわ。いいから言う通りに作りなさい!」
珍しく姉さんが興奮してる。何が姉さんの琴線に触れたのかまったくわからなかったが、この状態の姉さんに逆らうことなど考えられない。言われるがままに調合作業を進めていく。
「ちゃんとレシピはまとめておくのよ」
「わかってるって」
調合を生業とする者にとってはあたりまえの話である。その辺は抜かりなくやっている。
できあがった都度ポーションを渡すと、姉さんはそれを部屋の外に持ち出し、何やら検証しているようだ。戻って来ると細かい注文が寄せられる。
なかなかに大変な作業だった。姉さんのリクエストのすべてに応えた時には、既に日がとっぷりとくれた後だった。
0
お気に入りに追加
134
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ここは貴方の国ではありませんよ
水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。
厄介ごとが多いですね。
裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。
※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
婚約破棄されたので歴代最高の悪役令嬢になりました
Ryo-k
ファンタジー
『悪役令嬢』
それすなわち、最高の貴族令嬢の資格。
最高の貴族令嬢の資格であるがゆえに、取得難易度もはるかに高く、10年に1人取得できるかどうか。
そして王子から婚約破棄を宣言された公爵令嬢は、最高の『悪役令嬢』となりました。
さらに明らかになる王子の馬鹿っぷりとその末路――
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
もしもゲーム通りになってたら?
クラッベ
恋愛
よくある転生もので悪役令嬢はいい子に、ヒロインが逆ハーレム狙いの悪女だったりしますが
もし、転生者がヒロインだけで、悪役令嬢がゲーム通りの悪人だったなら?
全てがゲーム通りに進んだとしたら?
果たしてヒロインは幸せになれるのか
※3/15 思いついたのが出来たので、おまけとして追加しました。
※9/28 また新しく思いつきましたので掲載します。今後も何か思いつきましたら更新しますが、基本的には「完結」とさせていただいてます。9/29も一話更新する予定です。
※2/8 「パターンその6・おまけ」を更新しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる