ふたつの婚約破棄 ~サレ同士がタッグを組んだら~

オフィス景

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5 卒業

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「だから言っただろう。絶対ダメになると」

 白銀色のドラゴンーーシルはやれやれと呆れを滲ませた口調で言った。

「俺だって好きで受けた話じゃないのは知ってるだろ。あんな形で突きつけられた話、断りようがねえじゃんか」

 そこは声を大にして言っておきたい。一連の婚約話において、俺の自由意思は欠片ほども存在しなかった。反論すら許されず、王都の学園に放り込まれたのだ。

「確かになーーで、この後はどうするのだ?」

「とりあえずクジシマまで連れてってくんねえかな?」

「クジシマ?」

「ああ、彼女の故郷なんだ」

 そこで初めてシルがレティを見た。レティはまだ驚きから脱しきれていないようで、口をあんぐり開けて、せっかくの美少女を台無しにしている。

「お主の番か?」

「番!?」

 レティが目を白黒させる。

「違うよ。彼女も俺と同じで、馬鹿から婚約破棄されたんだ」

「ふむ。婚約破棄が流行っているんだな」

「流行ってねえよ!?」

 本当にそんなものが流行したら世も末だ。

「ではどうするのだ?」

「やつらを後悔させてやる」

「我が滅ぼしてやってもいいぞ?」

「いやいや、それは俺たちが目指すものとは違うから」

 カシムとドロシーを見返したいだけで、マルドゥーク王国をどうこうしようとはこれっぽっちも考えていない。

「遠慮しなくていいのだぞ?」

「遠慮なんてしてないから。それは本気で求めてないから」

 曖昧なことを言って誤解させたら、シルはマジでマルドゥークを滅ぼしかねない。シルにはそれだけの力がある。だからこそ俺の意志ははっきり伝える必要がある。

「なんだ、つまらん」

 つまるつまらんで一国を滅ぼそうとするのはやめてくれ。

 そんなに話をしているうちに、会場の方が騒がしくなってきた。どうやらシルに気づいた者がパニックを起こしているようだ。

「シル、悪いが頼む。ここであんまり騒ぎにしたくない」

 既に手遅れな気がしないでもないが、これ以上騒ぎを拡大するのは本意ではない。

「よかろう。そっちの娘も乗るがいい」

 とは言え、それではいそうですかと乗れるのは、よほど肝が据わっているか、頭のネジが緩んでいる者くらいだ。レティの反応はごくごく普通のものだろう。

 俺はレティに手を差し伸べる。

「行こう、レティ。俺と一緒に」

 目を合わせたレティは、力強く頷いた。

「よろしくね、ティムくん」

 手を引いてシルの背に登った時、会場から大勢の生徒たちが出てきた。その中にはカシムとドロシーもいて、こっちを見て何事か喚いている。

 何言ってるかはまったく聞こえなかったけど。

「これくらいはよかろう」

 シルが大きく羽ばたいた。巻き起こった突風に飛ばされ、居合わせた連中がコロコロ転がっていく。

 ちょっとだけスッとした。

 シルの背から学園を見渡す。三年間を過ごした場所だけに感慨はそれなりにあったが、ここにとどまりたいとは思わなかった。

 隣のレティを見ると、レティも俺に目を向けていた。

 ひとつ頷き合う。

 言葉はいらなかった。

 シルの背をポンと叩く。

 シルの巨体が、まったく重さを感じさせない挙動で空に浮かぶ。



「あばよ!」



 シルは俺たちを乗せて、力強く飛翔した。

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