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5 大歓迎
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王都から乗り合いの馬車で一週間。俺たちは無事に実家へと帰ってきた。
「ここ?」
「ああ。ここが俺の実家。見てのとおり商会やってる。王都の商会に比べると全然小さいんだけどね」
「でも、すごく活気があって、みんな楽しそう」
朗らかな笑顔でそう言ってもらえると、こっちとしてもホッとする。どうしたってこれまでの貴族としての生活に比べたら不便なものになる。ポジティブな要素は少しでも多い方がいい。
心の準備がしたいと言われたので店から少し離れたところにいたら、店から出てきた壮年男性と目が合った。
「若!?」
「あ、ども」
古参の店員、ロナウドさんだった。俺が生まれた時には既に店で働いていたので、当然俺とも面識がある。
「そんなところで何してるんですか?」
「あ、いや、実はーー」
言いかけたところでロナウドさんがセレーネに気づいた。一瞬ギョッとした後、満面の笑みが取って代わった。
「ちょっと待っーー」
止めるより早くロナウドさんは出てきたばかりの店内に駆け戻った。
「若がとんでもなく別嬪な嫁さん連れて来たぞ!」
何の紹介もしていないのに、何でそうやって決めつけるかな……まあ、間違っちゃいないけどさ。
すぐに店から大勢が飛び出して来た。どの顔も馴染みだが、初めて見るような笑顔ばかりだ。
直撃されたらマズいと、セレーネを後ろにかばう。
「若、おかえりなさい!」
「お久しぶりです」
「元気そうで何よりっす」
口々に歓迎してもらえるのはやっぱりうれしい。ここが俺の家なんだな、と実感できる。
「みんな、ただいま。今日からまたよろしく頼むな」
「もちろんです。ところで若、後ろの別嬪さん、紹介してくださいよ!」
「ちょっと待て。落ち着けって。セレーネがびっくりしてるだろ!」
「セレーネさんと仰るんですね。いいお名前だ」
「だからその勢いで食いついてくんな!」
少しは人の話を聞け。
セレーネは完全にフリーズしてしまっている。ただでさえテンパっていたところに怒涛の勢いで畳み込まれりゃ誰でもこうなっちまうだろ。
「若のお嫁さんってことでいいんですよね?」
「は、はい」
そこだけははっきりさせたかったらしく、ぎこちなくではあったがセレーネははっきり頷いた。
「「「いやったぁーっ!!!」」」
歓声が爆発した。
「よかったーっ」
「若はホントに女っ気がなかったからね。本気で心配してたんだよ」
余計なお世話だっつーの。
「それもこんなに可愛らしいお嬢さんがねえ……長生きはするもんだねえ」
そんな大袈裟な。
「それじゃあ今日は宴会だな」
歓迎してくれるのはありがたいが、もう少しお手柔らかにお願いしたい。おまえらがやろうとしてるのは、歓迎という名の洗礼だ。
収拾がつかなくなりそうだと思ったその時、よく通る声が響いた。
「店の前で何の騒ぎだい?」
ピシッ、と幻音が聞こえたかと思うくらい一瞬で場の空気が緊張した。無意識の内に俺の背筋にも芯が通った。
俺とセレーネを囲んでいた人垣が割れ、妙齢の美人さんが現れた。
「姉さん、ただいま」
「お姉さん!?」
セレーネがとっ散らかった。何かもうクールビューティーのイメージ崩れまくってんな。今の方がつきあいやすいし好みだから全然オーケーなんだけど。
その声で姉さんはセレーネの存在に気がついた。
「誰だい?」
「セレーネと申します。ザイオンくんとおつきあいさせていただいてます」
「ほう」
姉さんの目が細められる。鑑定スキル持ちではないはずなのに大抵のことは見抜いてしまう、恐ろしい眼力を秘めた目である。俺も姉さん相手に嘘がバレなかったことはない。
値踏みされているのがわかるのだろう。セレーネは半泣き状態で動くこともできずにいる。あれって、マジで身動きできなくなるんだよな。ほとんど邪眼じゃねえのか?
ややあって、姉さんはニッと笑うと、セレーネに向かって右手を差し出した。
「ザイオンの姉のルシーナです。よろしくお願いしますね」
大きく息をついて胸を撫で下ろす。姉さんのお眼鏡にはかなったようだ。大丈夫だと思ってはいたが、とりあえずホッとした。
極度の緊張から解放されたセレーネは、半べそをかきながら姉さんと握手している。
「さあ、今日はセレーネの歓迎会だ。準備にかかりな」
「「「「「おう!!!!!」」」」」
「さあさあセレーネさん、こちらへどうぞ」
「あ、荷物持ちますよ」
みんながセレーネを案内していく。一番後ろに俺と姉さんが残った。
「いい娘じゃないか。あんたにしちゃあ上出来だ」
「サンキュ」
「ただ、確かあの娘侯爵家のご令嬢だろーー訳ありかい?」
敵わんな、姉さんには。
「後で全部話すよ」
「ああ、そうしておくれ」
そう言ってから姉さんはニヤリと笑った。
「自分で言うのもなんだけどーーあたしは味方につけといた方がいいと思うよ」
それは重々承知しております。
「姉さんを敵に回すほど命知らずじゃないさ」
「わかってればよろしい」
得意気に頷く姉さんに、俺は苦笑するしかなかった。
「ここ?」
「ああ。ここが俺の実家。見てのとおり商会やってる。王都の商会に比べると全然小さいんだけどね」
「でも、すごく活気があって、みんな楽しそう」
朗らかな笑顔でそう言ってもらえると、こっちとしてもホッとする。どうしたってこれまでの貴族としての生活に比べたら不便なものになる。ポジティブな要素は少しでも多い方がいい。
心の準備がしたいと言われたので店から少し離れたところにいたら、店から出てきた壮年男性と目が合った。
「若!?」
「あ、ども」
古参の店員、ロナウドさんだった。俺が生まれた時には既に店で働いていたので、当然俺とも面識がある。
「そんなところで何してるんですか?」
「あ、いや、実はーー」
言いかけたところでロナウドさんがセレーネに気づいた。一瞬ギョッとした後、満面の笑みが取って代わった。
「ちょっと待っーー」
止めるより早くロナウドさんは出てきたばかりの店内に駆け戻った。
「若がとんでもなく別嬪な嫁さん連れて来たぞ!」
何の紹介もしていないのに、何でそうやって決めつけるかな……まあ、間違っちゃいないけどさ。
すぐに店から大勢が飛び出して来た。どの顔も馴染みだが、初めて見るような笑顔ばかりだ。
直撃されたらマズいと、セレーネを後ろにかばう。
「若、おかえりなさい!」
「お久しぶりです」
「元気そうで何よりっす」
口々に歓迎してもらえるのはやっぱりうれしい。ここが俺の家なんだな、と実感できる。
「みんな、ただいま。今日からまたよろしく頼むな」
「もちろんです。ところで若、後ろの別嬪さん、紹介してくださいよ!」
「ちょっと待て。落ち着けって。セレーネがびっくりしてるだろ!」
「セレーネさんと仰るんですね。いいお名前だ」
「だからその勢いで食いついてくんな!」
少しは人の話を聞け。
セレーネは完全にフリーズしてしまっている。ただでさえテンパっていたところに怒涛の勢いで畳み込まれりゃ誰でもこうなっちまうだろ。
「若のお嫁さんってことでいいんですよね?」
「は、はい」
そこだけははっきりさせたかったらしく、ぎこちなくではあったがセレーネははっきり頷いた。
「「「いやったぁーっ!!!」」」
歓声が爆発した。
「よかったーっ」
「若はホントに女っ気がなかったからね。本気で心配してたんだよ」
余計なお世話だっつーの。
「それもこんなに可愛らしいお嬢さんがねえ……長生きはするもんだねえ」
そんな大袈裟な。
「それじゃあ今日は宴会だな」
歓迎してくれるのはありがたいが、もう少しお手柔らかにお願いしたい。おまえらがやろうとしてるのは、歓迎という名の洗礼だ。
収拾がつかなくなりそうだと思ったその時、よく通る声が響いた。
「店の前で何の騒ぎだい?」
ピシッ、と幻音が聞こえたかと思うくらい一瞬で場の空気が緊張した。無意識の内に俺の背筋にも芯が通った。
俺とセレーネを囲んでいた人垣が割れ、妙齢の美人さんが現れた。
「姉さん、ただいま」
「お姉さん!?」
セレーネがとっ散らかった。何かもうクールビューティーのイメージ崩れまくってんな。今の方がつきあいやすいし好みだから全然オーケーなんだけど。
その声で姉さんはセレーネの存在に気がついた。
「誰だい?」
「セレーネと申します。ザイオンくんとおつきあいさせていただいてます」
「ほう」
姉さんの目が細められる。鑑定スキル持ちではないはずなのに大抵のことは見抜いてしまう、恐ろしい眼力を秘めた目である。俺も姉さん相手に嘘がバレなかったことはない。
値踏みされているのがわかるのだろう。セレーネは半泣き状態で動くこともできずにいる。あれって、マジで身動きできなくなるんだよな。ほとんど邪眼じゃねえのか?
ややあって、姉さんはニッと笑うと、セレーネに向かって右手を差し出した。
「ザイオンの姉のルシーナです。よろしくお願いしますね」
大きく息をついて胸を撫で下ろす。姉さんのお眼鏡にはかなったようだ。大丈夫だと思ってはいたが、とりあえずホッとした。
極度の緊張から解放されたセレーネは、半べそをかきながら姉さんと握手している。
「さあ、今日はセレーネの歓迎会だ。準備にかかりな」
「「「「「おう!!!!!」」」」」
「さあさあセレーネさん、こちらへどうぞ」
「あ、荷物持ちますよ」
みんながセレーネを案内していく。一番後ろに俺と姉さんが残った。
「いい娘じゃないか。あんたにしちゃあ上出来だ」
「サンキュ」
「ただ、確かあの娘侯爵家のご令嬢だろーー訳ありかい?」
敵わんな、姉さんには。
「後で全部話すよ」
「ああ、そうしておくれ」
そう言ってから姉さんはニヤリと笑った。
「自分で言うのもなんだけどーーあたしは味方につけといた方がいいと思うよ」
それは重々承知しております。
「姉さんを敵に回すほど命知らずじゃないさ」
「わかってればよろしい」
得意気に頷く姉さんに、俺は苦笑するしかなかった。
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