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私、ご主人様の直属メイドになりました(全10話)

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数日ぶりのお庭。毎日の暖かい気候で、早くもちょこちょこ雑草が生えていている。
……いや、二時間しかないんだ。やることは優先順位の高いものから。
まず種まき。花壇の雑草だけをむしり種をまく。
あぁ、楽しみ。最高。

それから裏から水を汲んできて花壇に十分に水を染み込ませる。よし。

そして見えるところで雑草が出ているところを時間まではむしろう。

思い返してみると、突飛な出来事だ。

ついこの間まで周囲の人なら誰でも私を蔑んで、嫌がらせをした。
冷たく粗悪で食事とは言えないような生ゴミ同然のものに、お風呂も綺麗な飲み水も満足に与えられない底辺の衛生環境。
体に巻く衣服も擦りきれて、ほとんど役目を果たしていなかった。

それが一瞬で消え去ったのだ。

温かく美味しい食事にお風呂、植物に与えられる程潤沢に溢れた綺麗な水。
肌触りの良いメイド服に、歩いても足の裏が痛くならないピカピカの靴。
アナベルとは安心して話せるし、レイランさんも、ロストさんも、みんな優しい。
……あ、みんなは言い過ぎたかもしれない。でも、カーリーの嫌がらせなんて全く苦でない。
……なんて、恵まれているんだ。
胸が温かくなる感覚を覚えた。

……でも、アナベルは受け入れてくれたけれど、みんなは私が人間だと知ったら何と言うのだろうか。
私が人間だと知る人たちは口を揃えて人間であることは隠さなければならないと言う。それがこの世界の人間の立ち位置を物語っている。……まぁ私もそう思うけど。
ご主人様を怒らせないように過ごせばここは良いところだ。
とはいえこのお屋敷でいちばんご主人様といなくてはならない立場になってしまったわけだが。
……とにかく、当面は生きるという目標に忠実に生きていきたい。

「……?」

お屋敷から見覚えの無い熊のような人がでてきた。歩幅が大きく、ガラが悪そう。そして明かに不機嫌な顔。
誰だろう。お客様かな?……入ってくるとき、私が花壇に夢中で気づかなかったのだろう。

「……あぁ、もう戻らなきゃ」

時計を確認すると、ちょうどいい時間。
我ながら最近時間の感覚が鋭くなった。
手についた土を落としてご主人様のアフタヌーンティーの準備をしなければ。
残りの草は次回抜けばいいか。これから毎日花壇に水やりをしなければ。
よし。
そして早足で屋敷に戻った。
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