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「すっげえな、おい」
夕食の席、指定された広間に入ったところで全員が思わず唸り声を上げた。それほど並んだ料理が豪勢だったのだ。海の幸を中心とした彩も鮮やかな料理の数々は、度肝を抜くのに十分すぎた。哀しい習性で「絶対払えない」と誰もが金の心配をしてしまう。
「席間違えたんじゃねえのか?」
席につくこともできず、入口のあたりでたむろしていると、後ろから声がかかった。
「大丈夫ですよ。ここが皆さんのお席ですよ」
振り返ると、和服姿の若い女性がにこやかに笑っていた。女将の修行中だという早苗の友人、木本夏海である。楚々とした挙措が身についた、大人っぽい雰囲気の美女である。
「でも、俺たち、こんなもてなし受けても金払えないですよ」
「ご心配なく。これはうちからのサービスですから」
「サービス? ってことはロハ?」
「はい。ですから遠慮なくどうぞ」
一気に盛り上がる一同の中で、圭一は微妙な表情で早苗と夏海を見比べた。
「何か弱みでも握られてるんすか?」
「何でよっ!?」
思わず本気で突っ込んだ早苗に、夏海はくすくす笑う。
「いいコンビみたいですね」
「やめてくれ」
「こっちこそ願い下げだわ」
つんとそっぽを向いた後、早苗は夏海を廊下へ引っ張り出した。
「ちょっと夏海。ホントにいいの?」
「もちろん。あたしだって助けられた一人ですからね。これくらいじゃ全然追いつかないとは思うけど、とりあえずあたしの感謝の気持ちだと思って」
言ってから、夏海は一同を見回し、圭一に目を止めると、にっこりと微笑んだ。
「水谷圭一さんですね。こちらへどうぞ」
「へ?」
突然のご指名に、圭一は目を白黒させた。
「おい、知り合いなのか?」
「いや、初対面のはず、だけど……」
圭一は自信なさそうに答えた。初対面だとは思うのだが、相手があまりに堂々としているので、自分の記憶の方が怪しく思えてしまうのだ。
どこかで会ったっけ?
懸命に記憶を探るのだが、答えは出てこない。
夏海が圭一を連れて行ったのは、一際豪華なお膳の前だった。他のも十分すぎるほどに立派なお膳なのだが、これは「贅を尽くした」という表現がぴったりの、とんでもないお膳であった。
「え? ちょっと、これってどういう――」
当の圭一が一番戸惑っているのを見て、他のメンバーはやや冷静になることができた。
「あいつ、何したんだ?」
「さあ? 当人にも心当たりはないようですがね」
「でも、早苗は何か知ってそうですよ」
渚の指摘で早苗を見ると、なにやら複雑な表情をしている。
「何かあるんだろうな」
「でしょうね。来る時も何だか意味深な話してましたし」
「気になるな」
「でもきっと口は割らないと思いますよ」
早苗の頑固さは筋金入りである。
「そこに圭一先輩が絡んでるっていうのがよくわからないんですよね」
「あの二人、昔っからの知り合いだったのか?」
「それはないと思いますよ。だって、初めての時が初めての時だし。早苗には心に決めた人がいるっていう話じゃないですか」
「圭一がその男だって線はないかな?」
「もしそうだったら怒りますよ。今までは何だったんだって話じゃないですか」
「だよな」
「詮索は後にしませんか? 俺、腹減っちまいましたよ」
お腹を押さえた達人が情けない顔をする。
「そうだな。いらんこと考えるより、こっちを堪能する方がいいな」
ということで、夕食が始まった。
夕食の席、指定された広間に入ったところで全員が思わず唸り声を上げた。それほど並んだ料理が豪勢だったのだ。海の幸を中心とした彩も鮮やかな料理の数々は、度肝を抜くのに十分すぎた。哀しい習性で「絶対払えない」と誰もが金の心配をしてしまう。
「席間違えたんじゃねえのか?」
席につくこともできず、入口のあたりでたむろしていると、後ろから声がかかった。
「大丈夫ですよ。ここが皆さんのお席ですよ」
振り返ると、和服姿の若い女性がにこやかに笑っていた。女将の修行中だという早苗の友人、木本夏海である。楚々とした挙措が身についた、大人っぽい雰囲気の美女である。
「でも、俺たち、こんなもてなし受けても金払えないですよ」
「ご心配なく。これはうちからのサービスですから」
「サービス? ってことはロハ?」
「はい。ですから遠慮なくどうぞ」
一気に盛り上がる一同の中で、圭一は微妙な表情で早苗と夏海を見比べた。
「何か弱みでも握られてるんすか?」
「何でよっ!?」
思わず本気で突っ込んだ早苗に、夏海はくすくす笑う。
「いいコンビみたいですね」
「やめてくれ」
「こっちこそ願い下げだわ」
つんとそっぽを向いた後、早苗は夏海を廊下へ引っ張り出した。
「ちょっと夏海。ホントにいいの?」
「もちろん。あたしだって助けられた一人ですからね。これくらいじゃ全然追いつかないとは思うけど、とりあえずあたしの感謝の気持ちだと思って」
言ってから、夏海は一同を見回し、圭一に目を止めると、にっこりと微笑んだ。
「水谷圭一さんですね。こちらへどうぞ」
「へ?」
突然のご指名に、圭一は目を白黒させた。
「おい、知り合いなのか?」
「いや、初対面のはず、だけど……」
圭一は自信なさそうに答えた。初対面だとは思うのだが、相手があまりに堂々としているので、自分の記憶の方が怪しく思えてしまうのだ。
どこかで会ったっけ?
懸命に記憶を探るのだが、答えは出てこない。
夏海が圭一を連れて行ったのは、一際豪華なお膳の前だった。他のも十分すぎるほどに立派なお膳なのだが、これは「贅を尽くした」という表現がぴったりの、とんでもないお膳であった。
「え? ちょっと、これってどういう――」
当の圭一が一番戸惑っているのを見て、他のメンバーはやや冷静になることができた。
「あいつ、何したんだ?」
「さあ? 当人にも心当たりはないようですがね」
「でも、早苗は何か知ってそうですよ」
渚の指摘で早苗を見ると、なにやら複雑な表情をしている。
「何かあるんだろうな」
「でしょうね。来る時も何だか意味深な話してましたし」
「気になるな」
「でもきっと口は割らないと思いますよ」
早苗の頑固さは筋金入りである。
「そこに圭一先輩が絡んでるっていうのがよくわからないんですよね」
「あの二人、昔っからの知り合いだったのか?」
「それはないと思いますよ。だって、初めての時が初めての時だし。早苗には心に決めた人がいるっていう話じゃないですか」
「圭一がその男だって線はないかな?」
「もしそうだったら怒りますよ。今までは何だったんだって話じゃないですか」
「だよな」
「詮索は後にしませんか? 俺、腹減っちまいましたよ」
お腹を押さえた達人が情けない顔をする。
「そうだな。いらんこと考えるより、こっちを堪能する方がいいな」
ということで、夕食が始まった。
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