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私、ご主人様の直属メイドになりました(全10話)

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だんだん暖かくなってくると、双葉の成長はどんどん早くなっていった。
葉っぱが三枚、五枚と増えていき、背も高くなってきた。その成長を毎日ご主人様に報告した。
あの時の「よかったな」以降、特にご主人様のリアクションは無かったが、私が毎日話すことに慣れてきたせいか、あまりご主人様の前で話すことが怖くなくなってきた。



「……おい」
「なんでございましようか?」

今日は話し終わったおと、ご主人様が急に口を開いた。あれ、いつもと変わらなかったと思うけど……何かまずかった?

「笑え」
「……はい?」

え、何、急に。私が笑ってないのは最初からでしょ?
急に笑えと言われても……。

「早く」
「はい……こうですか?」

口角を上げ……上がってるかな?
わぁ、ひきつる。そもそも笑うって難しくない?えぇ?

「……何も変わってない。もういい」
「……申し訳ございません」

なにこれ。



『笑え』

なんでこんなことを言ったのか、俺にも理解ができなかった。
あいつはあのメイドのように媚を売ろうとしない。
だから、あのメイドのように笑わない。
一切表情を変えずに黙々と仕事をする。
そして何も面白くない庭仕事の話をする。

俺は面白いと思わないのに毎日そいつに同じことを言うのだ。
こいつの表情を変えてみたい、そう思ったのかもしれない。
俺が「笑え」と命令したのに笑わない。
「こうですか?」といいつつ何も変わらない顔面。
こいつ……笑い方知らないのか?そう思えるほどに何も変わらない。
首を絞められても何も抵抗しない、だが生に執着するおかしな笑わないメイド。

どうしたらこいつは表情を変えるのか。

しばらくは遊べそうだ。
それからというものの、さまざまな手段を用いて笑わないメイドを笑わせようとするが、全戦全敗。あいつ笑うどころか表情すら変えない。喜怒哀楽を感じさせない冷徹な……無機物を見るような、真っ赤な瞳が俺をただ見つめるだけ。
あぁ……くやしい。

ある日。

……なぜ俺はおかしなメイドが庭仕事をしている間、厨房にきているのか?
俺の姿を見た料理人たちが一様に驚きの表情をし、すぐさま俺に頭を下げた。

「……ご主人様、どうなさいましたか?」

コックコートを着たネズミが俺に尋ねる。

「あいつ───リーシュは笑うのか?」

ネズミは唐突の、さらに意味不明の俺の質問に一瞬呆気にとられた。
そして慌てて答える。

「はい。よく笑います……素敵な笑顔で」

え?笑うの?
俺の前では一ミリも表情を変えないのに?
なるべく驚きを表情に出さないように咳払いをした。

「……そうか。今のことは決して口外するなよ……いいな?」

そう言ってネズミと、奥にいてこちらをうかがう二人の料理人に告げる。我ながら何故口封じをするのか……あぁ、あいつに知られたらカッコ悪いからか。
……だからなんだというのだ。たかがメイド相手だろ?

「……承知しました」

ネズミは恭しく頭を下げた。

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