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6 勝ち目のない戦い
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朝ーー多分、朝のはず。
小鳥の囀りが聞こえ、カーテンの隙間から陽射しが差し込んで来ている。そこは東側の窓なので、朝であることは間違いないと思う。
それはいいとしてーーこれはどういう状況なんだ?
疑問点は腕の中にあった。
俺の左腕を枕にする形で、世にも幸せそうな顔をしたセレーネがすやすやと眠っている。お互いに服は身につけていたので、やらかしたということはないはずだが……ないよな?
それにしても。
この無防備な表情、可愛すぎて鼻血が出そうなんだが……
寝顔を愛でる一方で、この状況に至るまでの過程を推察してみる。
昨日は昼間っからセレーネの歓迎会が催された。皆が心から歓迎してくれたおかげでセレーネもすんなり溶け込み、非常に楽しい時間を過ごした。
その楽しかった宴会の途中で、記憶がすっぱりと途切れていた。
誰かが酒を混ぜやがったな。
思いつくのはその辺りだ。
で、同じように酔いつぶれたセレーネを一緒にベッドに押し込んだってところか。
ったく、あいつらーー
いい仕事するじゃねえか。
こんなことがなければ、こんなに可愛いセレーネを見れるのはもう少し先になっていたはずだ。何となく得した気分だな。
黙って寝顔を見てるのがいい趣味だと言われないのはわかっているが、せっかく気持ちよさげに眠っているのを起こすのは気の毒だと言い訳を準備しておく。
とりあえずセレーネが目覚めるまではこうしてよう。二度寝も考えたが、この状況で安眠できるほど俺は枯れてねえ。
…よくよく考えてみると、つい十日ほど前まではセレーネとはロクに話したこともなかったんだよな。それが今こうなってるって、どんな運命のイタズラなんだかな。これを仕組んだヤツがもしいるなら会ってみたい。厚く御礼申し上げる。
…待てよ。もしかして一番の立役者ってバルディンのアホになるのか?
まあ、ヤツが婚約破棄なんて言い出さなければ、この状況は生まれてねえよな……
そう考えれば、バルディンにも礼くらい言わなくちゃならんか。でも、顔見るのもやだから、礼は心の中で言っておこう。
その時、寝ぼけたのか、セレーネが俺の胸板にほっぺたをスリスリした。
「ザイオンくん、大好き」
…ヤバい。ヤバ過ぎる。
さすがに寝てる相手にキスしたりゴニョゴニョしたりするのはマズいと思って自重してきたが、こんな可愛くて破壊力満点の攻撃されたら、常識も理性も手の届かないところへ旅立ってしまいそうだ。
このままじゃ本気でヤバい。
顔を見てたらキスしてしまいそうだったので、窒息しない程度にセレーネの頭を抱えこんだ。
ところが、これは失策だった。
今度はセレーネの吐息が生々しく感じられるようになってしまったのだ。熱い息で首筋が溶けそうだ。
うおおおお
もううれしいんだか苦しいんだかわからない。ひとつだけわかるのは、これが続けば色々と駄目になってしまうということだ。
何とか現状を打開したいーーいや、しなくちゃ駄目だ。
起こしてしまうかもしれないが、セレーネの身体を引き離そうと肩に手をかけたら、何を思ったかセレーネはこっちにしがみついてきた。背中に手を回されたおかげで、何だかとんでもなく柔らかい感触が胸に当たる。
…駄目だ……
よく頑張ったよ、俺。でももう限界だ。先に謝っとく。ゴメン、セレーネ。
俺はセレーネを抱く腕に力を込めた。
小鳥の囀りが聞こえ、カーテンの隙間から陽射しが差し込んで来ている。そこは東側の窓なので、朝であることは間違いないと思う。
それはいいとしてーーこれはどういう状況なんだ?
疑問点は腕の中にあった。
俺の左腕を枕にする形で、世にも幸せそうな顔をしたセレーネがすやすやと眠っている。お互いに服は身につけていたので、やらかしたということはないはずだが……ないよな?
それにしても。
この無防備な表情、可愛すぎて鼻血が出そうなんだが……
寝顔を愛でる一方で、この状況に至るまでの過程を推察してみる。
昨日は昼間っからセレーネの歓迎会が催された。皆が心から歓迎してくれたおかげでセレーネもすんなり溶け込み、非常に楽しい時間を過ごした。
その楽しかった宴会の途中で、記憶がすっぱりと途切れていた。
誰かが酒を混ぜやがったな。
思いつくのはその辺りだ。
で、同じように酔いつぶれたセレーネを一緒にベッドに押し込んだってところか。
ったく、あいつらーー
いい仕事するじゃねえか。
こんなことがなければ、こんなに可愛いセレーネを見れるのはもう少し先になっていたはずだ。何となく得した気分だな。
黙って寝顔を見てるのがいい趣味だと言われないのはわかっているが、せっかく気持ちよさげに眠っているのを起こすのは気の毒だと言い訳を準備しておく。
とりあえずセレーネが目覚めるまではこうしてよう。二度寝も考えたが、この状況で安眠できるほど俺は枯れてねえ。
…よくよく考えてみると、つい十日ほど前まではセレーネとはロクに話したこともなかったんだよな。それが今こうなってるって、どんな運命のイタズラなんだかな。これを仕組んだヤツがもしいるなら会ってみたい。厚く御礼申し上げる。
…待てよ。もしかして一番の立役者ってバルディンのアホになるのか?
まあ、ヤツが婚約破棄なんて言い出さなければ、この状況は生まれてねえよな……
そう考えれば、バルディンにも礼くらい言わなくちゃならんか。でも、顔見るのもやだから、礼は心の中で言っておこう。
その時、寝ぼけたのか、セレーネが俺の胸板にほっぺたをスリスリした。
「ザイオンくん、大好き」
…ヤバい。ヤバ過ぎる。
さすがに寝てる相手にキスしたりゴニョゴニョしたりするのはマズいと思って自重してきたが、こんな可愛くて破壊力満点の攻撃されたら、常識も理性も手の届かないところへ旅立ってしまいそうだ。
このままじゃ本気でヤバい。
顔を見てたらキスしてしまいそうだったので、窒息しない程度にセレーネの頭を抱えこんだ。
ところが、これは失策だった。
今度はセレーネの吐息が生々しく感じられるようになってしまったのだ。熱い息で首筋が溶けそうだ。
うおおおお
もううれしいんだか苦しいんだかわからない。ひとつだけわかるのは、これが続けば色々と駄目になってしまうということだ。
何とか現状を打開したいーーいや、しなくちゃ駄目だ。
起こしてしまうかもしれないが、セレーネの身体を引き離そうと肩に手をかけたら、何を思ったかセレーネはこっちにしがみついてきた。背中に手を回されたおかげで、何だかとんでもなく柔らかい感触が胸に当たる。
…駄目だ……
よく頑張ったよ、俺。でももう限界だ。先に謝っとく。ゴメン、セレーネ。
俺はセレーネを抱く腕に力を込めた。
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