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 平石和美は世界的に勇名を轟かせている遺産武器開発の権威である。遺産に関わる者でその名を知らない者はもぐりとまで言われている。それほどまでに和美の作り出すオリジナリティあふれる武器は、対妖魔戦において絶大なる威力を発揮したのだ。

 だが、一般の人は知らない。

 和美の武器が世に出る前にどれほどの失敗を重ねられているかを。そして、その失敗の実験台に誰がなっているのかを。

 和美の武器の威力は認めつつも、できれば遠いところで開発して欲しいというのが、レンジャーズの面々の正直なところだった。

 とは言え、和美の立場から見れば、レンジャーズのメンバーというのは大変に重宝できる存在なのだ。

 まず、腕利きが多い。

 圭一は言うに及ばず、早苗は長刀を使いこなすし、圭一と同じように剣を使うのが慎吾と達人。変わったところでは発掘に使うつるはしをそのまま武器として使う武蔵と、双条鞭の使い手である渚であった。いずれもそんじょそこらの武道家レベルでは相手にならないほどの腕の持ち主たちが揃っているのだ。

 しかも、その面々が常人離れしたタフさを誇っているので、実験台としては最適なのだ。

 国家機関や軍需産業からも引き手数多な和美がレンジャーズにこだわっている理由のひとつが、間違いなくこの実験台の存在なのだ。

「いやあ、和美先生の最新作かあ。どれだけ破壊力あるのか、楽しみだなあ」

 完全に他人事モードの武蔵はニヤニヤ笑っている。

「ほれ、圭一」

 近くまで来た和美が、手にした棒状のものを圭一に放った。

 反射的に受け取ってしまって、圭一は苦い顔をしたが、同時に、訝しげに眉をひそめた。

「槍?」

「そうだ。いい出来だろ?」

 和美は胸を張った。

「イメージは『白銀の槍使い』。まあ見ればわかるだろうけどな」

 その言葉どおり、槍は眩いばかりの銀色に輝いていた。

「綺麗……」

 渚は思わず見とれた。

「だろ。今回はシンプルにしてみたんだ。いいだろ」

「え? 槍だけ?」

 意外そうな顔をしたのは圭一である。

 常の和美の発明であれば、本来の目的のほかに余計な機能がつくことが多い。その余計なものこそが曲者なのだが、それがついていないとなると、純粋な武器として使うことができるということである。

「本当はつけたい機能もあったし、君たちがそれを期待しているのもわかってはいるんだが、この槍だけは、このデザインを崩しちゃいけないような気がしてな」

 そう言って、和美は意味ありげな視線を早苗に注ぐ。

 早苗は微妙な表情をしていた。

 怒っているような、それでいて満足そうな、なんとも不思議な顔である。

「圭一、ずっとそれを持っていろよ」

「へ?」

「肌身離さず持ち歩くんだ。その槍は必ずおまえの助けになるから」

「はあ……」

 和美がこういう言い方をすることは珍しい。

「先輩、頑張ってくださいね」

 早苗が唐突に言った。

「は? 何をだ?」

「先輩ならきっとできます」

「だーかーらー、話が見えねえって言ってんだよ」

「あたし、先輩のこと信じてますから」

「あん?」

 圭一が眉間の皺を深くした瞬間――

 ドン、と大地を突き上げた強烈な揺れが、全員の足元をすくった。

「うおっ!?」

「きゃあっ!?」

 ほとんど同時に、圭一の足元の大地が大きく裂けた。

「なっ!?」

 圭一は為す術なく割れ目に呑みこまれた。

 自分も揺れに翻弄されながら、早苗は圭一の姿を目で追った。

 あっという間に小さくなる圭一の姿が、突然虹色の光に包まれた。

 数秒たって、その光が消えた後、圭一の姿もまた消えていた。

 その時になってようやく揺れも治まる。

「みんな無事か?」

「先輩が地割れに呑まれました」

「何だって!?」

「でも大丈夫です。夜になったら帰ってくると思いますので」

「はあ!?」

 昨日から意味不明の発言の多い早苗だが、これが極めつけだった。

 しかし、早苗は周りの不審げな視線を気にする風もなく、圭一を呑みこんだ地割れの淵から割れ目の底をじっと見つめている。

「先輩、頑張ってね」

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