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10 ゴブリンの下拵えとオークカツ

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「問題はこいつだ」

 ゴブリンは肉付きがよくない。食べられそうな部分があまりないのだ。おまけに肉には臭みがある。

 他にもいい食材はあるので、ここは無理せずスルーしてしまってもよかったのだが、それだと何となく負けたような気分になるので、挑戦してみることにした。

「スジ肉って考えよう」

 オーク肉料理の試作をする傍ら、大鍋でゴブリンの肉をひたすら煮る。何度も水を替え、とことん煮る。

 予想通り、煮始めは悪臭が発生し、カレンさんの顔を盛大にしかめさせたが、水替えを繰り返すうちにそれも治まって来た。

「どれくらい煮込むんですか?」

 興味が出てきたらしいカレンさんが鍋を覗きこむ。

「様子見ながらだけど、今日一日は下茹でだな」

「そんなに!?」

「食べれるようになるのは早くて二日後、かな」

「ふわあー、大変なんですねえ……」

「想像通りのものができれば、美肌効果もあるはずだぞ」

「ホントですかっ!?」

 やっぱり食いついてくるよな。

「多分だぞ。絶対じゃないからな」

「大丈夫。ゲンさんのやることに間違いはないわ」

 すっかり信用されたみたいだ。傍目には餌付けしたように見えているのかもしれないが。

「じゃあ今日の食事は?」

「オークカツ」

「カツ?」

 カレンさんの目が期待に輝く。

「厚めに切ったオークの肉にパン粉の衣を着けて油で揚げたもの」

「よくわからないけど美味しそう」

 全面的に信頼されているということなのかな?

 すでに衣着けまでは終わっていたので、熱した油に肉を投入する。

 この時の油が爆ぜる音は、食欲をそそるという意味では間違いなく五本の指に入ると思う。

 そんな音は、カレンさんも虜にしたようで、顔を蕩けさせている。

 表裏しっかり揚げて、余計な油を切って、まな板の上に置く。

 揚げたてのカツに包丁を入れる音。俺はこの音も大好きだ。実際に包丁を入れたことのある人しか聞くことはないだろうが、是非聞いてもらいたい。この音を知らないのは不幸だ。

 ザクッ。

 揚げたては本当にこういう音がする。

 切り口から滲み出る脂が肉の上質さを保障し、期待を掻き立てる。

「ごくっ」

 カレンさんが生唾を呑み込んだ。

「このソースをかけて食べて」

 カツの皿とソースの瓶を渡す。

 キツネ色に揚がったカツは、見るからに旨そうだ。

「いただきます」

「熱いから気をつけてな」

 言いながら自分もがぶっといく。

 ザクッとした歯応えに続いて、適度な弾力の肉を噛みちぎると、肉のの味が口いっぱいに広がる。

 美味い!

「美味し~いっ」

 ほっぺたに手を当てたカレンさんは、心底幸せそうだ。

「ゲンさんの作るものって、何でこんなに美味しいの」

「材料がいいんだよ。こんなに上質な肉が簡単に手に入るなんて、この世界は天国か」

 料理屋をやるにあたって何が大変かと言えば、間違いなく仕入れだ。

 より良い材料をより安く。

 言葉にすれば簡単だが、これが非常に難しい。店が傾くのは、大抵仕入れが原因だ。仕入れをケチったせいで料理の質が落ちたとか、逆に材料に金をかけすぎて元が取れなくなったとか。

 その点、この世界は上質な材料が、自分で狩りさえすればただで手に入るのだ。そして俺にはドラゴンすら狩れるチートな力がある。

 まさにやりたい放題。夢のような環境だ。

「ゲンさん、たとえ材料だけあっても、それを料理できなければ無駄になるだけです。だから、すごいのはゲンさんだと思います」

「ありがと。レパートリーはまだたくさんあるから、楽しみにしててくれ」

「はい!」

 カレンさんの笑顔のために料理を作る。今はそれでいいかな。
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