ふたつの婚約破棄 ~サレ同士がタッグを組んだら~

オフィス景

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13 実は料理もできるんです

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 魔石はレティに任せたが、他にも処分しなければいけないものがある。

 肉だ。

 魔物の中には、上手に料理すればめちゃくちゃ旨くなるヤツがいる。その代表格がオークという二足歩行のブタみたいな魔物だ。今回の狩りでも結構な数を仕留めてあるのだがーー

「え?   魔物を食べるの?」

 レティに思いっきり嫌な顔をされた。クジシマには魔物を食する文化はないらしい。

「美味いぞ」

「あはは、あたしはちょーっと遠慮したい気分かなー」

「美味いのになぁ」

 無理に勧める気はなかったので、一人で準備を進めることにした。城の厨房の一角を借りる。

 まずは定番中の定番である焼き肉を。

 肉をほどほどの厚さに切り、塩で下味をつける。

 下味が馴染んだら、熱々に熱したフライパンに肉を投入。両面にちょっとした焦げ目がつくまで焼く。

 そして合わせダレを回しかける。



 ジュワッ!



 立ち上る快音と暴力的な香り。

 本能を揺さぶられて、抵抗などできるわけがない。

「オークの生姜焼き、いっちょあがり!」

 匂いにやられたか、レティが呆然とした顔でこっちを見ている。

「食うか?」

 反射的に頷きかけたレティだったが、これが魔物の肉だということを思い出したらしい。縦に振られかけた首が不自然に急停止した。

「要らないなら俺が食うぞ」

 ビジュアルからして食欲をそそる肉を一枚つまみ上げ、口に放り込む。

「美味い!」

 生姜焼きを食うのが久しぶりだったこともあり、舌と頭にガツンときた。

 オークの肉自体も上質。

 味つけは鉄板。

 美味くないはずがない。

 溢れる肉汁を堪能しつつ肉を噛みしめる。ちなみにこの場合、肉と書いてしあわせと読む。

「ティ、ティム殿、その料理は一体ーー」

 少し離れたところで様子を見守っていた料理長が近づいてきた。料理長だけじゃなく、その場に居合わせた料理人たちも興味津々の体でこちらを覗き込んでいる。

「ああ、オークの生姜焼きですよ」

「「「「オーク!?」」」」

 何重かに驚いた声が重なる。

「オークって食べれるんですか!?」

「美味いですよ。食べてみます?」

「「「「ぜひ!!」」」」

 料理人としては、禁忌よりも未知なる味が優先されるらしい。

 幸いオーク肉は売るほどあったので、人数分の生姜焼きを手早く作り、振る舞った。

「美味い!」

「何だ、これ…こんなに美味い肉初めて食ったぞ」

「誰だよ、魔物の肉は食っちゃ駄目だって言ったヤツ。そいつのせいでこれまでの人生だいぶ損したぞ」

「ティムさん、師匠と呼ばせてくれ」

 絶賛の嵐。嬉しいが、さすがにそこまで言われると、少々こそばゆい。

「ね、ねえティムくん」

 レティに袖を引っ張られた。

「どした?」

「オークってホントにそんなに美味しいの?」

「美味いよ。新しい世界が拓けるんじゃないかな」

「そ、そうなんだ……」

 何かを訴えかけるように見つめてくる。

 十中八九「食べるか?」と訊いて欲しいんだろうな。頑なに断った手前、自分からは言いにくいんだろう。

 からかってやろうかなとちょっと意地悪な気持ちが芽生えかけたが、誰得だよと思い直す。

「食べる?」

「うん!」



 もしかしたら、今までで一番いい笑顔だったかもしれない。

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