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2 勉強はしておいた方がいい
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「何これ?」
「俺が訊きたい」
俺がそう言ったのはスキルの内容がわからないという意味だったのだが、二人にとっては違ったらしい。
「何だ、これ。模様?」
「字じゃないの?」
「こんな字見たことない」
「そうよね」
「え?」
二人のやり取りに、俺は首を傾げた。
見たことないって、単純なアルファベットだよな?
そこまで考えて、ひとつ思い当たる節があった。
そうか。もしかしてそういうことなのか?
もしそうなら、意外と捨てたもんじゃないのかもしれない。
期待が一気に膨らむ。
俺は期待を込めた目で神父様を見た。博識な神父様なら何か知っているのではないかと思ったのだ。
しかし、神父様も途方に暮れているようだ。
「神授の儀には数多く立ち合って来たが、こんなスキルは見たこともないーーというか、これは本当にスキルなのか?」
「……」
神父様にそんなことを言われてしまうと、膨らみかけた希望がしぼんでしまう。
もしかしてって期待したけど、マジで外れかよ……
期待はしないようにしていても、どこかで期待があったのは否めない。それを無惨に打ち砕かれて、強がることもできなかった。
「…ケイジ……」
ナディアが気遣わしげにしているのも、地味に心を削って来る。こういう時に同情されるのがこんなにも辛いとは知らなかった。
「まだ外れと決まったわけじゃない。私の方でも色々と調べてみるから、気を落とさないように」
神父様の優しい言葉も素直に受け取れない。
いたたまれなくなった俺は、逃げるようにその場を後にした。
結果を聞いた両親は慰めてくれたが、それすらも心には響かなかった。どうも俺は自分で思っていたよりも遥かにめんどくさい性格をしていたようだ。
しばらく一人にしてくれと言って自室に引きこもる。
諦めきれずにあれやこれやと可能性を探る。
Cなんてこの世界では使われていない文字が、それもたった一文字だけ出てきた理由……
そもそもアルファベットが使われていないということに気づいていなかった俺って……「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と怒られても仕方のないレベルの迂闊さだ。
まずはその辺から当たってみるってもんか。
実は俺には前世の記憶がある。前世の俺は日本人の大学生だった。事故で命を失い、今のこの世界に転生してきた。
幼少期はごくごく普通に育って来たが、五歳の時にふとしたきっかけで前世の記憶が甦ったのだ。
残念なことによくあるチートとは無縁だったが、五歳児に大学生の記憶があれば、そりゃあもう控え目に言っても神童扱いだ。特に言葉に関しては、この世界の言葉がひらがな、カタカナ、漢字が並立する日本語とまったく同じ体系だったため、漢字博士と称されることもあった。
ただ、俺の栄華が長続きすることはなかった。大学生とは言っても所謂Fラン大学の頭では、十歳を過ぎる頃にはかろうじて普通の人の範疇にひっかかるレベルまで落ちぶれてしまっていた。
そこで努力ができれば良かったのだが、自分を「やればデキる子」と甘やかした結果、前世と変わらぬスカタン野郎になってしまっていた。
俺はまだ本気出してないだけーーなんて言ってる場合じゃないよな。
一発逆転を夢見た神授の儀だったんだが、どうやら不発っぽいし、そうそう旨い話はないってことかな。
でも、アルファベットは気になる。そこを調べてみて、ダメだったら諦めよう。
そう割りきったら、少し気が軽くなり、気が軽くなると、さっき思いついた考えが再浮上してきた。
…もしかして、Cがつく単語?
ありそうな話に、一気に気分が高揚する。
使えるんじゃねえか、これ?
早速試してみることにする。
えーっと、Cがつく単語っと……ん? あれ……何があったっけ……あれ、どした……マジで出て来ないんだけど……
だんだん焦って来た。
C……C……えっと、何だっけ…あれだよ、あれ…あーっ、くそっ、ここまで出てきてるのに……
前世で勉強をサボりまくったツケがまさかこんなところで出てくるとは……それにしたって、単語一個も出て来ないなんて、俺、どんだけアホなんだよ……
泣きたいくらいの後悔に苛まれるが、もはや手後れ。時間は戻せない。
「はああああーーーーっ」
ため息は海の底より深かった。
「俺が訊きたい」
俺がそう言ったのはスキルの内容がわからないという意味だったのだが、二人にとっては違ったらしい。
「何だ、これ。模様?」
「字じゃないの?」
「こんな字見たことない」
「そうよね」
「え?」
二人のやり取りに、俺は首を傾げた。
見たことないって、単純なアルファベットだよな?
そこまで考えて、ひとつ思い当たる節があった。
そうか。もしかしてそういうことなのか?
もしそうなら、意外と捨てたもんじゃないのかもしれない。
期待が一気に膨らむ。
俺は期待を込めた目で神父様を見た。博識な神父様なら何か知っているのではないかと思ったのだ。
しかし、神父様も途方に暮れているようだ。
「神授の儀には数多く立ち合って来たが、こんなスキルは見たこともないーーというか、これは本当にスキルなのか?」
「……」
神父様にそんなことを言われてしまうと、膨らみかけた希望がしぼんでしまう。
もしかしてって期待したけど、マジで外れかよ……
期待はしないようにしていても、どこかで期待があったのは否めない。それを無惨に打ち砕かれて、強がることもできなかった。
「…ケイジ……」
ナディアが気遣わしげにしているのも、地味に心を削って来る。こういう時に同情されるのがこんなにも辛いとは知らなかった。
「まだ外れと決まったわけじゃない。私の方でも色々と調べてみるから、気を落とさないように」
神父様の優しい言葉も素直に受け取れない。
いたたまれなくなった俺は、逃げるようにその場を後にした。
結果を聞いた両親は慰めてくれたが、それすらも心には響かなかった。どうも俺は自分で思っていたよりも遥かにめんどくさい性格をしていたようだ。
しばらく一人にしてくれと言って自室に引きこもる。
諦めきれずにあれやこれやと可能性を探る。
Cなんてこの世界では使われていない文字が、それもたった一文字だけ出てきた理由……
そもそもアルファベットが使われていないということに気づいていなかった俺って……「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と怒られても仕方のないレベルの迂闊さだ。
まずはその辺から当たってみるってもんか。
実は俺には前世の記憶がある。前世の俺は日本人の大学生だった。事故で命を失い、今のこの世界に転生してきた。
幼少期はごくごく普通に育って来たが、五歳の時にふとしたきっかけで前世の記憶が甦ったのだ。
残念なことによくあるチートとは無縁だったが、五歳児に大学生の記憶があれば、そりゃあもう控え目に言っても神童扱いだ。特に言葉に関しては、この世界の言葉がひらがな、カタカナ、漢字が並立する日本語とまったく同じ体系だったため、漢字博士と称されることもあった。
ただ、俺の栄華が長続きすることはなかった。大学生とは言っても所謂Fラン大学の頭では、十歳を過ぎる頃にはかろうじて普通の人の範疇にひっかかるレベルまで落ちぶれてしまっていた。
そこで努力ができれば良かったのだが、自分を「やればデキる子」と甘やかした結果、前世と変わらぬスカタン野郎になってしまっていた。
俺はまだ本気出してないだけーーなんて言ってる場合じゃないよな。
一発逆転を夢見た神授の儀だったんだが、どうやら不発っぽいし、そうそう旨い話はないってことかな。
でも、アルファベットは気になる。そこを調べてみて、ダメだったら諦めよう。
そう割りきったら、少し気が軽くなり、気が軽くなると、さっき思いついた考えが再浮上してきた。
…もしかして、Cがつく単語?
ありそうな話に、一気に気分が高揚する。
使えるんじゃねえか、これ?
早速試してみることにする。
えーっと、Cがつく単語っと……ん? あれ……何があったっけ……あれ、どした……マジで出て来ないんだけど……
だんだん焦って来た。
C……C……えっと、何だっけ…あれだよ、あれ…あーっ、くそっ、ここまで出てきてるのに……
前世で勉強をサボりまくったツケがまさかこんなところで出てくるとは……それにしたって、単語一個も出て来ないなんて、俺、どんだけアホなんだよ……
泣きたいくらいの後悔に苛まれるが、もはや手後れ。時間は戻せない。
「はああああーーーーっ」
ため息は海の底より深かった。
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