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17 その頃、マルドゥークでは
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「どうしてこうなった?」
冷ややかに見下ろされて、第二王子カシムは震え上がった。
「所要で留守にして、帰って来たら大事な婚姻が破棄されている。一体全体何をどうしたらこんなことになるのか説明しろ」
「あ、兄上、これには深い訳がーー」
「それを訊いているんだ。とっとと答えろ」
カシムの兄であり王太子でもある第一王子ディアスは、抑えきれない怒りを滲ませつつ弟にプレッシャーをかける。
「み、身分の違う結婚は上手くいかないと思うんです」
「身分?」
ディアスは眉根を寄せた。
「どこにあるかもわからないような小国の王女と大国マルドゥークの王子である私とでは明らかに身分が違うではありませんか」
「何様だ、おまえ」
震えながら言ったカシムの言葉はあっさりと一刀両断された。ただでさえ冷たかったディアスの纏う空気が、更に温度を下げる。
「ひっ」
兄の威圧をまともに受けたカシムは顔色をなくした。
「おまえごときが身分を云々するなど十年早いわ」
「!?」
「そもそも、おまえは王族の婚姻というものを理解しているのか? 王族の婚姻とは何よりも国益が重視されることなど、今更説明するまでもなかろう」
「国益……」
「そうだ。国益を産めぬ者に王族たる資格はない。そこで訊こう。おまえが提供できる国益とは何だ?」
「……」
カシムは答えられない。そんなこと、考えたこともなかったのだ。
「答えられるわけないよな。はっきり言ってやろう。おまえには何もない。政にも武にも才はなく、何かを創り出すこともできない。そんなおまえが唯一国に貢献できるチャンスが今回の婚姻話だったというのに、おまえはそれを自らぶち壊したんだ」
絶対零度の言葉の刃が情け容赦なくカシムを切り裂く。
「…あの小国の王女にどれほどの価値があったというのですか?」
実のところ、この問いかけがカシムの今後を決定づけることとなった。
「…なぜ知らんのだ?」
一瞬でカシムは失敗を悟った。これ以上下がることはないと思っていたディアスのオーラが更に凍度を増したのだ。
「クジシマのレティシア姫を、おまえは本当に知らんのか?」
「し、知らないわけないです。クラスメイトでしたから」
「そんなことは聞いていない。レティシア姫の特技を知らんのか?」
「特技?」
間抜け面を晒すカシムにディアスの怒りと失望は頂点に達した。
「レティシア姫は超稀少な『魔剣精製』スキルの持ち主だ」
「なーー」
ここに至り、ようやくカシムにもことの重大さが理解できた。
魔剣。
それは、剣士であれば誰もが夢見る武具である。魔力を纏った剣の切れ味は凄まじいの一語につき、巨岩すらも両断する。
だが、現存する魔剣は少ない。確認されている数は二桁に届かない。
そんな中に魔剣を作り出せる者が現れたらーー
当然争奪戦になる。
国力を活かしたマルドゥークが争奪戦を制したのだが、まさかまさかの展開というわけである。
「そんな……」
「おまえは取り返しのつかないことをしてしまったのだよ」
その時、部屋の扉がノックされた。
「入れ」
「失礼します」
現れたのは、一組の男女だった。公爵令嬢ドロシーとその兄で騎士団長のリオネルである。
「ドロシー……」
カシムは呻くように恋人の名を呼んだ。
「カシム様……」
ドロシーの顔色は真っ青である。こちらも自分がやらかしたことはわかっているようだ。
「さて、判決を言い渡すとしようか」
冷ややかに見下ろされて、第二王子カシムは震え上がった。
「所要で留守にして、帰って来たら大事な婚姻が破棄されている。一体全体何をどうしたらこんなことになるのか説明しろ」
「あ、兄上、これには深い訳がーー」
「それを訊いているんだ。とっとと答えろ」
カシムの兄であり王太子でもある第一王子ディアスは、抑えきれない怒りを滲ませつつ弟にプレッシャーをかける。
「み、身分の違う結婚は上手くいかないと思うんです」
「身分?」
ディアスは眉根を寄せた。
「どこにあるかもわからないような小国の王女と大国マルドゥークの王子である私とでは明らかに身分が違うではありませんか」
「何様だ、おまえ」
震えながら言ったカシムの言葉はあっさりと一刀両断された。ただでさえ冷たかったディアスの纏う空気が、更に温度を下げる。
「ひっ」
兄の威圧をまともに受けたカシムは顔色をなくした。
「おまえごときが身分を云々するなど十年早いわ」
「!?」
「そもそも、おまえは王族の婚姻というものを理解しているのか? 王族の婚姻とは何よりも国益が重視されることなど、今更説明するまでもなかろう」
「国益……」
「そうだ。国益を産めぬ者に王族たる資格はない。そこで訊こう。おまえが提供できる国益とは何だ?」
「……」
カシムは答えられない。そんなこと、考えたこともなかったのだ。
「答えられるわけないよな。はっきり言ってやろう。おまえには何もない。政にも武にも才はなく、何かを創り出すこともできない。そんなおまえが唯一国に貢献できるチャンスが今回の婚姻話だったというのに、おまえはそれを自らぶち壊したんだ」
絶対零度の言葉の刃が情け容赦なくカシムを切り裂く。
「…あの小国の王女にどれほどの価値があったというのですか?」
実のところ、この問いかけがカシムの今後を決定づけることとなった。
「…なぜ知らんのだ?」
一瞬でカシムは失敗を悟った。これ以上下がることはないと思っていたディアスのオーラが更に凍度を増したのだ。
「クジシマのレティシア姫を、おまえは本当に知らんのか?」
「し、知らないわけないです。クラスメイトでしたから」
「そんなことは聞いていない。レティシア姫の特技を知らんのか?」
「特技?」
間抜け面を晒すカシムにディアスの怒りと失望は頂点に達した。
「レティシア姫は超稀少な『魔剣精製』スキルの持ち主だ」
「なーー」
ここに至り、ようやくカシムにもことの重大さが理解できた。
魔剣。
それは、剣士であれば誰もが夢見る武具である。魔力を纏った剣の切れ味は凄まじいの一語につき、巨岩すらも両断する。
だが、現存する魔剣は少ない。確認されている数は二桁に届かない。
そんな中に魔剣を作り出せる者が現れたらーー
当然争奪戦になる。
国力を活かしたマルドゥークが争奪戦を制したのだが、まさかまさかの展開というわけである。
「そんな……」
「おまえは取り返しのつかないことをしてしまったのだよ」
その時、部屋の扉がノックされた。
「入れ」
「失礼します」
現れたのは、一組の男女だった。公爵令嬢ドロシーとその兄で騎士団長のリオネルである。
「ドロシー……」
カシムは呻くように恋人の名を呼んだ。
「カシム様……」
ドロシーの顔色は真っ青である。こちらも自分がやらかしたことはわかっているようだ。
「さて、判決を言い渡すとしようか」
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