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8 由貴ちゃんと
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「光貴、俺、ここを出てくよ」
「待て、早まるな」
生来の人の良さから光貴は止めようとしてくれたが、俺は首を振った。
「今のでわかったろ。俺が残ってたら、遅かれ早かれ破綻は避けられない。工藤は俺を目の敵にして、何かあった時の捌け口にするだろう。そんなもんを見せられて周りにいい影響があるはずない。未来に修復の可能性を残すためにも、俺は出ていくよ」
「……」
光貴は唇を噛んだ。しょうがねえよ。おまえは一ミリも悪くねえ。むしろ庇ってくれてサンキューな。
それから俺はカミーユ姫に向き直った。
「せっかく喚んでいただいたんですが、俺はお役に立てそうにありません。それどころか、仲間たちの間に軋轢を生んで、余計な火種になりかねません。ここを出ていく許可をいただきたいのですが」
「私たちが無理に喚んだんだし、ちゃんと最後まで面倒みますよ?」
ありがたい言葉だけど、表面しか見えてないよな。既にそういう問題じゃなくなってるんだ。
「仲間の足を引っ張りたくないんです。俺が原因でチームワークが乱れるのは、そちらにとっても好ましくないですよね」
「…そうですか。わかりました。それでは当面の生活費等をご用意させていただきます」
それはありがたい。こっちから頼むつもりでいたが、向こうから申し出てくれるとは。やっぱり悪い人ではないようだ。
ふと袖を引っ張られた。
由貴ちゃんが上目遣いで俺を見ている。言葉にされなくても、言いたいことはわかった。
「ーー一緒に行く?」
訊くと、小さく、だがきっぱりと頷いた。
だが、正直迷った。俺が由貴ちゃんを守れるのか、そこに自信が持てなかったのだ。
「そうした方がいいと思うよ」
そう言ってきたのは松山さやかーー賢者だった。
「工藤のヤツ、完全に調子に乗ってるからね。本当に由貴ちゃんに手を出しかねないわ。他にも嫌らしい目してるのが何人かいるし」
やっぱそうか。
「じゃあ由貴ちゃん、一緒に行こう」
「ぎゃははははっ、負け犬が二匹とも出ていくんか。厄介払いができてせいせいするぜ」
「なんてヤツ」
馬鹿笑いする工藤を、他のやつらが引っ張って行く。出きるなら、あいつとは二度と顔を会わせたくないな。
「いつか必ず合流できるようにする。それまで何とか頑張ってくれ」
光貴と拳を合わせる。
「どちらかと言えばそっちの方が大変だろうけどなーー死ぬなよ」
「勇者だぜ。そう簡単には死なねえよ」
「そうだったな」
「五味くん、由貴ちゃんのこと、ちゃんと守ってあげてね」
「命を賭けて」
「い、命まで賭けなくていいよぉ」
「いや、賭ける」
「もう……」
恥ずかしそうだけど嬉しそう。その表情は眼福だった。
「待て、早まるな」
生来の人の良さから光貴は止めようとしてくれたが、俺は首を振った。
「今のでわかったろ。俺が残ってたら、遅かれ早かれ破綻は避けられない。工藤は俺を目の敵にして、何かあった時の捌け口にするだろう。そんなもんを見せられて周りにいい影響があるはずない。未来に修復の可能性を残すためにも、俺は出ていくよ」
「……」
光貴は唇を噛んだ。しょうがねえよ。おまえは一ミリも悪くねえ。むしろ庇ってくれてサンキューな。
それから俺はカミーユ姫に向き直った。
「せっかく喚んでいただいたんですが、俺はお役に立てそうにありません。それどころか、仲間たちの間に軋轢を生んで、余計な火種になりかねません。ここを出ていく許可をいただきたいのですが」
「私たちが無理に喚んだんだし、ちゃんと最後まで面倒みますよ?」
ありがたい言葉だけど、表面しか見えてないよな。既にそういう問題じゃなくなってるんだ。
「仲間の足を引っ張りたくないんです。俺が原因でチームワークが乱れるのは、そちらにとっても好ましくないですよね」
「…そうですか。わかりました。それでは当面の生活費等をご用意させていただきます」
それはありがたい。こっちから頼むつもりでいたが、向こうから申し出てくれるとは。やっぱり悪い人ではないようだ。
ふと袖を引っ張られた。
由貴ちゃんが上目遣いで俺を見ている。言葉にされなくても、言いたいことはわかった。
「ーー一緒に行く?」
訊くと、小さく、だがきっぱりと頷いた。
だが、正直迷った。俺が由貴ちゃんを守れるのか、そこに自信が持てなかったのだ。
「そうした方がいいと思うよ」
そう言ってきたのは松山さやかーー賢者だった。
「工藤のヤツ、完全に調子に乗ってるからね。本当に由貴ちゃんに手を出しかねないわ。他にも嫌らしい目してるのが何人かいるし」
やっぱそうか。
「じゃあ由貴ちゃん、一緒に行こう」
「ぎゃははははっ、負け犬が二匹とも出ていくんか。厄介払いができてせいせいするぜ」
「なんてヤツ」
馬鹿笑いする工藤を、他のやつらが引っ張って行く。出きるなら、あいつとは二度と顔を会わせたくないな。
「いつか必ず合流できるようにする。それまで何とか頑張ってくれ」
光貴と拳を合わせる。
「どちらかと言えばそっちの方が大変だろうけどなーー死ぬなよ」
「勇者だぜ。そう簡単には死なねえよ」
「そうだったな」
「五味くん、由貴ちゃんのこと、ちゃんと守ってあげてね」
「命を賭けて」
「い、命まで賭けなくていいよぉ」
「いや、賭ける」
「もう……」
恥ずかしそうだけど嬉しそう。その表情は眼福だった。
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