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7 ざまぁ
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「ん、ベヒーモス」
俺が答えた瞬間、とぼとぼとギルドを去ろうとしていたカイルがすごい勢いで振り返った。
「ベヒーモスだと!?」
「おわ、何だ!?」
いきなりカイルに突進されて驚いてしまった。
「ようやく依頼達成ということだな。さあ、早くベヒーモスを出せ」
「は? 何言ってんの、おまえ」
目が点になってしまう。
「何って、俺はベヒーモスの素材の採取の依頼を出したんだ。それを達成したということなんだろう。だからそれを出せと言ってるんだ。早くしろ」
「はあぁーーっ」
多分これ以上深いため息はついたことがない、というレベルのため息をついたら、肺が空っぽになった。
「…おまえ、マジで頭沸いてんだろ」
「な、何だと!?」
「おまえの依頼を受けたわけじゃねえんだよ。おまえのクソ依頼は掲示板の一番下で塩漬けになってんだろうが」
「し、塩漬けだと」
「あたりめえだ。誰があんなクソ報酬で命懸けなんかすると思ってんだ。てめえは冒険者をバカにしてんだよ。面ぁ洗って出直してきやがれ!」
そう言い切ると、周りから拍手が湧いた。ちょっと照れくさかったが、言いたいことは言い切ったので、気分は良かった。
「そ、それならギルドから買う。それなら問題ないだろう」
「…いくらで買う気だ?」
「依頼につけた報酬額だ」
「はあーっ」
深いため息をつく。こいつ、ホントにわかってねえな。
「フィーナ、現品確認と見積もり頼む」
成り行きを見守っていたフィーナに声をかける。
「わかりました。解体所の方にお越しください」
頷いて、カイルに目を向ける。
「ついて来い。相場ってもんを教えてやる」
解体所に移動する。カイルだけじゃなく、居合わせた連中もニヤニヤしながらついてきたが、まあいいだろう。赤っ恥ってのは、かくなら派手にかいた方がいい。でなけりゃ教訓にもできないからな。
「それじゃあ、ここに出してください」
「はいよ」
指定された台の上にベヒーモスを出す。
「「「「おおーっ!!!!」」」」
感嘆の声が上がる。
まあ、今回は自分で言うのもなんだが、かなりの大物だ。体長十五メートルクラスはなかなかないぞ。
「どうだ?」
「そうね。相変わらず綺麗に倒すわね」
「まあ、それくらいしか取り柄がないからな」
「またご謙遜をーーって、まあこれだけ大きくて綺麗なら5000万Gは固いんじやないかしら」
その言葉を聞いて、カイルの顔色は真っ青になった。バカが依頼で出した金額は、桁が二つ違ったのだ。
「…そんなバカな……」
膝から崩れ落ちたカイルにとどめを刺す。
「これまでは俺が仕留めてきた素材を使っていたから好き勝手できたんだってこと、理解できたか?」
「……」
「俺はこれからこの剣で生きていく。家にいた時よりもいい生活ができるだろうな。誰かさんに不当な横槍を入れられることもないからな」
「に、兄さんーー」
「やめろや、今更」
出せる限りの冷たい声。
「俺を切り捨てたのはおまえらの方だろ。俺は戻るつもりはないし、おまえらの田のみを聞くつもりもないーーもっとも、正当な報酬の依頼なら考えるかもしれんがな」
そんなことないだろうなと思いながら言っている時点で俺も性格が悪いなと思わないでもない。でも、それくらい言ってやらなければ、気が済まなかったのだ。追放の件だけでなく、冒険者を小馬鹿にするような依頼にも頭に来ていたので。
周りも満足そうにしているので、この辺まではオーケーということにしてもらおう。
「わかったらとっとと消えろ!」
少し声を大きくしたら、カイルはかなり憔悴した様子でとぼとぼとギルドを後にした。
「あー、スッキリした!」
声をあげたのは俺じゃない。周りで見ていた冒険者の誰かだ。
「ホントだぜ。ジェフさん、よく言ってくれた。一杯奢るぜ」
何故か宴会になってしまったが、その日の酒は最高に旨かったと言っておこう。
その後、カイルも追放され、商会も傾いたと小耳に挟んだが、まったく興味は湧かなかった。
こうして俺は過去と決別し、今と未来のことだけを考えることにした。
俺が答えた瞬間、とぼとぼとギルドを去ろうとしていたカイルがすごい勢いで振り返った。
「ベヒーモスだと!?」
「おわ、何だ!?」
いきなりカイルに突進されて驚いてしまった。
「ようやく依頼達成ということだな。さあ、早くベヒーモスを出せ」
「は? 何言ってんの、おまえ」
目が点になってしまう。
「何って、俺はベヒーモスの素材の採取の依頼を出したんだ。それを達成したということなんだろう。だからそれを出せと言ってるんだ。早くしろ」
「はあぁーーっ」
多分これ以上深いため息はついたことがない、というレベルのため息をついたら、肺が空っぽになった。
「…おまえ、マジで頭沸いてんだろ」
「な、何だと!?」
「おまえの依頼を受けたわけじゃねえんだよ。おまえのクソ依頼は掲示板の一番下で塩漬けになってんだろうが」
「し、塩漬けだと」
「あたりめえだ。誰があんなクソ報酬で命懸けなんかすると思ってんだ。てめえは冒険者をバカにしてんだよ。面ぁ洗って出直してきやがれ!」
そう言い切ると、周りから拍手が湧いた。ちょっと照れくさかったが、言いたいことは言い切ったので、気分は良かった。
「そ、それならギルドから買う。それなら問題ないだろう」
「…いくらで買う気だ?」
「依頼につけた報酬額だ」
「はあーっ」
深いため息をつく。こいつ、ホントにわかってねえな。
「フィーナ、現品確認と見積もり頼む」
成り行きを見守っていたフィーナに声をかける。
「わかりました。解体所の方にお越しください」
頷いて、カイルに目を向ける。
「ついて来い。相場ってもんを教えてやる」
解体所に移動する。カイルだけじゃなく、居合わせた連中もニヤニヤしながらついてきたが、まあいいだろう。赤っ恥ってのは、かくなら派手にかいた方がいい。でなけりゃ教訓にもできないからな。
「それじゃあ、ここに出してください」
「はいよ」
指定された台の上にベヒーモスを出す。
「「「「おおーっ!!!!」」」」
感嘆の声が上がる。
まあ、今回は自分で言うのもなんだが、かなりの大物だ。体長十五メートルクラスはなかなかないぞ。
「どうだ?」
「そうね。相変わらず綺麗に倒すわね」
「まあ、それくらいしか取り柄がないからな」
「またご謙遜をーーって、まあこれだけ大きくて綺麗なら5000万Gは固いんじやないかしら」
その言葉を聞いて、カイルの顔色は真っ青になった。バカが依頼で出した金額は、桁が二つ違ったのだ。
「…そんなバカな……」
膝から崩れ落ちたカイルにとどめを刺す。
「これまでは俺が仕留めてきた素材を使っていたから好き勝手できたんだってこと、理解できたか?」
「……」
「俺はこれからこの剣で生きていく。家にいた時よりもいい生活ができるだろうな。誰かさんに不当な横槍を入れられることもないからな」
「に、兄さんーー」
「やめろや、今更」
出せる限りの冷たい声。
「俺を切り捨てたのはおまえらの方だろ。俺は戻るつもりはないし、おまえらの田のみを聞くつもりもないーーもっとも、正当な報酬の依頼なら考えるかもしれんがな」
そんなことないだろうなと思いながら言っている時点で俺も性格が悪いなと思わないでもない。でも、それくらい言ってやらなければ、気が済まなかったのだ。追放の件だけでなく、冒険者を小馬鹿にするような依頼にも頭に来ていたので。
周りも満足そうにしているので、この辺まではオーケーということにしてもらおう。
「わかったらとっとと消えろ!」
少し声を大きくしたら、カイルはかなり憔悴した様子でとぼとぼとギルドを後にした。
「あー、スッキリした!」
声をあげたのは俺じゃない。周りで見ていた冒険者の誰かだ。
「ホントだぜ。ジェフさん、よく言ってくれた。一杯奢るぜ」
何故か宴会になってしまったが、その日の酒は最高に旨かったと言っておこう。
その後、カイルも追放され、商会も傾いたと小耳に挟んだが、まったく興味は湧かなかった。
こうして俺は過去と決別し、今と未来のことだけを考えることにした。
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