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5 世間知らずのお坊っちゃま 1

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「最近素材の入手が滞っているようだが、どうなっているんだ?」

    商会主である父親に問われて、カイルは額に嫌な汗を滲ませた。

    兄であり、素材調達のエキスパートであったジェフが家を去ってから、商会の売れ筋商品である魔物の素材の入荷が激減していたのである。

    もちろんカイルもただ手をこまねいていたわけではない。冒険者ギルドに依頼を出し、素材の確保に努めていたのだ。

    しかし、カイルの依頼は冒険者たちから見向きもされなかった。

    なぜか?

    理由は至極単純だった。

    報酬が安すぎたのだ。

    カイルは報酬をこれまでの売価を元に設定した。儲けを出さなければいけない中で、売値が決まっていれば、後は企業努力で経費削減に努めるしかない。

    カイルがひとつ見落としたのは、これまで素材を入手するのにほとんど経費がかかっていなかった、という点である。

    ジェフはギルドを通すことなく魔物を狩っていたので、そこに費用は発生していなかったのだ。

    そのことを理解していなかったカイルは、苦境に陥っていた。

「…本日冒険者ギルドより依頼をしてあった素材が入荷しますので、ご安心ください」

    そんな予定はなかったのだが、そうでも言わないと収まらないと思い、カイルはとっさに嘘をついてしまった。

「それならいいが、納期が遅れているのは事実だ。これ以上の失態は許さぬぞ」

「はい」

    叱責を受けたことがなかったカイルは、屈辱に震えながら頷いた。



    カイルは冒険者ギルドを訪れた。自分の出した依頼の進捗を確認するためである。

「冒険者ギルドへようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「グラマー商会の者だが、依頼の進捗を確認したい」

「あーー」

    明るかった受付嬢の表情が微かに強張った。受付嬢であれば、依頼の進捗はある程度把握しているものである。当然その中には受注されない、所謂塩漬け依頼も含まれているわけでーー

「まだ受注してくれる冒険者がいません」

「何だと!」

    カイルは激昂して声を荒げた。そのまま受付嬢に掴みかからんばかりの勢いで受付カウンターに身を乗り出す。

「ひっ!?」

    受付嬢が悲鳴をあげ、偶々後ろにいたベテラン冒険がそれに反応してカイルの肩を掴んだ。

「何をする!?」

「そりゃあこっちの台詞だ。俺たちのお嬢に何するつもりだ?」

    言いながらベテランの男はギリギリと肩を掴む手に力を込めていく。

「ぐぅっ」

    たまりかねたカイルが苦鳴をあげる。

「お嬢に手を出さねえか?」

    声も出せないカイルは必死に何度も頷いた。

    それを確認して、男は手を放した。

「何故誰も私の依頼を受けないんだ。そんなに難しい依頼でもないのに」

「「「「は?」」」」

    居合わせた冒険者たちが揃って口をポカンと開けた。

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