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私、とりあえず自分のできることをやってみます(全8話)

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今の私は、長い前髪を前分けにしている。たまに目にかかって鬱陶しい。

「さ、ここに座って」

アナベルが持ってきた銀色のハサミが、前髪に入っていく。

───ザク、ザク。

この音。
村の人たちから受けた嫌がらせの音だ。
あの時は乱暴に髪を引っ張られ、乱雑に、ハサミの先が私に当たるように、髪を切り刻まれたっけ。

……あれ。なにこれ。

体が震えて、変な汗が出る。

「どうしたの?リーシュ」
「な、んでも、ない……」

アナベルは首をかしげ、再び前髪にハサミを入れた。
大丈夫、もう、ここはあの村じゃない。
ぐっと手を握りしめ、終わるのを待つ。

「はい、終わったわよ。後ろの毛も揃えておいたわ」
「ありがとう」

アナベルが渡してくれた鏡で自分の髪を確認する。前髪が目に掛からない程度の長さで綺麗に切り揃えられている。今までずっと長いままだったので新鮮に感じる。むしろ違和感。

「結構似合ってるじゃない」
「……そう?」

しばらく前髪が短くなった私と見つめあっていたら、アナベルが片付けを終え、部屋を出ていこうと立ち上がった。

「……私、仕事に戻ってもいいかしら?」

慌てて私も立ち上がる。

「そ、そうだね、ありがとう」

アナベルの部屋から出て、私たちはそれぞれ別の方向へ分かれた。

……あぁ、そうだ。むしった草の処理を忘れていた。
この広いお屋敷の敷地内、手押しポンプがある反対側の奥の角に焼却炉がある。
最初の方にむしった草はある程度水分が抜けて燃えやすい。
それを片っ端から焼却炉にぶっ込み、燃やしていく。

これが終わったら夕食だ。楽しみ。

無心で焼却炉と向き合っていたら、あっという間に草は無くなった。



「ねぇ、アナベル」
「……何?」

私とアナベル以外、誰もいない風呂場。
広々とした湯船に二人浸かっている。
今日は私が風呂掃除の当番。表が脱衣場に貼ってあるのだ。

「アナベルって、何族なの?」

朱色の髪に、尖った耳。耳以外は人間そのものなんだけど。

「……エルフよ。リーシュは?」

クリシュナには誰にも言うなって言われたけれど、これからこのお屋敷で過ごしていくためにどうすればいいか理解するためにも……。

「信じてもらえないかもしれないけれど、私は……人間なの」
「え?!人間ってもうずっと前に……」
「崖から落ちたはずなのに……気づいたらこの世界にいて」

大体の経緯を話してみた。
知らない人に捕まり檻に入れられ、出られたと思ったら行く当てもなく、ふらふらしていたらこの大きなを見つけ、ご主人様と契約してしまったということ。
真名を教えてはいけないということは覚えていたので、クリシュナの名前は出さずにただ『妖精族の女の子』と言った。

「そう……災難ね」
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