33 / 56
私、とりあえず自分のできることをやってみます(全8話)
6
しおりを挟む
今の私は、長い前髪を前分けにしている。たまに目にかかって鬱陶しい。
「さ、ここに座って」
アナベルが持ってきた銀色のハサミが、前髪に入っていく。
───ザク、ザク。
この音。
村の人たちから受けた嫌がらせの音だ。
あの時は乱暴に髪を引っ張られ、乱雑に、ハサミの先が私に当たるように、髪を切り刻まれたっけ。
……あれ。なにこれ。
体が震えて、変な汗が出る。
「どうしたの?リーシュ」
「な、んでも、ない……」
アナベルは首をかしげ、再び前髪にハサミを入れた。
大丈夫、もう、ここはあの村じゃない。
ぐっと手を握りしめ、終わるのを待つ。
「はい、終わったわよ。後ろの毛も揃えておいたわ」
「ありがとう」
アナベルが渡してくれた鏡で自分の髪を確認する。前髪が目に掛からない程度の長さで綺麗に切り揃えられている。今までずっと長いままだったので新鮮に感じる。むしろ違和感。
「結構似合ってるじゃない」
「……そう?」
しばらく前髪が短くなった私と見つめあっていたら、アナベルが片付けを終え、部屋を出ていこうと立ち上がった。
「……私、仕事に戻ってもいいかしら?」
慌てて私も立ち上がる。
「そ、そうだね、ありがとう」
アナベルの部屋から出て、私たちはそれぞれ別の方向へ分かれた。
……あぁ、そうだ。むしった草の処理を忘れていた。
この広いお屋敷の敷地内、手押しポンプがある反対側の奥の角に焼却炉がある。
最初の方にむしった草はある程度水分が抜けて燃えやすい。
それを片っ端から焼却炉にぶっ込み、燃やしていく。
これが終わったら夕食だ。楽しみ。
無心で焼却炉と向き合っていたら、あっという間に草は無くなった。
*
「ねぇ、アナベル」
「……何?」
私とアナベル以外、誰もいない風呂場。
広々とした湯船に二人浸かっている。
今日は私が風呂掃除の当番。表が脱衣場に貼ってあるのだ。
「アナベルって、何族なの?」
朱色の髪に、尖った耳。耳以外は人間そのものなんだけど。
「……エルフよ。リーシュは?」
クリシュナには誰にも言うなって言われたけれど、これからこのお屋敷で過ごしていくためにどうすればいいか理解するためにも……。
「信じてもらえないかもしれないけれど、私は……人間なの」
「え?!人間ってもうずっと前に……」
「崖から落ちたはずなのに……気づいたらこの世界にいて」
大体の経緯を話してみた。
知らない人に捕まり檻に入れられ、出られたと思ったら行く当てもなく、ふらふらしていたらこの大きなを見つけ、ご主人様と契約してしまったということ。
真名を教えてはいけないということは覚えていたので、クリシュナの名前は出さずにただ『妖精族の女の子』と言った。
「そう……災難ね」
「さ、ここに座って」
アナベルが持ってきた銀色のハサミが、前髪に入っていく。
───ザク、ザク。
この音。
村の人たちから受けた嫌がらせの音だ。
あの時は乱暴に髪を引っ張られ、乱雑に、ハサミの先が私に当たるように、髪を切り刻まれたっけ。
……あれ。なにこれ。
体が震えて、変な汗が出る。
「どうしたの?リーシュ」
「な、んでも、ない……」
アナベルは首をかしげ、再び前髪にハサミを入れた。
大丈夫、もう、ここはあの村じゃない。
ぐっと手を握りしめ、終わるのを待つ。
「はい、終わったわよ。後ろの毛も揃えておいたわ」
「ありがとう」
アナベルが渡してくれた鏡で自分の髪を確認する。前髪が目に掛からない程度の長さで綺麗に切り揃えられている。今までずっと長いままだったので新鮮に感じる。むしろ違和感。
「結構似合ってるじゃない」
「……そう?」
しばらく前髪が短くなった私と見つめあっていたら、アナベルが片付けを終え、部屋を出ていこうと立ち上がった。
「……私、仕事に戻ってもいいかしら?」
慌てて私も立ち上がる。
「そ、そうだね、ありがとう」
アナベルの部屋から出て、私たちはそれぞれ別の方向へ分かれた。
……あぁ、そうだ。むしった草の処理を忘れていた。
この広いお屋敷の敷地内、手押しポンプがある反対側の奥の角に焼却炉がある。
最初の方にむしった草はある程度水分が抜けて燃えやすい。
それを片っ端から焼却炉にぶっ込み、燃やしていく。
これが終わったら夕食だ。楽しみ。
無心で焼却炉と向き合っていたら、あっという間に草は無くなった。
*
「ねぇ、アナベル」
「……何?」
私とアナベル以外、誰もいない風呂場。
広々とした湯船に二人浸かっている。
今日は私が風呂掃除の当番。表が脱衣場に貼ってあるのだ。
「アナベルって、何族なの?」
朱色の髪に、尖った耳。耳以外は人間そのものなんだけど。
「……エルフよ。リーシュは?」
クリシュナには誰にも言うなって言われたけれど、これからこのお屋敷で過ごしていくためにどうすればいいか理解するためにも……。
「信じてもらえないかもしれないけれど、私は……人間なの」
「え?!人間ってもうずっと前に……」
「崖から落ちたはずなのに……気づいたらこの世界にいて」
大体の経緯を話してみた。
知らない人に捕まり檻に入れられ、出られたと思ったら行く当てもなく、ふらふらしていたらこの大きなを見つけ、ご主人様と契約してしまったということ。
真名を教えてはいけないということは覚えていたので、クリシュナの名前は出さずにただ『妖精族の女の子』と言った。
「そう……災難ね」
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる