上 下
27 / 44

27 唐揚げ食いたい

しおりを挟む
「ああ、唐揚げ食いてえなあ」

 一度そう思ってしまうと、もうダメだ。頭の中が唐揚げ一色になってしまった。

「ーーというわけで、一狩り行ってくるわ」

「…何がというわけなのか、さっぱりわからないんだけど……」

「いや、作りたい料理があるんだけどさ、手持ちの食材だとどうもしっくりこないんだよ」

 そう。こっちの世界には食用に適した鶏肉がないのだ。色々試してみたのだが、鶏の唐揚げに比肩する食材には巡りあっていない。

「何を狩るつもりなの?」

「ワイバーン?」

「ワイバーン!?」

 リイナちゃんが素っ頓狂な声をあげた。

「何言ってるの!?   死ぬ気!?」

「ああ、それについては大丈夫。ゲンさん、ソロでドラゴン狩れる人だから」

「え!?」

 化物を見る目で見られた。

「…そんな人、本当にいるんですか……?」

「それがここにいるのよ」

 カレンさんが微苦笑する。

「初めてゲンさんに会った時って、わたしドラゴンに食われそうになってたのよ。その絶対絶命のところをゲンさんに助けてもらったの」

「そんなことがあったんですか」

「そうなのよ。だから、危険かどうかって話になれば全然心配しないのよね」

 苦笑するカレンさん。

「まあ、そういうわけだから、ちょっくら行ってくるわ」



 狩りは順調に進み、三日後の夕方には十分な猟果を挙げて店に戻って来ることができた。

「おかえりなさい。どうでした?」

「いっぱい狩れたぞ。運良く群れに遭遇できてな」

「運良く、ね……」

 カレンさんの顔がひきつる。

 言いたいことはわかる。普通ならワイバーンの群れに遭遇するってのは災厄以外の何物でもないはずだ。

 でもまあ、そこはそれ。オークなどよりは手強かったが、特に問題はなかった。

「じゃあ早速やろうか」

 狩った段階で血抜きをして、捌いて、できるものは下拵えまでした後で保存したので、すぐに調理に取りかかれる。

 まずは低温の油でじっくり揚げる。

 一旦肉をあげ、休ませる。

 その間に油の温度を上げる。

 高温の油に肉を戻し、約一分。

 表面カリッ、中身はジュワッ、の美味なる唐揚げの出来上がりだ。

 余談だが、この二度揚げの技法を確立した人は天才だと思う。何でこんなこと思いついたのか、いっぺん脳の中身を見てみたいものだ。

 見知らぬ先人に感謝の念を送ったところで、待ちきれなくなった三人から催促が飛んできた。

「すっごくいい匂いがしてくるんですけど」

「お腹すいたー」

「これ以上焦らされたら、わたし、どうなるかわかりません」

 別に焦らしてるわけじゃないんだけどな。

 苦笑しながら山盛りの唐揚げをテーブルに運ぶ。

 期待と飢えが入り交じった視線が三対、唐揚げに突き刺さる。試しに皿を動かしてみたら、きれいにトレースしてきた。

 確かにこれ以上はヤバそうだ。

 テーブルの中央に皿を置き、それぞれの席に着く。

「いただきます」

 言い終わるかどうかのタイミングで手が動いた。

「あーー」

 熱いから気をつけろよ、と言いかけた言葉は最後まで続かなかった。

「「「熱っつ!?」」」

 …ったく、揃いも揃って……

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

妖精王オベロンの異世界生活

悠十
ファンタジー
 ある日、サラリーマンの佐々木良太は車に轢かれそうになっていたお婆さんを庇って死んでしまった。  それは、良太が勤める会社が世界初の仮想空間による体感型ゲームを世界に発表し、良太がGMキャラの一人に、所謂『中の人』選ばれた、そんな希望に満ち溢れた、ある日の事だった。  お婆さんを助けた事に後悔はないが、未練があった良太の魂を拾い上げたのは、良太が助けたお婆さんだった。  彼女は、異世界の女神様だったのだ。  女神様は良太に提案する。 「私の管理する世界に転生しませんか?」  そして、良太は女神様の管理する世界に『妖精王オベロン』として転生する事になった。  そこから始まる、妖精王オベロンの異世界生活。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜

MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった お詫びということで沢山の チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。 自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。

二人は互いに『王族』である事を隠している

駄作プロ
ファンタジー
プロットを作り直すので10月は更新をお休みします。 あらすじ 「「彼に(彼女に)自分の正体がバレるわけにはいかない!」」 エドガー・ランダークとミーナ・ディザスターはカラカラ公国に住む夫婦である。 しかし二人は互いに同じ秘密を持っていた。 それは二人とも、違う国の王子、王女の立場であり、二人とも国から逃げ出した者同士であるという事。 そして初デートの際、互いに「貴族や王族なんか大嫌い」と酔った勢いで互いに言ってしまった結果、その秘密は決してバレてはいけないモノへと変化してしまった。 だから二人は、相手にバレない様にするのだが、そんな二人の秘密を暴かせようとするかの様に二人の知り合いが一人、また一人……。 ミーナがいたラドライン王国の騎士団長であり、国の為なら何でもこなす忠誠心を持つと言われている女性、フリジアナことリアナ。 エドガーの弟であり、少し残念な美少年、アレクセイことアレク。 そして遂には二人の親も……。 そんな人々が次々訪れる中、果たして二人は秘密を隠し通し、庶民の夫婦生活?を送る事ができるのであろうか?

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

処理中です...