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プロローグ

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 アンコールまで歌い終えて、森島あゆみは大きく息をついた。

 いつもなら心地よい疲れに包まれつつステージを下りるのだが、今日はもうひとつだけやらなければいけないことがある。

 あゆみは改めてマイクを握り直した。

「みんな、ありがとうーー今日は大事な報告があります」

 コンサート会場が静寂に包まれる。あゆみのファンならば、この後に続く言葉には心当たりがあったのだ。

「昨日、借金を返し終えました」

 その言葉に会場に集ったファンたちが悲鳴をあげた。

「当初の予定よりも大分早く返し終えることができたのは、今日ここに集まって来てくれたみんなをはじめとするファンの人たちのおかげですーー本当にありがとうございました!!」

「あゆみちゃーん、やめないでくれーっ!!」

 魂の叫びが響く。

 あゆみは一瞬だけ寂しそうな表情を見せたが、すぐに凛と眦を決した。

「ごめんね。あたし、もう次の道を決めてあるのーーって言うか、元々そっちが本道なんだ。今度はそっちを応援してくれると嬉しいかな」

「応援するよーっ!」

「何するのーっ?」

「よくぞ訊いてくれました」

 あゆみはみんなを魅了し続けてきた極上の笑顔を見せた。

「あたしは、ハンドボールで世界を目指します!」

 威勢のいい宣言だったが、反応はあゆみが期待していたほど芳しいものではなかった。



 ハンドボール?



 ほぼ全員の頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいるようだ。

「やっぱりこうなんだよね。あたし、ハンドボールが大好きなの。何が何でもメジャーにしてみせるから」

 あゆみはきっぱり言いきった。

「わかったーっ、絶対応援行くから、試合とかある時は教えてーっ!」

 一人が口火を切ると、後に続く者が続出した。

「あゆみちゃーん、頑張って!」

「オリンピック行ってねーっ!」

「みんな、ありがとうーーじゃあ、あたしの、歌手としての最後の歌、聞いてください」

 あゆみは自身のデビュー曲を、万感の想いを込めて歌い上げ、アイドル活動に幕を下ろした。

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