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「で、一体何だったんだ?」
「さあな」
渚と談笑する早苗を見ながら、圭一は疲れきったため息をついた。
「あいつが何考えてるのか、俺にはさっぱりわからん」
「わかりゃ苦労はしねえわな」
武蔵も肩をすくめた。
「それでも、わかりたいと思うか?」
「わかれば楽だよな」
「それは恋だな」
「ぶっ」
脈絡のなさすぎる発言に、圭一は口の中のものを吹き出した。
「何でそうなる!?」
「いい加減に認めちまえ。そうすりゃ楽になるぞ」
「認めるって何をだ?」
「おまえが早苗に恋してることだ」
「それだけはありえねえ」
圭一は頑なに首を振った。
「どうしてそう白々しいかね、この男は」
武蔵は丸太ん棒のような腕で圭一にヘッドロックをしかける。
「間近で茶番を見せられるこっちはたまんねえんだよ」
「俺にその気はない!」
「ほう。あくまでもそう言い張る気か」
「本当のことだからな」
「よし、わかった」
武蔵は意味ありげに大きく頷いた。
「達、告っていいぞ」
「へ?」
突然の指名を受けた達人が目を白黒させる。
「おまえ、早苗のことがいいなって言ってたろ。圭一に遠慮してるみたいだったが、圭一はこう言ってるから、かまわん、思いの丈をぶちまけちまえ」
けしかけるような台詞を、鬼のような形相で言う。あまりの恐ろしさに、達人は否定の言葉を言うことができない。
一方で圭一がおったまげた顔を向けてくる。こちらはこちらで厄介である。
板挟みで進退窮まった達人に、思わぬところから救いの手が差し伸べられた。
「おおーい」
「あ、和美先生たちだ!」
達人が弾かれたように立ち上がった。
一日遅れの後発隊の到着である。冷静に考えれば、更なる嵐の到来以外の何物でもないのだが、今このときばかりは達人にとって救いの女神であった。
軽い足取りで先頭を歩いてくる女性は、何やら細長い棒のようなものを振り回している。
「ぬ……」
その姿を確認した瞬間、圭一の背筋を悪寒が駆け上がった。
危険を察知する嗅覚が、最大級の警報を発している。
あれ、絶対やばい。
レンジャーズの発明女王――開発科の教授、平石和美が握っている棒に、圭一は凶悪なものを感じ取っていた。
そして、和美の笑顔にも悪魔の存在を感じていた。
「和美先生、妙に嬉しそうじゃないか?」
「かつてないほど嬉しそうだな」
「嫌な予感がする」
「十分成果挙げたし、この合宿、ここで終わってもいいような気がしないか?」
真面目な顔でメンバーが言う。
気合の入りすぎた早苗も怖いが、めちゃくちゃ嬉しそうな和美はもっと怖い。それはレンジャーズにおける定説だった。
「喜べ、圭一。いいのができたぞ」
その言葉を聞いた瞬間、圭一を除く全員が大きく安堵の息をついた。
逆に圭一の顔からは血の気が退いていく。
…俺かよ……
大概のことには耐性がついている圭一だったが、正直これだけは勘弁して欲しかった。
「さあな」
渚と談笑する早苗を見ながら、圭一は疲れきったため息をついた。
「あいつが何考えてるのか、俺にはさっぱりわからん」
「わかりゃ苦労はしねえわな」
武蔵も肩をすくめた。
「それでも、わかりたいと思うか?」
「わかれば楽だよな」
「それは恋だな」
「ぶっ」
脈絡のなさすぎる発言に、圭一は口の中のものを吹き出した。
「何でそうなる!?」
「いい加減に認めちまえ。そうすりゃ楽になるぞ」
「認めるって何をだ?」
「おまえが早苗に恋してることだ」
「それだけはありえねえ」
圭一は頑なに首を振った。
「どうしてそう白々しいかね、この男は」
武蔵は丸太ん棒のような腕で圭一にヘッドロックをしかける。
「間近で茶番を見せられるこっちはたまんねえんだよ」
「俺にその気はない!」
「ほう。あくまでもそう言い張る気か」
「本当のことだからな」
「よし、わかった」
武蔵は意味ありげに大きく頷いた。
「達、告っていいぞ」
「へ?」
突然の指名を受けた達人が目を白黒させる。
「おまえ、早苗のことがいいなって言ってたろ。圭一に遠慮してるみたいだったが、圭一はこう言ってるから、かまわん、思いの丈をぶちまけちまえ」
けしかけるような台詞を、鬼のような形相で言う。あまりの恐ろしさに、達人は否定の言葉を言うことができない。
一方で圭一がおったまげた顔を向けてくる。こちらはこちらで厄介である。
板挟みで進退窮まった達人に、思わぬところから救いの手が差し伸べられた。
「おおーい」
「あ、和美先生たちだ!」
達人が弾かれたように立ち上がった。
一日遅れの後発隊の到着である。冷静に考えれば、更なる嵐の到来以外の何物でもないのだが、今このときばかりは達人にとって救いの女神であった。
軽い足取りで先頭を歩いてくる女性は、何やら細長い棒のようなものを振り回している。
「ぬ……」
その姿を確認した瞬間、圭一の背筋を悪寒が駆け上がった。
危険を察知する嗅覚が、最大級の警報を発している。
あれ、絶対やばい。
レンジャーズの発明女王――開発科の教授、平石和美が握っている棒に、圭一は凶悪なものを感じ取っていた。
そして、和美の笑顔にも悪魔の存在を感じていた。
「和美先生、妙に嬉しそうじゃないか?」
「かつてないほど嬉しそうだな」
「嫌な予感がする」
「十分成果挙げたし、この合宿、ここで終わってもいいような気がしないか?」
真面目な顔でメンバーが言う。
気合の入りすぎた早苗も怖いが、めちゃくちゃ嬉しそうな和美はもっと怖い。それはレンジャーズにおける定説だった。
「喜べ、圭一。いいのができたぞ」
その言葉を聞いた瞬間、圭一を除く全員が大きく安堵の息をついた。
逆に圭一の顔からは血の気が退いていく。
…俺かよ……
大概のことには耐性がついている圭一だったが、正直これだけは勘弁して欲しかった。
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