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9 商会のお仕事?
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ウチの商会は基本的に何でも取り扱う。求められる物を仕入れ、売る。商会としての通常業務だ。
ただ、それだけではでかい儲けは望めない。堅実と言えば堅実だが、そんなのはつまらない。どうせやるならトップを目指したいところだ。
じゃあそのためにはどうするかーー一番手っ取り早いのは、ウチでしか手に入らない物を作り出すことだ。それに希少価値がつけば、でかく儲けるのも可能になる。
とまあ言うのは簡単だが、それが文字通り簡単にできれば苦労はしない。
今のところウチの一番の売れ筋はこの辺で狩れる魔物の素材である。辺境ならではの商品と言えるだろう。
俺はこれを素材のままでなく、商品として加工することを考えている。加工品として売った方が工夫の余地もあるし、利幅も大きくなる。
これは俺がずっと考えていたことであり、そのために学生時代には生産系の技術の修得に多くの時間を費やしていたのだ。おかげで今では鍛冶や製薬などいくつかの技術はそれなりのレベルに達している。
いよいよ考えていたことを実践する段階になったわけだがーー
まあそう簡単にいくはずもなく、失敗例ばかりが積み上げられる結果になった。
「…上手くいかん……」
さっきから唸り声しか発していない気がする。
初めっから上手くいくとは思っていなかったが、ここまで失敗続きになるとも思っていなかった。
今日は採取してきた薬草を使ってポーションの調合に挑戦しているのだが、やはり上手くいかない。普通のポーションは作れるのだが、できればもっと効果の高い物を作りたいのだ。
こういうのはトライアンドエラーだとよく言うが、それで最終的に成功する保証などどこにもない。むしろ成功例の方が少ないくらいだ。
「発想の方向を変えてみるか」
ここまでは無難な組合せしか試してこなかった。しかし、これまでにないものを作り出そうというのに当たり障りのないことばかりやっていて成果が挙がるはずなどあるわけがない。
そこに気づくのにかなり余計な時間をかけてしまった。
「よし、今度はこれを使ってみよう」
俺が取り出したのは、シグナ草といって満月の夜にしか採取できない、割りと希少な薬草だった。眠気覚ましの効能があり、これをお茶に溶かし込んだ物は受験生の必須アイテムと言われている。俺も学院の試験前はかなり世話になった。
シグナ草をよく擂り潰し、水に溶く。ドロリとした、濃緑の液体ができた。
「これって、薄めないと結構キツい匂いがするんだな」
決して不快な匂いではないが、少し鼻がツンとする。何となくだが鼻づまりに効きそうだ。
その時、ノックの音がして、セレーネが部屋に入って来た。手に持ったお盆の上にはサンドイッチと紅茶が乗せられている。
「根詰めすぎじゃない? 少し休憩して」
「ああ、ありがとう」
言われてみると、かなり長い時間作業に没頭していたようだ。結構疲れているのが自覚できた。
ジャムを挟んだサンドイッチは疲れた頭を癒してくれた。
「美味い」
「良かった」
にっこり微笑むセレーネ。ああ、この笑顔が一番の癒しだな。
「どう、調子は?」
「何となく上手くいきそうな気がする」
セレーネに癒された今ならすべてが上手くいくんじゃないかと思う。
「何を作ってるの?」
「ポーションの効力アップを狙ってるんだ。シグナ草を混ぜたらどうなるか試してみようとしてるとこ」
「シグナ草かあ、懐かしいな」
「セレーネも使ってたの?」
「結構重宝したわよ。高かったからそんなには使えなかったけど」
「そう。高いんだよな。だから今まで使うのに二の足踏んでたんだけど、チャレンジしないと駄目かと思ってな」
「上手くいくといいね」
「やってみるよ」
普通のポーションにシグナ草の溶液を混ぜると、桃色の煙が結構な勢いで立ち上った。
「何だ?」
煙を吸ってしまったが、何故か煙くない。逆に甘い匂いが立ちこめた。
「「あれ?」」
セレーネと声がダブった。
「何だか身体が熱く……」
「俺もだ。何だかムラムラしてきた」
「何だかおかしな気分になってきたわよ」
ものすごくヤバい気がする。これ、アカンやつじゃないのか? 身体が火照ってきたぞ。
「…ザイオンくぅん……」
セレーネの目がトロンとしてきた。
何だ、これ……
まともに思考できたのはそこまでだった。
意識にピンク色のモヤがかかってーー
ただ、それだけではでかい儲けは望めない。堅実と言えば堅実だが、そんなのはつまらない。どうせやるならトップを目指したいところだ。
じゃあそのためにはどうするかーー一番手っ取り早いのは、ウチでしか手に入らない物を作り出すことだ。それに希少価値がつけば、でかく儲けるのも可能になる。
とまあ言うのは簡単だが、それが文字通り簡単にできれば苦労はしない。
今のところウチの一番の売れ筋はこの辺で狩れる魔物の素材である。辺境ならではの商品と言えるだろう。
俺はこれを素材のままでなく、商品として加工することを考えている。加工品として売った方が工夫の余地もあるし、利幅も大きくなる。
これは俺がずっと考えていたことであり、そのために学生時代には生産系の技術の修得に多くの時間を費やしていたのだ。おかげで今では鍛冶や製薬などいくつかの技術はそれなりのレベルに達している。
いよいよ考えていたことを実践する段階になったわけだがーー
まあそう簡単にいくはずもなく、失敗例ばかりが積み上げられる結果になった。
「…上手くいかん……」
さっきから唸り声しか発していない気がする。
初めっから上手くいくとは思っていなかったが、ここまで失敗続きになるとも思っていなかった。
今日は採取してきた薬草を使ってポーションの調合に挑戦しているのだが、やはり上手くいかない。普通のポーションは作れるのだが、できればもっと効果の高い物を作りたいのだ。
こういうのはトライアンドエラーだとよく言うが、それで最終的に成功する保証などどこにもない。むしろ成功例の方が少ないくらいだ。
「発想の方向を変えてみるか」
ここまでは無難な組合せしか試してこなかった。しかし、これまでにないものを作り出そうというのに当たり障りのないことばかりやっていて成果が挙がるはずなどあるわけがない。
そこに気づくのにかなり余計な時間をかけてしまった。
「よし、今度はこれを使ってみよう」
俺が取り出したのは、シグナ草といって満月の夜にしか採取できない、割りと希少な薬草だった。眠気覚ましの効能があり、これをお茶に溶かし込んだ物は受験生の必須アイテムと言われている。俺も学院の試験前はかなり世話になった。
シグナ草をよく擂り潰し、水に溶く。ドロリとした、濃緑の液体ができた。
「これって、薄めないと結構キツい匂いがするんだな」
決して不快な匂いではないが、少し鼻がツンとする。何となくだが鼻づまりに効きそうだ。
その時、ノックの音がして、セレーネが部屋に入って来た。手に持ったお盆の上にはサンドイッチと紅茶が乗せられている。
「根詰めすぎじゃない? 少し休憩して」
「ああ、ありがとう」
言われてみると、かなり長い時間作業に没頭していたようだ。結構疲れているのが自覚できた。
ジャムを挟んだサンドイッチは疲れた頭を癒してくれた。
「美味い」
「良かった」
にっこり微笑むセレーネ。ああ、この笑顔が一番の癒しだな。
「どう、調子は?」
「何となく上手くいきそうな気がする」
セレーネに癒された今ならすべてが上手くいくんじゃないかと思う。
「何を作ってるの?」
「ポーションの効力アップを狙ってるんだ。シグナ草を混ぜたらどうなるか試してみようとしてるとこ」
「シグナ草かあ、懐かしいな」
「セレーネも使ってたの?」
「結構重宝したわよ。高かったからそんなには使えなかったけど」
「そう。高いんだよな。だから今まで使うのに二の足踏んでたんだけど、チャレンジしないと駄目かと思ってな」
「上手くいくといいね」
「やってみるよ」
普通のポーションにシグナ草の溶液を混ぜると、桃色の煙が結構な勢いで立ち上った。
「何だ?」
煙を吸ってしまったが、何故か煙くない。逆に甘い匂いが立ちこめた。
「「あれ?」」
セレーネと声がダブった。
「何だか身体が熱く……」
「俺もだ。何だかムラムラしてきた」
「何だかおかしな気分になってきたわよ」
ものすごくヤバい気がする。これ、アカンやつじゃないのか? 身体が火照ってきたぞ。
「…ザイオンくぅん……」
セレーネの目がトロンとしてきた。
何だ、これ……
まともに思考できたのはそこまでだった。
意識にピンク色のモヤがかかってーー
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