2 / 12
2 勉強はしておいた方がいい
しおりを挟む
「何これ?」
「俺が訊きたい」
俺がそう言ったのはスキルの内容がわからないという意味だったのだが、二人にとっては違ったらしい。
「何だ、これ。模様?」
「字じゃないの?」
「こんな字見たことない」
「そうよね」
「え?」
二人のやり取りに、俺は首を傾げた。
見たことないって、単純なアルファベットだよな?
そこまで考えて、ひとつ思い当たる節があった。
そうか。もしかしてそういうことなのか?
もしそうなら、意外と捨てたもんじゃないのかもしれない。
期待が一気に膨らむ。
俺は期待を込めた目で神父様を見た。博識な神父様なら何か知っているのではないかと思ったのだ。
しかし、神父様も途方に暮れているようだ。
「神授の儀には数多く立ち合って来たが、こんなスキルは見たこともないーーというか、これは本当にスキルなのか?」
「……」
神父様にそんなことを言われてしまうと、膨らみかけた希望がしぼんでしまう。
もしかしてって期待したけど、マジで外れかよ……
期待はしないようにしていても、どこかで期待があったのは否めない。それを無惨に打ち砕かれて、強がることもできなかった。
「…ケイジ……」
ナディアが気遣わしげにしているのも、地味に心を削って来る。こういう時に同情されるのがこんなにも辛いとは知らなかった。
「まだ外れと決まったわけじゃない。私の方でも色々と調べてみるから、気を落とさないように」
神父様の優しい言葉も素直に受け取れない。
いたたまれなくなった俺は、逃げるようにその場を後にした。
結果を聞いた両親は慰めてくれたが、それすらも心には響かなかった。どうも俺は自分で思っていたよりも遥かにめんどくさい性格をしていたようだ。
しばらく一人にしてくれと言って自室に引きこもる。
諦めきれずにあれやこれやと可能性を探る。
Cなんてこの世界では使われていない文字が、それもたった一文字だけ出てきた理由……
そもそもアルファベットが使われていないということに気づいていなかった俺って……「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と怒られても仕方のないレベルの迂闊さだ。
まずはその辺から当たってみるってもんか。
実は俺には前世の記憶がある。前世の俺は日本人の大学生だった。事故で命を失い、今のこの世界に転生してきた。
幼少期はごくごく普通に育って来たが、五歳の時にふとしたきっかけで前世の記憶が甦ったのだ。
残念なことによくあるチートとは無縁だったが、五歳児に大学生の記憶があれば、そりゃあもう控え目に言っても神童扱いだ。特に言葉に関しては、この世界の言葉がひらがな、カタカナ、漢字が並立する日本語とまったく同じ体系だったため、漢字博士と称されることもあった。
ただ、俺の栄華が長続きすることはなかった。大学生とは言っても所謂Fラン大学の頭では、十歳を過ぎる頃にはかろうじて普通の人の範疇にひっかかるレベルまで落ちぶれてしまっていた。
そこで努力ができれば良かったのだが、自分を「やればデキる子」と甘やかした結果、前世と変わらぬスカタン野郎になってしまっていた。
俺はまだ本気出してないだけーーなんて言ってる場合じゃないよな。
一発逆転を夢見た神授の儀だったんだが、どうやら不発っぽいし、そうそう旨い話はないってことかな。
でも、アルファベットは気になる。そこを調べてみて、ダメだったら諦めよう。
そう割りきったら、少し気が軽くなり、気が軽くなると、さっき思いついた考えが再浮上してきた。
…もしかして、Cがつく単語?
ありそうな話に、一気に気分が高揚する。
使えるんじゃねえか、これ?
早速試してみることにする。
えーっと、Cがつく単語っと……ん? あれ……何があったっけ……あれ、どした……マジで出て来ないんだけど……
だんだん焦って来た。
C……C……えっと、何だっけ…あれだよ、あれ…あーっ、くそっ、ここまで出てきてるのに……
前世で勉強をサボりまくったツケがまさかこんなところで出てくるとは……それにしたって、単語一個も出て来ないなんて、俺、どんだけアホなんだよ……
泣きたいくらいの後悔に苛まれるが、もはや手後れ。時間は戻せない。
「はああああーーーーっ」
ため息は海の底より深かった。
「俺が訊きたい」
俺がそう言ったのはスキルの内容がわからないという意味だったのだが、二人にとっては違ったらしい。
「何だ、これ。模様?」
「字じゃないの?」
「こんな字見たことない」
「そうよね」
「え?」
二人のやり取りに、俺は首を傾げた。
見たことないって、単純なアルファベットだよな?
そこまで考えて、ひとつ思い当たる節があった。
そうか。もしかしてそういうことなのか?
もしそうなら、意外と捨てたもんじゃないのかもしれない。
期待が一気に膨らむ。
俺は期待を込めた目で神父様を見た。博識な神父様なら何か知っているのではないかと思ったのだ。
しかし、神父様も途方に暮れているようだ。
「神授の儀には数多く立ち合って来たが、こんなスキルは見たこともないーーというか、これは本当にスキルなのか?」
「……」
神父様にそんなことを言われてしまうと、膨らみかけた希望がしぼんでしまう。
もしかしてって期待したけど、マジで外れかよ……
期待はしないようにしていても、どこかで期待があったのは否めない。それを無惨に打ち砕かれて、強がることもできなかった。
「…ケイジ……」
ナディアが気遣わしげにしているのも、地味に心を削って来る。こういう時に同情されるのがこんなにも辛いとは知らなかった。
「まだ外れと決まったわけじゃない。私の方でも色々と調べてみるから、気を落とさないように」
神父様の優しい言葉も素直に受け取れない。
いたたまれなくなった俺は、逃げるようにその場を後にした。
結果を聞いた両親は慰めてくれたが、それすらも心には響かなかった。どうも俺は自分で思っていたよりも遥かにめんどくさい性格をしていたようだ。
しばらく一人にしてくれと言って自室に引きこもる。
諦めきれずにあれやこれやと可能性を探る。
Cなんてこの世界では使われていない文字が、それもたった一文字だけ出てきた理由……
そもそもアルファベットが使われていないということに気づいていなかった俺って……「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と怒られても仕方のないレベルの迂闊さだ。
まずはその辺から当たってみるってもんか。
実は俺には前世の記憶がある。前世の俺は日本人の大学生だった。事故で命を失い、今のこの世界に転生してきた。
幼少期はごくごく普通に育って来たが、五歳の時にふとしたきっかけで前世の記憶が甦ったのだ。
残念なことによくあるチートとは無縁だったが、五歳児に大学生の記憶があれば、そりゃあもう控え目に言っても神童扱いだ。特に言葉に関しては、この世界の言葉がひらがな、カタカナ、漢字が並立する日本語とまったく同じ体系だったため、漢字博士と称されることもあった。
ただ、俺の栄華が長続きすることはなかった。大学生とは言っても所謂Fラン大学の頭では、十歳を過ぎる頃にはかろうじて普通の人の範疇にひっかかるレベルまで落ちぶれてしまっていた。
そこで努力ができれば良かったのだが、自分を「やればデキる子」と甘やかした結果、前世と変わらぬスカタン野郎になってしまっていた。
俺はまだ本気出してないだけーーなんて言ってる場合じゃないよな。
一発逆転を夢見た神授の儀だったんだが、どうやら不発っぽいし、そうそう旨い話はないってことかな。
でも、アルファベットは気になる。そこを調べてみて、ダメだったら諦めよう。
そう割りきったら、少し気が軽くなり、気が軽くなると、さっき思いついた考えが再浮上してきた。
…もしかして、Cがつく単語?
ありそうな話に、一気に気分が高揚する。
使えるんじゃねえか、これ?
早速試してみることにする。
えーっと、Cがつく単語っと……ん? あれ……何があったっけ……あれ、どした……マジで出て来ないんだけど……
だんだん焦って来た。
C……C……えっと、何だっけ…あれだよ、あれ…あーっ、くそっ、ここまで出てきてるのに……
前世で勉強をサボりまくったツケがまさかこんなところで出てくるとは……それにしたって、単語一個も出て来ないなんて、俺、どんだけアホなんだよ……
泣きたいくらいの後悔に苛まれるが、もはや手後れ。時間は戻せない。
「はああああーーーーっ」
ため息は海の底より深かった。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる