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私、ご主人様の直属メイドになりました(全10話)

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「アフタヌーンティーまでには戻って参ります」
「あぁ」

昼食の食器を下げて、無表情のまま、あいつは出ていった。

───パタ。

大きな扉なのにあいつが閉めるとあまり音がしない。
あいつは物を何でも丁重に扱うのだ。
最近あいつと過ごして……いや、側に置いて分かったことがある。
あいつは笑わない。まぁ、当たり前か。
本当に、にこりともしないから逆に心配な位だ。
だが、へらへらして俺に媚びへつらうメイドよりはずっとマシだ。

今まで専属のメイドなんて制度は無かったので、急に一日中そばで俺の仕事を見守る存在が現れた。ものすごい違和感。
これからは午後少しでもその監視から逃れたい一心だった。

今日も大量の仕事。今この時期だけだといっても疲れるものは疲れる。
俺の仕事はこの領地の領事としての事務や、事業の管理。
毎年この時期は事業を始めることや新しく何かを建設することも多く、その管理を任されている。その事業が今後の発展に必要なものなのかどうかを判断し、事業の規模によって割り当てる金額を設定するのだ。
だから、俺のデスクは事業の説明が書かれた文書とその許可証で溢れている。
早く時間が過ぎればいいのに。早くこの地獄が終わればいいのに。疲れた。

あいつが帰ってきたらアフタヌーンティーか。
そのあとの夕食の時間にでもあいつにまた、面白い話をさせよう。

───コン、コン。

「何だ」

───ガチャ。

「ご主人様、お客様です」

ドアの向こうにいたのは赤毛のメイド。

「……通せ」
「承知しました」



「領事様、お目通り叶い光栄です……」

胸に手を当て、恭しく礼をする熊の獣族の男。

「前置きはいい、用件を話せ」

こちらは仕事が残っているのでな。

「はい……どうして、私どもの事業は認可なさらなかったのでしょうか?」
「あぁ……」

あの詐欺同然の。儲けたいという欲望を隠しもせず淡々と述べた挙げ句、店の規模に合わない額の給付金の請求。これに金を払う必要はない。そう判断しただけだ。それをその男に伝えたが、男は一歩も引かなかった。

「どうしてですか?我々は民の為を思って……」

情に訴えかけるようにキラキラとした瞳で俺を見上げる。
厚かましいことこの上ないな。

「……話すことはもう無い。帰れ」
「ですが!」

……しつこい。こんな奴がいるから腐った商売が横行するんだ。
キッと睨むと男の先程までの眼光ははみるみる失われていった。

「……申し訳、ございませんでした」

……やっと熊が帰ってくれた。
あぁ、時間をかなりロスしてしまった。仕事を再開するか。
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