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38 丼の普及

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 米を仕入れられるようになって、メニューの幅が大きく広がった。

 そう、丼の導入である。

 カツ丼。

 牛丼。

 親子丼。

 異論反論はあると思うが、俺が考える肉系丼のベスト3だ。

 この三つを異世界風にアレンジしたものをメニューに加えたところ、控えめに言ってばかうけした。

 最初は物珍しさからだったと思うのだが、すぐに贔屓の丼論争が起こるレベルにまで定着した。

 更にそこからリクエストにより派生系の丼も生まれてくる。

 カツ丼はソースカツ丼に。

 牛丼は豚丼(焼き含む)に。

 親子丼は他人丼に。

 といった具合だ。

「まったくけしからんな」

 そんなことを言いながらカツ丼をかっ食らっているのはアレックスさん。この先帝陛下、一度は王都に戻ったものの、一月もしないうちに舞い戻ってきた。しかも、王都を引き払って完全に引っ越して来たのだ。自由過ぎるのにも程があるだろ。

 ただ、その動機が「俺の料理を気に入ってくれた」ということなので、俺があれこれ言うのは筋が違くなる。

 アレックスさんだけじゃなく、レイアさんも楽しそうにしているので、野暮なツッコミはやめておこう。

「これは大変に素晴らしい料理ですね」

 カツ丼がちょっと重い、というレイアさんのお気に入りは親子丼だ。俺の記憶が確かなら昨日から五食連続で親子丼を食しているのではなかろうか。

「とっても美味しいわ。ああ、こんなに幸せでいいのかしら」

 いやいや、レイアさん、そこまで言ってもらえる俺の方が幸せ者ですよ。

 料理を作る手にも自然と力が入る。

 この二人に代表されるように、男性陣はカツ丼、女性陣は親子丼の支持率が高いようだ。

 ただ、それはあくまでも一般論で、もちろんそれが当てはまらない人もいる。

「ゲンさん、カツ丼ダブルダブルでお願いします」

「はいよ」

 肉ダブル、卵ダブルでダブルダブル。

 肉体労働者に人気のメニューだが、注文したのはアスカさんだ。

 曰く、「消費したのよりほんの少し多い」カロリーを摂取するのにちょうどいいんだそうだ。

 実はアスカさんもこの街に居を移していた。この街に米を持ち込んだことを功績とみなされ、アレックスさんご夫妻の衛士として抜擢されたのだ。

 主従というよりは年の離れた友人といった雰囲気を醸し出している関係は傍からは理想的に見える。

 アスカさんもイキイキして楽しそうだし、ウィンウィンの関係なんだろう。

 できあがったカツ丼を出すと、アスカさんは満面の笑みでかっこんでいく。見ていて気持ちのいい食いっぷりだ。

「こうやって毎日ゲンさんのご飯食べられるのってホントに幸せ」

「嬉しいことを言ってくれるじゃないかーーもう一丁いくか?」

「はい! そしたら牛丼特盛でお願いします!」

「メガ盛りもできるけど?」

「じゃあそれで!」

 即答が返ってきた。

 この人、絶対フードファイターだったんだろうな。

 薄々わかってはいたのだが恐らく間違いないだろう。

 まあ、それを追及するつもりはないけどな。俺が作ったものを美味しく食べてくれるならそれだけでいい。

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