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私、早速重要任務を任されてしまいました(全19話)
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指は細くて、繊細な動きをする綺麗な手。指先には、人間ではありえないほどに鋭い爪。
空になったグラスにワインを注ぎ、サンドイッチが乗っていた皿を下げる。
「それでは、食後のコーヒーをお持ちしす」
ご主人様の机の横でお辞儀をして、出ていこうと足の向きを変える。
「……おい、待て」
「はい」
なんで呼び止められたのかな?
コーヒーいれたら帰れると思ったのに。
再びご主人様に向き直る。
「お前は……ここで生きていきたいか?」
「はい。生きていたいです」
死ぬわけにはいかないんで。
「なぜだ」
なぜって……。
「それが、私の両親の教えだからです」
「……はっ」
ご主人様は笑い声をこぼした。
私、変なこといったっけ?
「はは……くだらねぇ」
ご主人様は椅子から立ち上がり、私の前に立った。
「親がそんなに大事か?」
私の両親は、もう私の記憶の中だけにしかいないけど。
「……はい」
「ま、ここに来ちまったからには、もう会えねぇけどな」
この世界に来る前から知ってる。
「それは存じ上げて───っ?!」
ご主人様の手が、私の首を掴んだ。
気道が塞がれる。
息ができない。
大体、こういうときは何を言っても離してもらえない。
だから大人しくするのがいちばん。
幸い足は地面についている。
足が浮けば相手の手を持って首だけに体重がかかるのを分散しなければならないが、今の場合は無理な力を入れてはいけない。
もがいたり、無理に息をしようとしたりすれば体力も使うし、動脈が完全に塞がれてしまったら気絶してしまう。
両手を気をつけの姿勢のまま動かさないで、ご主人様を見つめる。
ゆっくり、様子を観察する。
「……こっちは仕事でイライラしてんだ」
それは見ればわかるけど。
何で急に怒ってるの?
「申し訳……ござ、い、ません」
「ここで殺してもいいんだぜ?」
それは……困るなぁ。
あ、やばい。
朦朧としてきた。
そろそろ離してもらわないと意識が飛ぶ。
離してもらうには……あぁ、ダメだ思いつかない。
うーん、とりあえず褒めちぎろう。
「私は……ここでの生、活に……感動、してるんです……」
「なに?」
ご主人様は眉を潜める。
「ご飯にお風呂……こんなの……初めて、だったんです」
「……」
ご主人様は手こそ話してくれないものの黙って聞いてくれた。
目が霞む。
「私……頑張って仕事、します……ね」
精一杯の笑顔を浮かべる。普段から笑わない私はきっと笑えてなかっただろうなぁ。
───そこからの記憶がない。
エンジンを落としたみたいに、視界が消え、私を脱力感が襲った。
ずるりと膝から崩れ落ちる。
「命乞いしねぇ奴なんて……つまらねぇ」
今までの奴はみんな「殺さないで」「死にたくない」ばっかりだったのに。
『感動してるんです』
首絞められながら何言ってんだバカなのかあいつ。気持ち悪い。
何が両親の教えだ。
そんなの関係なく生きたいくせに、生に執着の無さそうな目をして。
つまんねぇやつ。
まぁ、抵抗したら殺すつもりだったけど。
空になったグラスにワインを注ぎ、サンドイッチが乗っていた皿を下げる。
「それでは、食後のコーヒーをお持ちしす」
ご主人様の机の横でお辞儀をして、出ていこうと足の向きを変える。
「……おい、待て」
「はい」
なんで呼び止められたのかな?
コーヒーいれたら帰れると思ったのに。
再びご主人様に向き直る。
「お前は……ここで生きていきたいか?」
「はい。生きていたいです」
死ぬわけにはいかないんで。
「なぜだ」
なぜって……。
「それが、私の両親の教えだからです」
「……はっ」
ご主人様は笑い声をこぼした。
私、変なこといったっけ?
「はは……くだらねぇ」
ご主人様は椅子から立ち上がり、私の前に立った。
「親がそんなに大事か?」
私の両親は、もう私の記憶の中だけにしかいないけど。
「……はい」
「ま、ここに来ちまったからには、もう会えねぇけどな」
この世界に来る前から知ってる。
「それは存じ上げて───っ?!」
ご主人様の手が、私の首を掴んだ。
気道が塞がれる。
息ができない。
大体、こういうときは何を言っても離してもらえない。
だから大人しくするのがいちばん。
幸い足は地面についている。
足が浮けば相手の手を持って首だけに体重がかかるのを分散しなければならないが、今の場合は無理な力を入れてはいけない。
もがいたり、無理に息をしようとしたりすれば体力も使うし、動脈が完全に塞がれてしまったら気絶してしまう。
両手を気をつけの姿勢のまま動かさないで、ご主人様を見つめる。
ゆっくり、様子を観察する。
「……こっちは仕事でイライラしてんだ」
それは見ればわかるけど。
何で急に怒ってるの?
「申し訳……ござ、い、ません」
「ここで殺してもいいんだぜ?」
それは……困るなぁ。
あ、やばい。
朦朧としてきた。
そろそろ離してもらわないと意識が飛ぶ。
離してもらうには……あぁ、ダメだ思いつかない。
うーん、とりあえず褒めちぎろう。
「私は……ここでの生、活に……感動、してるんです……」
「なに?」
ご主人様は眉を潜める。
「ご飯にお風呂……こんなの……初めて、だったんです」
「……」
ご主人様は手こそ話してくれないものの黙って聞いてくれた。
目が霞む。
「私……頑張って仕事、します……ね」
精一杯の笑顔を浮かべる。普段から笑わない私はきっと笑えてなかっただろうなぁ。
───そこからの記憶がない。
エンジンを落としたみたいに、視界が消え、私を脱力感が襲った。
ずるりと膝から崩れ落ちる。
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今までの奴はみんな「殺さないで」「死にたくない」ばっかりだったのに。
『感動してるんです』
首絞められながら何言ってんだバカなのかあいつ。気持ち悪い。
何が両親の教えだ。
そんなの関係なく生きたいくせに、生に執着の無さそうな目をして。
つまんねぇやつ。
まぁ、抵抗したら殺すつもりだったけど。
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