5 / 8
5 世間知らずのお坊っちゃま 1
しおりを挟む
「最近素材の入手が滞っているようだが、どうなっているんだ?」
商会主である父親に問われて、カイルは額に嫌な汗を滲ませた。
兄であり、素材調達のエキスパートであったジェフが家を去ってから、商会の売れ筋商品である魔物の素材の入荷が激減していたのである。
もちろんカイルもただ手をこまねいていたわけではない。冒険者ギルドに依頼を出し、素材の確保に努めていたのだ。
しかし、カイルの依頼は冒険者たちから見向きもされなかった。
なぜか?
理由は至極単純だった。
報酬が安すぎたのだ。
カイルは報酬をこれまでの売価を元に設定した。儲けを出さなければいけない中で、売値が決まっていれば、後は企業努力で経費削減に努めるしかない。
カイルがひとつ見落としたのは、これまで素材を入手するのにほとんど経費がかかっていなかった、という点である。
ジェフはギルドを通すことなく魔物を狩っていたので、そこに費用は発生していなかったのだ。
そのことを理解していなかったカイルは、苦境に陥っていた。
「…本日冒険者ギルドより依頼をしてあった素材が入荷しますので、ご安心ください」
そんな予定はなかったのだが、そうでも言わないと収まらないと思い、カイルはとっさに嘘をついてしまった。
「それならいいが、納期が遅れているのは事実だ。これ以上の失態は許さぬぞ」
「はい」
叱責を受けたことがなかったカイルは、屈辱に震えながら頷いた。
カイルは冒険者ギルドを訪れた。自分の出した依頼の進捗を確認するためである。
「冒険者ギルドへようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「グラマー商会の者だが、依頼の進捗を確認したい」
「あーー」
明るかった受付嬢の表情が微かに強張った。受付嬢であれば、依頼の進捗はある程度把握しているものである。当然その中には受注されない、所謂塩漬け依頼も含まれているわけでーー
「まだ受注してくれる冒険者がいません」
「何だと!」
カイルは激昂して声を荒げた。そのまま受付嬢に掴みかからんばかりの勢いで受付カウンターに身を乗り出す。
「ひっ!?」
受付嬢が悲鳴をあげ、偶々後ろにいたベテラン冒険がそれに反応してカイルの肩を掴んだ。
「何をする!?」
「そりゃあこっちの台詞だ。俺たちのお嬢に何するつもりだ?」
言いながらベテランの男はギリギリと肩を掴む手に力を込めていく。
「ぐぅっ」
たまりかねたカイルが苦鳴をあげる。
「お嬢に手を出さねえか?」
声も出せないカイルは必死に何度も頷いた。
それを確認して、男は手を放した。
「何故誰も私の依頼を受けないんだ。そんなに難しい依頼でもないのに」
「「「「は?」」」」
居合わせた冒険者たちが揃って口をポカンと開けた。
商会主である父親に問われて、カイルは額に嫌な汗を滲ませた。
兄であり、素材調達のエキスパートであったジェフが家を去ってから、商会の売れ筋商品である魔物の素材の入荷が激減していたのである。
もちろんカイルもただ手をこまねいていたわけではない。冒険者ギルドに依頼を出し、素材の確保に努めていたのだ。
しかし、カイルの依頼は冒険者たちから見向きもされなかった。
なぜか?
理由は至極単純だった。
報酬が安すぎたのだ。
カイルは報酬をこれまでの売価を元に設定した。儲けを出さなければいけない中で、売値が決まっていれば、後は企業努力で経費削減に努めるしかない。
カイルがひとつ見落としたのは、これまで素材を入手するのにほとんど経費がかかっていなかった、という点である。
ジェフはギルドを通すことなく魔物を狩っていたので、そこに費用は発生していなかったのだ。
そのことを理解していなかったカイルは、苦境に陥っていた。
「…本日冒険者ギルドより依頼をしてあった素材が入荷しますので、ご安心ください」
そんな予定はなかったのだが、そうでも言わないと収まらないと思い、カイルはとっさに嘘をついてしまった。
「それならいいが、納期が遅れているのは事実だ。これ以上の失態は許さぬぞ」
「はい」
叱責を受けたことがなかったカイルは、屈辱に震えながら頷いた。
カイルは冒険者ギルドを訪れた。自分の出した依頼の進捗を確認するためである。
「冒険者ギルドへようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「グラマー商会の者だが、依頼の進捗を確認したい」
「あーー」
明るかった受付嬢の表情が微かに強張った。受付嬢であれば、依頼の進捗はある程度把握しているものである。当然その中には受注されない、所謂塩漬け依頼も含まれているわけでーー
「まだ受注してくれる冒険者がいません」
「何だと!」
カイルは激昂して声を荒げた。そのまま受付嬢に掴みかからんばかりの勢いで受付カウンターに身を乗り出す。
「ひっ!?」
受付嬢が悲鳴をあげ、偶々後ろにいたベテラン冒険がそれに反応してカイルの肩を掴んだ。
「何をする!?」
「そりゃあこっちの台詞だ。俺たちのお嬢に何するつもりだ?」
言いながらベテランの男はギリギリと肩を掴む手に力を込めていく。
「ぐぅっ」
たまりかねたカイルが苦鳴をあげる。
「お嬢に手を出さねえか?」
声も出せないカイルは必死に何度も頷いた。
それを確認して、男は手を放した。
「何故誰も私の依頼を受けないんだ。そんなに難しい依頼でもないのに」
「「「「は?」」」」
居合わせた冒険者たちが揃って口をポカンと開けた。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
婚約破棄寸前の悪役令嬢に転生したはずなのに!?
もふきゅな
恋愛
現代日本の普通一般人だった主人公は、突然異世界の豪華なベッドで目を覚ます。鏡に映るのは見たこともない美しい少女、アリシア・フォン・ルーベンス。悪役令嬢として知られるアリシアは、王子レオンハルトとの婚約破棄寸前にあるという。彼女は、王子の恋人に嫌がらせをしたとされていた。
王子との初対面で冷たく婚約破棄を告げられるが、美咲はアリシアとして無実を訴える。彼女の誠実な態度に次第に心を開くレオンハルト
悪役令嬢としてのレッテルを払拭し、彼と共に幸せな日々を歩もうと試みるアリシア。
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる